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Episode2 伝えたいキモチ

「全く、佳子の奴は何も言わずに帰りやがって」


 隣で、楓がぷんぷんと怒りながら歩く。私は苦笑を返しながら、緊張で高鳴る胸の鼓動を何とか鎮めようと努めていた。

 


 佳子に私の気持ち––––楓を好きだという気持ちを伝えた翌日の放課後、私と楓は二人で帰りの道を歩いていた。普段なら佳子もいるのだけれど、今日は居ないから珍しい。

 気を遣ってくれたのかな––––でも、やっぱり三人じゃないと変な感じだ。

 十一月も、もう終わろうとしている。今日は風が強くて、一層寒さを際立たせていた。



「うー、寒いー」

 楓が震える声で呟く。

 真っ黒な髪をショートカットにした小柄なこの子は、昔から暑さは得意だけど寒さが得意では無い。思わずくすりと笑うと、むっとして私の顔に顔を向けた。

「いいよな、寒がりじゃない人はさ」

「私だって、あまり得意な訳じゃないよ?」

 暫く楓は眉を吊り上げていたけれど、ふっと表情を緩めて微笑んだ。

「知ってる」

 その言葉だけで何故か嬉しさが湧き上がって、自然と口元が緩んでしまう。


 私達–––佳子も入れて三人は、お互いに何でも知っている。好きな食べ物も、嫌いな食べ物も、お互いの家族の事も、何だって知っている。

 ––––この胸の中の気持ちを除いて。

 佳子は本当に頼りになる友達、親友だ。だからこの気持ちを話しておきたかった。もしかすると、引かれてしまうかもしれない。女同士で、しかも相手は親友。

 そんな不安もあったけど、佳子はそんな事はしないでこの気持ちを受け止めてくれた。協力してくれる、とも言ってくれた。

 佳子は本当に、本当にいい友達だ。


「あ、そうだ」

 ふと何かを思い出したように、楓が呟いた。

「今度の日曜さ、パーティーやるから」

「え?」

 今度の日曜、何かあっただろうか。暫く考えて、漸く思い出す。

 日曜日は私の誕生日だった。

「おいおい、まさか忘れてたとか?」

 にやにやと、私の顔を覗き込んでくる楓。

 実際この歳にもなると、いやまだ十八歳になるだけだけど、誕生日というものにあまり特別な感情というものが無い。

 でも、二人が祝ってくれるならそれは凄く嬉しいな。


「えへへ」

 思わず楓の右手を握ってしまった。すると楓は一気に赤くなって、驚いたようにまじまじと私の顔を見る。足が止まる。

「ちょ、あ、明美?」

「んー?」

 これぐらいは昔からやって来た事なのに、どうして楓はこんなに赤くなっているんだろう。

 ついつい都合の良いように解釈してしまう自分が嫌になる。

 ぎゅっと左手に力を込める。

 でも、この気持ちが伝えられたなら。もし、結ばれる事が出来たなら。

 でも私にはそんな勇気、無いよ。


「ちょ、あ、明美さーん?」

「えっ?」

 楓の声で顔を上げてみると、あまりに私が手に力を入れ過ぎたので顔をしかめている楓の顔があった。慌てて手を離して、謝る。

「ご、ごめん」

「ったく、本当に明美は……」

 ぷいと顔を逸らして、その言葉の先は無かった。首が真っ赤になっているのが分かる。そして何かをごまかすようにまた歩き始める。


 私は、佳子みたいに勘が鋭いわけではない。でも、この楓の様子にはある種の期待を抱かずにはいられなかった。

 自惚れ過ぎかな。でも、

 確かめたい。

 でも、もし違ったならそこでおしまいだ。

 結局、私には何も出来ないままだ。


「それじゃ、また明日ね」

 いつものT字路で楓が手を上げる。私も「うん」と手を振ってその背中を見送った。

 やっぱり、告白できそうには無いよ。

 この関係を壊してしまうのが嫌だから。

 佳子は何と言ってくれるだろうか。背中を、押してくれるだろうか。

 とりあえず帰ったらメール送ってみようかな、と思った。

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