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Episode16 親友としてのキモチ

 私はどうかしていた。


 佳子を敵だと見なして明美から引き離そうとするだなんて、私はおかしい。本当におかしい。

 私は、どうなってしまったのだろう。


「……間違ってるよ」

 私は、電話の向こうのその子に静かに言う。

 佳子が私達に「親友だなんて思ってない」と言ってから数時間たった深夜。私は暗い部屋で、震える手で携帯を耳に当てていた。

「……もう私はこんな事、しない……佳子は私の親友だ」

 声を荒げる相手の言葉を聞かずに、通話を切って携帯からバッテリーを抜く。


 佳子の言葉は、私の胸に深く突き刺さった。

 あんなに憎らしく思っていたのに、全てその瞬間に吹き飛んでいた。長い夢から目を覚まされた気分だった。

 佳子が私にとってどんなに大切な存在だったのかを思い知らされた。その瞬間、今日自分がやった事の恐ろしさに目が眩んだ。


 明美を誰にも取られたくない。私にはそれしか見えていなくて、大切なものを幾つも見落としていたのだ。 

 明美の言っていた意味が、今なら良く分かる。佳子は私達の近くにずっといて、欠けてはいけない大切な存在だったのに。佳子がいなかったら、私と明美が恋人になることも無かったかもしれないのに。

 私は自分のことしか考えないで、酷いことをしていた。


 私は知っている。いや正確には映画館で明美と言い争って一人街に飛び出した時に話したある人に教えてもらったのだ。

 佳子は、明美が好きだと。

 そしてその人は私にこう言った。「佳子は明美を奪おうとしている」と。

 その言葉で私は正常な判断を失った。明美を奪われたくないと思うあまりにその人と結託をして、お互いの利益の為に佳子と明美を引き離すことに決めた。

 愚かだった。

 本当なら佳子が明美を好きだと知った時点で、私は佳子に謝らなくちゃいけなかったのだ。ずっと、私が明美と付き合うために協力させていたのだから。私に協力している時の佳子の気持ちを考えれば、こっちまで辛くなってくる。

 自分の好きな相手と私が付き合う為に協力する。そしてあの時点で、きっと佳子は明美が私を好きだってことも知っていたに違いない。

 佳子はどんなに辛かっただろう。私達はちっとも気づかないで、ありがとうなんて言ったりして。

 あの頃の佳子がずっと落ちこんでいて、私達が付き合い始めてから頑なに避けようとしていた意味も今ならはっきりと分かる。

 それなのに私は佳子を恨んで、憎んで、奪われまいとして、頬を叩いて、


 いつもそうだ。自分のことは二の次三の次。そうやって佳子はいつも自分を犠牲にしようとする。何も言わずにじっと我慢して、笑って、助けてくれる。


 謝らなくちゃ。

 何度謝っても足りないかもしれないけど、謝らなくちゃ。

 そして伝えなくちゃ。


 あの子は、危険だ。

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