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Episode12 嫌なキモチ

 終業式も終わり、遂に待ちに待った冬休みがやって来た。

 今年の冬休みはいつもの冬休みとは一味違う。私と明美が恋人になってから初めての冬休みだ。今からあまり無い胸が期待に膨らんでいる。


 ……そんな突然の自虐ネタは置いておいて、気分が高揚して落ち着かない終業式の日の夜。私は部屋の布団の上で寝転がって、携帯電話を握り締める。

 冬休みが始まって真っ先にある行事といえばそう、クリスマスだ。クリスマスといえばキリストやら何やらあるけれど、この日本においての世間一般では大体恋人同士で過ごす日、という認識だろう。

 そんな訳で明美を誘おうと携帯をさっきから握り締めているのだけど、何だか勇気が出ない。

「うー……」

 こういう時に自分のいつまでもうじうじしてはっきりしない性格が嫌になる。

 どっちかというと私は……受け? ネコ? だから明美と二人でいると、こちらから何かをするということが無い。キスする時だっていつも明美からだし……。明美だって恥ずかしがりやで奥手なはずなんだけど、不思議だ。


 時刻は既に九時を回っている。明美はいつも小学生かってくらいの時間に寝ているから電話をかけるなら早くかけなくちゃいけない。

「……えーい、ままよ!」

 ついに決心して電話帳を開き、迷わず明美の連絡先を開く。通話ボタンを押して、携帯を耳に当てる。

 ただ電話をかけるだけなのに、びっくりするくらい胸がドキドキしている。

 数回の呼び出し音の後、漸くその声が聞こえてきた。

『……もしもし楓?』

「あ、あけみ?」

『うん、どうしたの?』

 どこか明美の声は眠たげだ。起こしてしまっただろうか。

「えーっと、寝てた?」

『ううん。大丈夫だよ』

 そう言ってはいるが、明美の性格上私を気遣ってあえてそう言ってくれている可能性もあるので、鵜呑みにすることは出来ない。でもそんなやり取りをしていたら話が前に進まないので追求はしないでおく。

 勇気を出して、本題に入る。


「えっ、とその、クリスマスのことなんだけどさ」

『クリスマス? あ、それ私も話そうかなって思ってたよ』

 電話越しの声のテンションが少し上がって、

『今年は誰の部屋にする? 一昨年は楓で、去年は私だったから……順番だと佳子かな?』

「あ、いやそういうわけじゃなくて」


 確かに去年までのクリスマスなら、誕生日の時と同じように三人の誰かの部屋に集まってピザを頼んだりケーキを食べたりと好きなことをやって過ごしてたけど……今年は去年までとは違うのだ。

 恋人と過ごすクリスマスというのを、やってみたいのだ。


「……二人っきりで……どっか行かない?」

『えっ、あ、そっか。で、でも……』

 明美の言いたいことは分かる。これじゃ佳子を仲間はずれにしてるみたいだ、ということだろう。でもやっぱりクリスマスの時くらいは、二人きりで過ごしたい。


『佳子に悪いよ……』

「確かにそうだけどさ……」

 でも、明美はそれを分かってくれないようだ。

 こんな思いを抱いているのは私だけなのだろうか。好きな人と二人きりでクリスマスを過ごす、それがどんなに素敵でロマンティックなことか。

 

 それと明美には言えないけど、私がクリスマスを二人で過ごしたいと言うのには、もう一つの理由がある。いやこの理由があるからこそ二人で過ごすのを提案出来るというか。

 その理由とは、佳子に関するある噂。



 佳子が、鈴音と付き合っているという噂だ。



 ここ最近、あの二人が二人きりでいる姿が何度も目撃されているらしい。決まって鈴音は頬を赤くしていて、二人が手を繋いでいたという証言まである。

 もっともただの噂であって証拠も何も無いし、女の子同士なんだからただ仲が良いということも出来るので冗談半分の噂、といったところらしいが。

 ……そもそも佳子が私達みたいに女の子を好きになるわけないし、鈴音も同様だ。随分勝手な噂だな。一体誰が言い出したんだか……。


 でも確かに、ここ最近あの二人が一緒にいることが異常に多い気はする。この間のテスト返しが終わった帰りの時も、私と明美は二人が一緒にドーナツ屋にいるところを目撃した。……二人は本当に楽しそうで、ここ最近見たこともないような笑顔をお互いに見せていた。

 だから付き合っていないにせよ、あの調子ではきっとクリスマスも二人で過ごすことだろう。だから私も明美と気兼ねなく過ごすことが出来るだろう、ということだ。


「……どうかな?」

『うぅ、でも去年まではずっと三人だったんだし……』

 でも、まだ了承してくれないようだ。

 明美はあの噂のことを知っているのだろうか。もし知らないならばただ私が佳子を仲間はずれにしているようにしか、見えないだろう。

 でもたとえ噂を知らなかったとしても、恋人と二人きりで過ごしたいという気持ちが、ほんの少しでも明美には無いのだろうか。

 それは、少し寂しい。


「明美……私と二人で過ごすの、嫌か?」

『えっいや違うよ! そうじゃなくて一度佳子に話してから……』

「……明美はさ、」


 私と佳子、どっちが大事なの?


 そんな言葉が出そうになって、慌ててこらえた。まるでテンプレのような台詞じゃないか。


「……いや、何でも無い。またかけ直すね」

『ちょっと、楓? まっ』

 ピッ、という電子音と共に明美の声が途中で途切れた。

 一気に罪悪感が押し寄せてきて、溜息を吐きながら枕に顔を埋めた。怒ってるかな、やっぱり。でも、この気持ちを何て説明して良いのか自分でも分からない。

 言うなれば独占欲、だろうか。初めて唇を重ねたあの日から明美を思う気持ちは日に日に強くなっていき、二人きりでいたいと強く願うようになってしまった。誰にも二人きりの時間を邪魔されたくない、と。

 そう、佳子にさえ。


 明美は優しすぎるんだよ。

 佳子は鈴音といい感じなんだからそれでいいじゃん。

 心のどこかに、そんな思いがある。

 でも結局それはクリスマスを明美と二人で過ごしたいと言う私を正当化する言い訳でしか無くて、


「あー!! もう寝る!!」

 考える程に自分が嫌いになっていく。

 携帯を閉じ、床を滑らせて壁際まで追いやる。

 明美とはまた明日、話そう。

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