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第一章~出会い~

 貴方は太陽、全てを照らし、輝かせる光。

 命を与えてくれる光、命を奪う光。

 でも、貴方は私に優しく、時に厳しく接してくれた。

 その暖かい光は、冷たく凍った心を溶かしてしまう。

 私が、絶対に訪れる事の無いと思っていた恋愛を楽しませてくれた。

 子供を孕ませてくれた。

 命の大切さを教えてくれた、命の重さを教えてくれた。

 人の良いところを見せてくれた。

 だけど、人の下劣さをもっと知った。

 貴方が殺されてしまい、私たちも殺されてしまうようになって、自分の、竜人としての立ち位置が嫌いになった。

 なんで私は普通じゃ無かったのか。

 なんで私たちが嫌われなければならないのか。

 なんで私たちが幸せに為れないのかと。

 なんだか裏切られたような仕打ちをされたけれど、スーリヤ……

 私は貴方がそんなことをする人ではないと信じているから。


 君は月。闇の空に浮かび、太陽の光を浴びて輝く月だ。

 所詮、太陽が無いと輝かない月?そんな訳がない。

 君は一人でも輝いていた。

 物静かな雰囲気の中に、何処か、軟らかさと鋭さがありながら、君は世界に愛されていた。

 恋を教えてくれた。

 愛とはなんなのかを気づかせて貰えた。

 子供には色々な魔力が引き込んでいるのだと知り、家族の尊さを分からせてもらった。

 だが、君には済まないことをしたとずっと思っている。

 俺が、お前を裏切るような形で、お前の心を引き裂いてしまったのではないかと、ずっと思っていた。

 結局、俺は誰からも好かれたように、誰からも嫌われていたと言うことだ。

 心残りは一つだけ、息子の大きくなった姿を見てみたかった。一緒に剣の稽古をしてみたかった。一緒に酒を飲みたかった。

 一緒に平和にお前と住みたかったなぁ。



 竜と一緒に男がひとり、泉のほとりで眠っていた。

 太陽の光にあてられ、気持ち良さそうに瞼は閉じられている。

 いつもは侵入者を拒む森だ。人間がいれば尚更に侵入者を許しはしないだろう。

 だが森は拒まない。

 ざわつけば、眠っている青年が起きてしまうと知っていたからだ。

 だが、何故森はこの青年を拒まないのか。

 横たわっている青年の連れている竜がいたから、森はざわつこうとせずに、静かにしている。

 竜はこの“セト”の頂点に君臨する自然そのもの。人間は自然の円環から外れたモノ。

 相容れない中の筈だったが、竜は人を求めている。

 だが、人は竜を求めない。

 このようにして、悪循環が永永く続いていたのだが、この青年には通用しない。

 青年は産まれた時から不思議な子供だった。

 あまり人と接しなかった彼は、話し相手として、動物や植物を選んでいた。

 その様子はさながら神道のようだと、少年は周りから重宝されていたが、堅苦しいのは嫌いな少年は自由を選び、いつしか王宮の騎士団に入隊し、騎士団は竜騎士団と改名、青年は竜騎士を束ねる総長となる。

 総長の仕事は大変なのか、それともただのサボりなのか。青年は暇さえあればこの立入禁止区域で日なたを浴びて眠っていた。




 異変に気づいたのは森に入ってから。

 いつも以上に静か過ぎた森は眠っているのかと思えば、ただ息を懲らすように静かにしていた。

 その静けさが、逆に、心配をかけている事として思わなかったのか。

「……侵入者?にしては大人しい」

 森の最新部の泉に近づく度にその静けさは増していく。

 息が詰まりそうな空気では森達も大変だろうに。

 泉まで足を運ぶ。

 いつもと変わらない世界、光のカーテンがゆらゆらと揺れ、水面は時が止まったように静かだ。

 ただ一点、木漏れ日が焦点を合わせるように大地を照らしている場に、視線が止まる。

「……竜?」

 珍しい、これまでに色々と竜が此処に入ってきたのは見たことがあったが、それは、出生地がこの森だったからだ。

 つまるところ、あの竜も侵入者として扱われる筈なのだが。私は竜に近づくと、死角に入っていたその存在を認識し、目を見開く。

「人……間?」

 何故此処に人がいるのか、いや、驚くべき場所はそこではない。

 人間がいるのに森はざわつく所か、睡眠の邪魔をしないように静かにしている。

 どのような事をしたのかは分からないが、此処は人間の出入りは禁止だ。

 私は青年へと近づき、首筋に手を伸ばした瞬間だった。

「グルルル……」

 首を絞めようとした私に、竜は丸田みたいな首をぶつけようと横殴りに払う。

 咄嗟に避け、傷はつかないが、少し、不可解な疑問が頭に過ぎる。

 一瞬だけ、この人間を殺そうとした時に、森が拒んだ?

 青年を殺してはいけない、そう、言いたいのか?

 竜が体を起こし、睨みつけてくる。

「わかった……君の主人は殺さないよ。約束する」

 お手上げと、両手を上げながら威嚇する竜に近づく。どうやら、竜も意思が伝わったのか、威嚇をするのを止めた。

 双方、引き際を心得ているのか、争いは悪化する前に消え、森林の静けさも正常に戻った。

「静かにしすぎ。普通にすればいいじゃない」

 語りかけるが、森は謙虚さを貫き通す。

 その強情に押し負け、溜め息をはき、私は諦めて泉の中に入った。

 のしのしと岸辺に歩いていく竜は、私を追い掛けるように、泉の中に入る。

「んっ?どうしたの?」

 自分から入って来る竜も珍しい。この泉は、どことなく不思議な力を発しているため、無意識では、入ろうという気持ちさえ起きない。

 そこに在るという認識はしているのに、空気のように見えない景色として消えてしまうのだ。

「アナタ、ニンゲンジャナイ?」

「……うん、そうだよ」

 竜の頬を摩りながら、即決に言う。

「ドウゾクノニオイ、デモ、ゴシュジンサマト、オナジニオイ」

「うん」

「アナタハ、ナニモノ?」

 竜の問い掛けに、頭を振る。

「君には、私達の事を言っても分からない。人の手によって生を育まれた君は、知らなくていい」

 自分との境目を明らかにさせ、隔てるように私は竜を突き放す。

 竜人である私達は双方から怨まれている。

 特別な力には、なにかが引き寄せられるのが世界の原理だ。その力を妬む竜。その力を欲する人間。だが、竜人はどちらも愛したい。相容れない関係はずっと続いているのだ。

「じゃぁ、次は私が聞いても良いかな?」

「ウン、イイヨ」

 ありがとうと頷き、私は口を開いた。




 クスクスと笑う声。

 森に妖精でもいるのだろうか。それとも、木々同士が揺れ動いた時の擦れた音なのかは分からない。

「んっ……ふぁ~あ……」

 重くのしかかってくる瞼を擦って脳みそを活動させる。

 だが、身体は正直なもので、いくら起きようとしても、重圧な睡魔には勝てそうにない。

 俺は立ち上がって、泉が在るであろう場所に向かう。傍から見れば幽鬼のように歩いているのだろうが眠いものは眠い。だから、荒療治だが、一番の方法を実行した。

 ざっぱーん!!

 ブクブクと泉の中に入った俺は浮くことなく、段々と沈んでいく。

 ‥‥‥‥‥‥あれっ?これ、俺死ぬんじゃね!?


 一部始終を見ていた青年の竜と、竜人は目を見開いて驚き、呆けていたが、事態を飲み込んだ竜人は救出に向かった。

 ひと足遅れた竜も救出に向かうが、先手をとられ、竜人の方が先に泉から青年を引き出す。

「ゲッーホッ、ブホッ。ゲホッゲホッ!!」

 寝ぼけながら水に入るのは自殺に等しい。

 救出に来なかったらどうしようなんて事、考えてもいなかった。

 ‥‥‥つまり、馬鹿だ。

「よし、目が覚めた!ありがとうなソーマ」

 息を整えながら自分の竜にお礼を言ったつもりだったのだが。

「‥‥‥」

「‥‥‥」

 二人で見合うこと数秒。ようやく俺も事情が飲み込めたようで。

「人間違いです。ごめんなさい‥‥‥」

 頭を地面に付けながら謝礼をした。

「クルルル!」

 遅れて泉から上がってきた竜に頭を小突かれる。

「おお、ごめんごめん。これからはしっかりと起きるよ」

 頭を撫でながら俺は振り返る。助けてもらったお礼を俺はまだ言っていない事に気づいたからだ。

「君もありがとう。後少ししてたら死んで───ブホッ!?」

 吹いた。身体の中に入った水を、ねこそぎ出し尽くすように吹いた。

「‥‥‥?」

 彼女も俺がなんで吹き出したのかなんてわかっていない。まぁ、当たり前か。

「き‥‥‥君さ、恥ずかしくない?」

「恥ずかしい?何が?」

 彼女の声は平坦に、静かに話す。まるで、元々気にしていないかのようにだ。

 いくら助けてもらった身とはいえ、少しだけ言いたい。

「裸を晒すのは‥‥‥ちょっと‥‥‥」

 直視出来ない俺は、目を反らしながら喋る。

 いくらなんでも、そこは恥ずかしがる場だろ。

「ふむ‥‥私は、貴方のいう羞恥心とやらが分からないのだが?」

 ‥‥‥深読みしすぎだろあんた。

「‥‥う~ん。俺も一応男だからさぁ‥‥‥察してくれ」

 それでも彼女はあまり理解してくれず、無言の圧力が降り懸かって来る。

 ふと俺は思った。

 なんでこの森に人がいるのかと。

 王宮指定が入っているこの森林公園は一般人が入り込んではいけない、立入禁止区域だ。

 知らなかったのなら、尚更注意しないといけない。

「おいあんた。此処は立入禁止区域って知って───」

「知ってるよ‥‥」

「‥‥‥はい?」

「聞こえなかったのならすまない。私は此処が何処で、此処がどのような場所なのかも知っている」

 彼女は着替えながら黙々と、用意していた台詞を読み上げる様に淡々と語る。

「でも、分からないな。貴様が何故そのような事を聞くのかが」

「分からない‥‥?」

「そうだ、此処の森林公園が禁止ならば、貴様が此処に入って来ている事もおかしい。お前に私を糾す道理はない」 彼女の言うことは尤もだ。此処が禁止場所だと、自分だって知っている。

俺だけが特別な扱いを受けている訳でもなく、ただルールを破って此処に入ってきているのだ。

「む‥‥‥確かに、俺が君を糾す道理がないな。じゃぁ、仕方ないっか。俺も人の事を言えないし」

 何故か彼女は俺の言った言葉に驚く。

「珍しいな。反論とかしないのか?」

「んっ?だって君が言っていることは正しいだろ?正論に何をぶつけろって言うのさ?」

 俺は正直に答える。

「だって考えてもみな?君が言った通り、此処の森林は禁止区域だ。王宮が定めたルールを俺も破っているのに、どうやって君を糾せばいいのか。権利を主張する様に俺の立場を出すのは嫌いだ。だから、俺は君に反論をしない。───それにさ」

 近くにいたソーマが頭をこすりつけて甘えてくる。俺は首と頭を撫でると、通常より高い声でソーマは鳴く。

 彼女の目を真っ直ぐに見つめ、周りを見渡しながら。

「俺、この森が好きだからさ‥‥‥」

 ざあっ、と森が騒ぐ。まるで、歓喜に湧くように。森も答えてくれる様に。

 小さい時、此処はまだ禁止区域ではなかった。

 王宮も危険性はないと思っていたのか、この区域も開放の状態で、俺みたいなガキは、簡単に侵入することが出来ただろう。

 だが、昔からこの森は怪談話で噂され、入った人は戻って来られないと、王宮出身の子供の中で広がったこの怪談話は、子供達の間で度胸試しをする者が多々いた。

 森に入り、何処まで遠い距離まで入って行き、木にタッチをしてこれるかの簡単なゲームをして、誰が一番かを競う遊び。俺もそのグループと一緒に遊び、その度胸試しもやった。

 命綱なんて物は無し。この遊びは俺達の間で流行ったが、すぐに終わった。

 この森に入った同年代の子供が一日経っても帰って来なかったからだ。

 俺達の中で、奥まで行った子供は死んでしまったのではないのか?そんな、恐怖に怯えているときに、俺は率先して森に入った。

 ちゃんと腰に命綱を付けてだ。

 俺は中へ中へ、ずっと奥に走りながら友人を探した。声を張り上げ、辺りをキョロキョロと目を回すくらい探し回っていた。

 どれくらい奥に進んだのだろうか。迷子になってしまったかと思って、命綱を引っ張ると、途中から切断されていて、これこそ、命の危機だと悟った。

 しょぼくれた俺は、どんどん深く入り込んで、絶対に帰れない場所に行った時。森の最奥、つまり今、俺が此処にいる場所にたどり着いたのだ。

 自然は良い、どれだけ俺達が成長し、変わっても、この場所はいつまでも変わっていないのだから。

 この泉には今でも主がいるのだろうか?

 迷子になった俺は泉で身体を浄めていた竜に出会った。

 俺が小さかったからかもしれないが、俺のソーマよりも大きく、神々しさを醸し出して水浴びをして、楽しそうに、平和そうに竜は泳ぎ、そして俺に気がついた。

 竜に出会ったら死を覚悟しろって、死んだ両親に口うるさく聞かされてきた。そのためか、俺の感情は吹っ飛んでしまい、もう死んでもいいから、竜に触ってみたいと思ったのだ。

 今を思えば、この時に俺は、人が竜と争うことに疑問を思うようになった。

 俺は泉に近づいて、手を伸ばし、触れてみようとした。すると、敵のように睨んでいた竜は鼻先を俺の手先に触れさせてくれる。 鼻先を撫でている俺を観察する竜と目が合ったが、今でも忘れない目をしていた。

 優しいのに、どこか悲壮感が漂う色。なぜ、君はそんなに悲しい顔をしているのか。そう問いを投げた

 そこで俺の意識は途切れて、気がつけば王都の病院で目を覚ましていた。

 因みに友人は、俺が入って、みんなが俺を視認出来ない程、遠くに行った時、入れ代わる様にひょっこりと出て来たのだと言う。


「この森が‥‥好き・・・か‥」

 俺の話をずっと聞いてくれた彼女は易しく笑う。

「この時間はいつも暇でさ。いつかこの森の主にもう一度会いたくて、何度も来てるんだけど、一向に会えなくてさ」

「‥‥‥会えるといいな。その竜に」

「ありがとう、そうだ、君は明日も此処にいるの?」

 彼女は頷く。

「それじゃあ、俺も明日来るからさ。また三人で話そうな?」 俺はソーマの背中に乗り込む。話し込んでいたせいで、仕事に遅れそうだったからだ。

 ソーマもそれを知っているのか、翼を羽ばたかせ宙に浮く。

「俺の名前はスーリヤ!君の名前は、なんて言うの!!」

 吹き荒れる風によって、聞こえずらく、声を張り上げて言った。

 彼女は上目遣いで、口を開く。

「私の名前は───」

 彼女の声は既に遠くにあり、肝心な所を俺は聞き逃してしまった。

 まぁ明日も会えるのなら、ちゃんと聞こう。

 そう、心に誓って、俺は王宮に戻って行った。




 懐かしい話を聞いた。二十年も前の話だ。

 確かにこの泉に彼は来た。まだ小さかった少年は、今でも真っすぐな瞳をして、子供のようで、大人になっていた。

「スーリヤ・・・」

 私は彼の名前を呟いて笑う。

 彼は明日も来ると言っていた。心臓が早鐘を打ち、早く明日にならないかと待ち侘びている自分がいる。

 そうか‥‥‥私は、貴方が触れてくれた時から、貴方の事が好きになっていたのかもしれない。

 運命の出会いとはこういうことなのかと、初めて私は感じたのだった。

 

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