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二話

 プシュゥゥッ――。

 

 バスのドアが開く時の、独特な音が鳴り響く。市営のバスから降りてきたのは、顔の作りがまったく同じの男女だった。同じと言ってもそれぞれ美少年、美少女と言う感じだ。色素が以上に薄い髪が、太陽の日差しに反射してキラキラと光る。

 

 夏の熱気に当てられて、少女は思わず顔をしかめた。


「あつ~い……セイ、アイス買って」

 

 その言葉に少年は、困ったような顔で振り向く。


「そんな格好しているからだろ?明治維新の時も、そういう服装していた人間はいなかったよ」

 

 少年の言うとおり、彼女の服装はかなり浮いていた。

 

 白と黒が織り交ざった服装は、フリルやリボンがたくさん付いている。いわゆるゴス系の服だ。長い髪と日本人離れした容姿で、精巧な人形と間違われてもおかしくない。

 

 少女は頬を膨らませる。


「むぅ~。だって、今日はこの気分だったんだもん」

 

 なんとも理不尽な拗ね方だった。


「昨日買った半袖の奴はどうしたの?ゴス系の服があったでしょ?」


「それもそうだけど、もっと大切に着たいの!せっかくセイが買ってくれたんだから……」


「えっ、ごめん。最後の方聞こえなかったんだけど?」


「な、何にもない!それよりも早くアイス買ってよ!」


「はいはい……」

 

 顔を真っ赤にして叫ぶ少女を見て、本当に暑いと勘違いした少年はアイスを買おうと歩き出す。と、


「うっひょー、可愛いじゃん」


「なっ、言ったろ」


「ちょっと俺たちとお茶しない?」

 

 頭の悪そうな3人の男が近付いてきた。髪型はどれも一緒で、服装はファッション雑誌からそのまま持ってきた感じがする。どの顔も下心を隠せず、ニヤニヤと気持ち悪くにやけていた。

 

 話しかけられた少女は、露骨に嫌そうな顔をする。その不機嫌さMAXの表情で男たちを見渡すと、苦笑いをしている少年の方へ視線を移す。


「ほら、セイがモタモタしているせいでメンドくさいことになったじゃない」


「ボクに言われてもな。ツキが綺麗だからだろ?」


「きっ!?ば、バッカじゃないの!それを言うならセイだって……ゴニョゴニョ」


「おいっ、無視してんじゃねぇよっ」


 二人の態度に腹がたったのか、無視されていた男たちはさらに詰め寄ってきた。


「兄貴か弟か知らねぇけど、こんなのほっておいてオレたちと遊ぼうぜ」


「そうそう、全部こっちが奢ってやるからさ」

 

 男の一人が少女の肩に手を置いた。少女の眉がピクリと動いたが、男たちは気付く様子はない。

 

 途端、無機質な瞳になった少女は、顔も無表情になって少年を見詰める。


「セイ、ちょっと行って来ていい?すぐに済むから」

 

 その少女の様子に、少年は再び苦笑をする。


「いいけど、誰にも見られないようにね。色々まずいから」


「分かってる。じゃ、行こう」

 

 少女はそう言うと、男たちを引き連れて歩き出した。男たちはこの後の事を考えているのか、ますます欲望丸出しの表情になっていく。

 

 少年は暫くしてその後を尾行する。その尾行のやり方は、まるでプロみたいな方法だった。一定の距離を保ち、見失うかならないかの絶妙な間隔を空けている。景色に同化し、男たちの死角に入り込む。昨日今日で身につけた技術ではない。

 

 少年はふと、看板を見上げた。

 

 ――――媛篠町。

 

 この街の名前なのだろう。下の方に“Welcome!”と表記されてある。


「皮肉な名前だ」

 

 ぼそりと少年は呟く。その声色から、どういう思いが込められているか理解できない。

 

 少女の方を見ると、ちょうど路地に入って行ってる所だった。少年はその路地にゆっくりと続く。

 

 少し奥へ進むと、ちょっと開けた場所に出る。ゴミが散乱しており、そこに三つの塊が転がっていた。


「あらら、また派手にヤったね」

 

 少年は、隅のダンボールに座っていた少女に話しかけた。

 

 少女はちらりと彼に視線を向け、不機嫌オーラ全開で睨み付けてくる。


「だって、こいつら私に触ってきたんだもん」


「がっ……うっ」

 

 腹いせなのか、少女は近くにあった塊を蹴りつけた。いや、塊ではない。それはさっきまで彼女と歩いていた男だった。手足が切断されており、喉が潰れているせいで呻き声しか上げられない。少女を見上げる顔には、恐れと怯えが混ざっていた。

 

 変わり果てた男を見た少年は、気の毒そうに目を細める。


「手足はどうしたの?」


「ちゃんと焼け切ったよ。ちぎれた方も溶かしたし……っていうか、アイスはどうしたの?」


「そんな時間なかったよ」

 

 少年は肩をすくめながら言うと、指と指をパチンと鳴らせた。すると、芋虫のように這いつくばっている男たちの体から、白い炎が勢いよく噴き出す。


「――っ!――――っ!!」

 

 男たちの、声にならない悲鳴が路地に反響する。

 

 最初はもがいていた男たちだが、1分も経たないうちに動かなくなった。それから数分後には、その体さえも消失する。

 

 男たちの最後を見ていた少女は、つまらなそうにそれを見下していた。


「あ~あ。私たちの“ご主人様”は何処にいるんだろう……」

誰か感想ください。

誤字・脱字の指摘も待ってます。

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