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氷の墓標  作者: 水梨なみ
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第5章 仕組まれた闘い(1)

耳が空を切る。足が地を蹴る。身体を巡る血が熱くなる。

戦いの前の心地よい緊張感がラーグを満たしていた。

ラーグはこの感じが好きだった。別に戦いを好むわけではないが、ただ、この高揚感が好きなのだ。身体が熱くなるこの感じが。

そして、ラーグの持つ剣もまた、その剣身を青白く光らせ、戦いを喜んでいるように見えた。

「久々だな」

ラーグは駆けた。獣の咆哮と臭いが辺りを満たす中、猿人に向かって、突進していく。猿人たちは低く身構え、鋭い牙の間から涎を垂らして、赤い眼で獲物を凝視している。

その距離が縮まり、ラーグは猿人に向けて剣を振り下ろした。果物が潰れたような音がし、猿人の首が宙に吹っ飛んだ。後には青い血の異臭が漂う。

それがきっかけだった。

猿どもは血の臭いに興奮し、我を忘れた。獲物をわが手にしようと一斉に襲いかかってくる。

仲間同士でも殺し合いが始まった。

ラーグはかかってくる猿を一匹、また一匹と勇者の剣で叩き切って行く。かかってくる猿を避け、軽く飛ぶと剣を振り下ろす。ブツと肉の切れる音がし、青い血が四散する。それを身を躱して避けた。


「あーあ。すっかり楽しんでるよ」

猿どもの手の届かない高さにふわりと舞い上がったルシアは眼下の戦闘を見つめながら呟いた。

「あれじゃあ、手助けする気にもならない」

もともと高みの見物を決め込むつもりだったのだが、なにか妙な疎外感を感じてルシアは呟いた。

「あの蜘蛛みたいな奴は動かないし、ラーグは楽しんじゃっているみたいだから、俺は完全に見物としゃれこんじゃうよ。まったく」

ルシアはぶつぶつ呟いた。


下では、ラーグがまた一匹、猿を血祭りに上げていた。

断末魔の声が森に響き渡る。

下草には累々と猿の死体が転がっていた。仲間に噛み殺された死体も混ざっているが、大半はラーグに頭をつぶされ、青い血を流すものだ。その中を軽やかに剣は舞い、敵を見逃さず、確実に相手を屠って行く。

肉を引き裂く嫌な音が響き、粘性のある青い血が飛び散るのをルシアは空中から嫌な顔をして見つめていた。

異臭が辺りに漂う。勇者の剣は青い血を命とともに吸いとっていく。

そう、確かに剣は吸っていた。言葉の通りに……。

あれだけ切った剣身には血の痕一つついておらず、一つ命が消える度に鮮やかに剣身が光った。

剣が血に濡れる度、歓喜の声を上げているのが聞こえる。剣はこの瞬間を待っていたのかもしれない。鞘から解放され、血にわが身を濡らすのを……。

ラーグは大きく息を吐き、呼吸を整える。向かってきた猿にまた剣身を一閃させ、命を散らしながら思い出していた。この剣を受けた日。かつて、龍だった男が言った言葉を。


「これは勇者の剣。神々が天空の戦いで造ったという伝説の剣。世界に5本しか存在しない。そして、この紅龍の剣は両刃の剣だ。名は勇者の剣。しかし、その実、血を求める魔性の剣だ。心弱き者持てば、その者の滅びと世界の終わりを招く。気をつけることだ。これは血を地獄を求める。全てを切り尽くすことを願う。全てはそなたの心一つ。魔にも正義にもなろう」

男は剣をラーグに差し出した。

「なぜ、こんな危険なものを封印してしまわなかったのだろう」

剣を受け取りながら、ラーグは尋ねた。この世の司祭と呼ばれる者たちは、人類にとって危ない者はとかく封印したがる。それがこうして5本も存在しているということがラーグには不思議だった。

「その答えは自分で見つけることだ」

男は微笑んだ。

「全ての事柄には意味があるのだから」

ラーグは男を見つめた。男は静かな瞳をしていた。そこにはラーグに対する信頼がかいま見えた。

「私は、そなたにこの剣を譲って良かったと思う日が来ると信じている。これは選ばれし者の剣。選ばれた者にはそれなりの責任と義務がある」

「責任……」

「その意味もいつかわかるであろう。この剣はそなたを助ける良い相手となろう。しかし、忘れてはならない。この剣が両刃であることを。決して忘れてはいけない」

男をまっすぐに見つめて、ラーグは頷いた。いまだ、わからないことだらけだったが、この男はまるで自分の未来を知っているかのような気がした。そして、自分はいま、それを知ってはいけない気もした。

いつかわかる日がくるだろう。この剣を自分が受けた理由も封印されない訳も。

「さあ、行くがよい。そなたの上に剣の幸があらんことを」


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