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氷の墓標  作者: 水梨なみ
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第4章 南の森(3)

「これで最後だ」

確かに最後の蔓だった。その先は、木もほとんど生えていない小さな広場のようになっていた。ラーグは剣を振り上げ、蔓を切り落とす。ルシアは次の呪文を唱えられるように身構えた。

「やっぱり、何も起こらない」

ルシアは深い溜息をついた。

「外側だけ食肉植物で、内部は普通なんじゃないの、案外。なんか俺、余計な緊張でつかれちゃった」

ふてくされた声をルシアは上げる。

「それはないな」

ラーグは即座にルシアの言葉を否定した。

「動物の一匹でも見かけたか?」

少し考えて、ルシアは首を横に振った。

「普通、こんなじめじめした森には、トカゲやら蛇やら虫がいるものだと思わないか?しかし、俺は一匹も見ていない」

「食料がないからじゃない。ここ、木の実の一つもなさそうだ。ラーグの考えすぎなんじゃ」

「こんなに植物があってか?木の汁を餌にする虫がいれば、自然に蛙が出たりするだろう。それを餌にする動物がってぐあいに、生き物がいるはずなんだ、普通は。それがここには一匹もいない。妙だと思わないか?」

ラーグの問いに確かにと思いながら、ルシアは軽く首を傾げる。

「だけど、人のいるところには出てこないだけかも……」

ルシアの言葉は、さっと視線を巡らせ、瞳を細めたラーグに遮られた。

「ルシア」

「なんだよ」

考えを中断されて、不機嫌にルシアはラーグの視線の先を追う。

白い丸い物が草の間から顔を出していた。

「……あれ、何……?」

卵のようにも見えるそれをルシアはじっと目を凝らして見つめる。そして、瞳を見開いた。

「嘘だろう。骨だ。それも頭蓋骨……」

ルシアの呟きにラーグが頷く。ルシアはさっと辺りを見渡した。ルシアの綺麗な顔には恐怖が浮かんでいる。辺りには、白いものが累々と落ちていた。そして、中には明らかに人骨も含まれている。

地面からルシアは目を逸らし、ラーグを見る。ラーグは瞳を細めて何かを考えているのかだまって、それらの骨を見つめていた。

「ルシア。俺はとんでもない間違いを犯したかもしれない」

ラーグの言葉が終わるか終わらないうちに、道の奥の木々がざわざわと音を立てた。

「何?」

ルシアは明らかに怯えていた。恐怖が心臓を鷲掴みにして、息をするのさえ困難だ。

蛇が茂みをかき分けるような音が徐々に大きくなり、そして、右手の木々の間から茶色い細長い棒がぬうっと現れた。

「ひっ」

ルシアはラーグに身を寄せた。

現れた茶色い棒には細かい毛が生えており、硬い皮で覆われている。それは、虫の足とよく似ていた。

「ルシア。俺たちは何本、蔓を切ったか覚えているか?」

「そ、そんなことわかるもんか。それよりあれは何なんだ」

震える声を抑えつけながら、ルシアはできうる限りラーグに身を寄せ、現れた足を眺める。

「散々、切らされたあの茶色い蔓はあいつの巣だったんだ。俺たちはあいつに合図を送ってしまった」

ラーグは腰の剣に手をかけた。

「あいつってなんだよ。あの茶色い足のことか?」

ルシアの問いにラーグは頷いた。茶色い足がもう一本出る。そして、その二、三回曲がっている足の上から、丸い頭らしきものが木々をかき分けるように現れた。

「く、く、く、くもっっ!!」

ルシアの叫びが空気を裂いた。目の前に現れたのは、蜘蛛だった。全長十メートルはあろうかと思われる巨大な蜘蛛の化け物。顔の口らしきところについた鎌のような牙をがちがち鳴らして、そいつはゆっくりこちらにやってくる。足もとでは、地面に転がっていた骨が砕ける嫌な音が立つ。

「それだけじゃなさそうだ」

蜘蛛の足もとには多数の見たこともない化け物が、久々の獲物に涎を垂らしていた。

餌のおこぼれを貰うのだろう。毛むくじゃらな人の子供くらいの大きさのそいつらは、猿に似ていた。二本足で立ち、手には鋭いかぎ爪が生え、目は赤くぎらぎら光っている。

「これを突破しなきゃ、あれの仲間入りだ」

ルシアを背でかばい、さっきの骸骨を目で指して、ラーグはすらりと腰の剣を抜いた。

「嘘だろ。そんなのごめんだ」

あまりの光景に言葉もなく呆然としていたルシアはラーグの声で我に返り、身構える。

「ルシア、自分の身は自分で守れ」

ぐっと腰を落とすとラーグはそのまま剣を構えて、猿の集団に突っ込んだ。


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