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討伐される側のSS級姫、村で平穏を望む

――昼下がりの陽射しがテラスに差し込む。


私は湯気立つオムライスにスプーンを差し入れ、束の間の幸福をかみしめていた。


最難関迷宮を攻略して三日。ようやく“ぐうたら”という名のご褒美タイム――


……のはずだった。


「姫様、最難関迷宮をRTA(リアルタイムアタック)したって噂が村中で流れてるんだけど、本当?」


スプーンを口に運ぶ直前、村長のヴィオラが現れた。いやな予感しかしない。


「なんで攻略したことがバレてるのよ。迷宮の魔女が言いふらしたの?」


「姫様の隣にいるゴスロリメイドが、嬉しそうに村中で話しているみたいよ」


私はゆっくり目を細め、テラスの端で直立不動のオカリナを見る。


「……私としては、姫様の偉業を広め、讃えられるために行っただけです」


「その割には、“誰にも構わず姫様サイコー!”ってはしゃいでたって聞いたけど?」


ヴィオラの言葉に、オカリナのこめかみから一筋の汗がつうっと落ちる。


「……宣伝活動の一環です」


「まぁ、最短かどうかはわからないけど、一日かからなかったのは事実ね。で、本題は?」


私はスプーンを置いた。


「迷宮の知名度が上がって、村の外から挑戦者が増えたの。宿も建てられたけど、その分、治安が悪化してる」


「確かに、今までは犯罪なんてなかったわね」


「それで村人たちが冒険者ギルドを作ろうって言い出したの。登録者だけが迷宮に挑めるようにする。迷宮の魔女にも話は通してある」


「いいんじゃない? あなたのことだから、登録料取るんでしょ?」


「当然よ。こっちも人を出すんだから」


うん、ここまでは完璧。村は潤い、経済も回る。問題があるのだろうか?


「冒険者にはランクがある。最高ランクのSS級には、魔王討伐クエストが自動で発動するのよ」


「……ほう」


「で、今の世の中、魔王はいない。だから――代わりに“魔族の頂点”である姫様が討伐対象になるのよ」


私はしばし沈黙し、ため息をついた。


「要するに、私を討伐する施設を、私の村に建てようとしてるのね?」


「言い方を変えればそうなる。でも問題はそこじゃない。姫様、迷宮攻略しちゃったじゃない。嫌でも冒険者ギルドに加入せねばならないのよ」


「私ってA級くらい?」


「何言ってるのよ。最難関クリアしてるならSSでもおかしくないわ。そしたら姫様討伐クエストが自動で与えられる」


「ヴィオラよ。妾に――自害せよと申すか?」


つい絶望のオーラを漏らす。テラスの花がしおれていく。


「待って待って! 姫様が死んだら私たちも困るのよ! 今の生活、結構気に入ってるし!」


ヴィオラが両手を振って慌てる。


「オカリナ。村人に妾が魔族の頂点だと明かすのは――やっぱり駄目かの?」


「それは……さすがに、パニックになります。姫様は村の善良な守護者の立ち位置ですから」


その割には毎回、絶望のオーラを出しているのだが。


「ならばオカリナよ。ギルド設立の際、妾の名を“登録できぬ仕様”にできぬか?」


「不正登録防止の観点から、難しいです。全員登録必須です」


「ギルドマスターを買収して記録を改ざんするのは?」


「姫様、それはBAN対象です」


「BANされる魔族の頂点って聞いたことないわね……」


この世界、妙に現代的だ。


「ならば、現代的ではなく未来を見据えた冒険者ギルドが必要じゃな」


「と、いいますと?」 


「冒険者ギルドは対魔族用に意思を持つ。じゃが、妾の理想は全種族が共にする世界じゃ。オカリナよ、妾のしもべで秘書はおらぬのか?」


「かつて姫様が滅ぼした街に住んでいたホルンという娘を秘書として働かせておりました。勇者出現時に真っ先に寝返った不届者ですが」


「じゃあ子孫がおるな。奴を勧誘し、冒険者ギルド――|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》のマスターに就任させよう」


「かしこまりました姫様。探して連れてきます」


オカリナは姿を消した。


「ヴィオラよ。オカリナが戻り次第、招集をかけよ。|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》の草案を作って参れ」


「姫様は何をしてるの?」


「妾はぐうたらしたい!」


――姫様、勧誘して参りました。


オカリナが、目がどんよりした少女を連れて現れる。


「早すぎる!」


「思ったより近くの街にいました」


少女は凛としていた。冷たい風をまとった目。だがどこか寂しげで、射抜かれるような強さがある。


「本人ならまだしも子孫ってそんな簡単に見つかるものなのか?」


「裏切り者が出たら抹殺するため、姫様配下となった際にコアに魔力をほどこしていました。子孫でも残っていて助かりました」


少女はぎこちなく前に進み、頭を下げる。


「はじめまして、姫様。わたくし——ホルンの末裔、ホルン・ラインです。どうか、よろしく……お願い致します」


「オカリナよ、洗脳か魅了か?」


「いいえ。姫様の元で働かないか、と聞いたら素直に応じました」


ホルンは力強く目を合わせる。


「姫様。私たちホルン一族は裏切り者の末裔として迫害を受け続けてきました。もう限界です。ならばいっそ開き直って魔族に組した方がマシだと思いました。どうかお近くで働かせて下さい!」


「ならば妾が治める村に|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》という施設を建設する。そこのマスターとして働くのだ。給金も支払うぞ」


「お給金まで!」


「ヴィオラよ、村人に告げよ。妾の加護を受けたい者は、しもべとして登録せよ。しもべは種族問わず争いは禁止。妾にあだなすもののみ敵と認識する。しもべにならぬ者は領内での自由を剥奪。迷宮の使用は禁止」


「わかったわ」


「妾の加護は絶対的な領内の安全じゃ。さらに悩んでいたが、施設内に破格値の病院を建設する。薬剤はプリンセス・サーバンツに依頼。治癒師はこれから探す」


「あとは、ホルンよ。先代を無理やり妾のもとで働かせてすまなかった。許してくれとは言わぬ」


「姫様。どうかお気にせずに! ご先祖様の分まで忠義を尽くしますので!」


「そのご先祖、忠義心0だったがな」


「オカリナ。余計なことは申すな。恥ずかしそうな顔をしておるではないか


「ハッ、申し訳ございません姫様!」


――こうして、新たな日常と混沌が、プリンセス・サーバンツから始まるのであった。


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