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姫様、ぬいぐるみ大作戦

ヴィオラが村長に就任して1ヶ月が経った。


住処に困っていたエルフも住み始め、森の恵みや動物を村に与えてくれるのは私にとってもありがたかった。おかげで商人から買わなくてよくなって、城の台所事情もよくなってきた。


だが、


「城そのものの財政は破綻したままなのよね」


私は書斎で机を人差し指でトントンと叩いては愚痴をこぼす。


「収入がゼロ。今、村からの献上品で食い繋いでいますからね」


オカリナは窓拭きをしながら言う。


「かと言って、私が表に出て働くって姫の威厳に問題ない? エルフが来て料理のレパートリーが増えたとはいってもやっぱりあきるのよ。娯楽もないしなあ」


「本来姫様の生活費は民からの税収で賄うのものです。ですが姫様は民に配慮して一切もらっておりまぬゆえ仕方がないかと。そもそも姫様の仕事は勉学や剣魔法の修練だということをお忘れないよう」


何もしていないとオカリナはグチグチ文句を言ってくる。まるで母親だ。見た目はそんなに変わらないというのに。


「姫様。村人が陳情したいことがあるそうですが城に招いてもよろしいでしょうか? あ、これが陳情書です」


ヴィオラの部下がやって来て聞いてきた。陳情書を読んで私はニッとほくそ笑む。


「明日面会可能時間に来るよう伝えといて」


これは話次第で城にも収入が入るかもしれない。私は拳を握りしめて立ち上がった。


ーーー


「姫様。お久しぶりでございます! メトロと申します」


20歳くらいの青年が頭を下げる。


「挨拶ご苦労。ヴィオラから大体のことは聞いておるが、神を崇拝する像を作りたいとな?」


「はい。俺らの神は姫様です。ですが姫様の美しいお姿は毎日見ることはかないません。是非村の中心に姫様の像を作らせてください」


このメトロという青年の腕はわからないが、どうせ作るならこんなものはどうか昨日あれから作った試作品を見せた。


「フラットよ。昨日お主の陳述書を読み、試しにこんなものを作ってみた。これはただの布の塊ではない。夢幻のぬいぐるみ(ふわふわの使い魔)である。柔らかく、抱けば心を安らげ、疲れを癒す力を持つのじゃ。子供や老若男女、誰でもこのぬくもりを享受できる」


「……見た目がすでに姫様がモデル。なんと可愛らしい」


「うむ、ちなみにじゃが」


私はぬいぐるみを置いて手を合わせると、


『挨拶ご苦労。そなたの今日のラッキーアイテムは、リンゴじゃ』


「ぬいぐるみとやらが喋った! しかも姫様ボイス!」


「気持ち程度ですまぬが、ラッキーアイテムに関わると、運の要素が少しだけ上がる。まぁネタ程度じゃが信仰する楽しみも増えるじゃろう。どうじゃ? 売れるじゃろうか?」


「売れます。正直いつでもどこでも姫様と近くにいられるというのが大きいです」


「問題は作成と魔力の吹き込みじゃ。正直妾ではこの雑な一体を作るのが精一杯じゃった」


「作成は俺がやります! ですが姫様よろしいのですか?」


「構わぬ。利益は其方が7割で良いか?」


「本来であれば姫様が7割では?」


「フッ、妾は利益など求めてはおらぬ。じゃが城にも修繕が必要じゃ。民に求めるのも酷じゃからな」


「なんてお優しい!」


正直、魔力の吹き込みなんぞ握って力を入れるだけだ。秒で終わる。それにこれはオカリナには出来ないだろう。修練だと言えばグチグチ言われることも減るし、資金にもなる。


まさに悪魔の所業だと私は自分の思慮深い知恵に自画自賛していた。


翌日。


「随分作ったのぅ」


箱いっぱいに詰められた、姫様ぬいぐるみを見て唖然とした。


「きっと売れると思い、妻と徹夜しました!」


「いや、畑はどうしたのじゃ?」


「帰ったらやります!」


「そ、そうか。無理せんようにな。では夕方また城に来るが良い」


メトロが出て行った後、箱にぎっしり入ったぬいぐるみを見て、


(これ村人やエルフ全員分以上あるぞ? 過剰生産では?)


そう思いながらも一体ずつ魔力を吹き込み始める。どうやら私にある魔力は膨大らしく疲労感はあまりない。


陰でそんな私を見ていたオカリナは、


「ようやく魔力の鍛錬を。あぁ、魔王様。天から見守って下さい!」


と、ハンカチで涙を拭うのであった。


1週間後。


「また作ったのか?」


箱が増えているのを見て仰天した。


「ハイ。全部飛ぶように売れ、旅の商人がこれは売れる。ラッキーアイテムのお告げシステムがいい。この村以外の者は誰がモデルかわからないけど購入希望者は殺到するからと増産を依頼されました。畑は別の物に譲りまして俺はぬいぐるみ生産に集中できてます。あ、これ姫様の取り分です!」


ずっしり入った金貨の袋を渡されたが、


「これ、ただの内職に成り下がってきてないか?」


と、ぐうたら生活に終止符がうたれようとしていたのであった。


さらに1週間後。


「随分たまっなぁ」


私は金貨が入った袋が増えてきたことに改めて実感する。生産量が落ちつき、ぐうたらできる時間帯が増えてきた。良いことだ。


「姫様。料亭の主とやらが陳述書をヴィオラ様に渡されまして判断を姫様に委ねたいと申してきました」


陳情書を読んで、


「三日後、試作品を持ってくるよう伝えなさい」


新しいメニューとして、ひめさまんじゅうを提供したいと書いてあった。大体想像はつくが魔力を吹き込んで欲しいとなったら大変だ。


「オカリナ。食に詳しい人いない?」


「かつて姫様が滅ぼした街にグルメマスターを名乗る者がおりました。子孫が残っておれば連れて参ります」


基本、かつての私が滅ぼしたところにしか人材はいないのか?


「一応聞くわ。なんで私はその街を滅ぼしたの?」


「カレーという食べ物が辛かったという理由です」


「まさに悪魔姫ね。まぁいいわ。探してきてちょうだい。決して前回みたいな誘拐はしないように!」


「ハッ。お任せを!」


オカリナはすぐさま姿を消したが不安は消えないのであった。

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