表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

捕えられた村長候補

「姫様。村長に相応しいエルフを捕えてきました」


翌朝。目を覚ますと、ベッド脇にオカリナが片膝をついていた。その隣には――縄でぐるぐる巻きにされたエルフの少女が、ぐったりと気を失っている。


「ひっ……!? な、なにこれ!? まさか誘拐!?」


「誘拐ではありません。姫様が求めていた村長候補にふさわしい、知恵と誇りを持つエルフを慎重に確保いたしました」


「確保っていうか……それを誘拐っていうのよ!? 寝起きでこれは心臓に悪い!」


「起きられるまで、ずっとお待ちしておりました」


「やっぱり……。ねぇ、オカリナ、明日から公務は朝九時でいい? あと寝室は立ち入り禁止。マジでホラーだから」


「かしこまりました、姫様」


(時間の概念があるのは初耳だけど……。寝坊できなくなるのは地味にキツいなあ)


寝癖を直しつつ、私は玉座の間へ移動した。


「で、その子、本当に誘拐してきたの?」


「はい。夜明け前に確保しました」


「ご両親が心配してるでしょ!? すぐ返さなきゃ!」


「ご安心ください。このエルフの村は、かつて姫様が腹いせで滅ぼした村です。ご両親はその際に亡くなっております」


「問題しかないじゃない! どう考えても恨まれてるでしょ!? “親の仇”って言葉、知ってる?」


「七百年前のことを細部まで覚えているとは思えませんが……」


「昨日のことのように覚えてるわよ!!」


「さすがエルフ、執念深い種族です。器が小さい」


「むしろ、今まで復讐してこなかっただけで器が大きいって言ってるの!」


こめかみを押す私。過去の私が残した面倒ごとが、また増えたらしい。


「ん、んんっ……」


エルフの少女がぎょろりと目を開け、真っ先にオカリナを指差した。


「どこよここ。あんたが卑劣な罠を仕掛けた誘拐犯ね?」


「ふっ。あんな罠にかかる貴様に問題があるのでは?」


「どんな罠を仕掛けたのよ?」


オカリナが得意げに説明する。


「木に『森で最も美しい者のみ、この鏡を手に取る資格がある』と張り紙をしておきました。手に取った瞬間、ビリビリと魔力が流れて――今の状態です」


「自意識高すぎるでしょ」


「だって美しいのは事実だし。昔はこの国で美女コンテスト一位だったのよ」


私はオカリナを睨みつつ、思わずツッコむ。


「昔滅ぼしたのって村じゃなくて王国みたいなんだけど」


「さほど変わりません」


「規模、違いすぎない?」


その言葉に、エルフは顔をしかめて私を指さした。


「あーっ! 思い出した! その赤い髪、紅い瞳! 犬のウンコ踏んだみたいな顔して私たちの国を滅ぼした、イカれた悪魔姫じゃん!」


確かに、伝説の悪魔姫はイカれていた。エルフの皆さん、ごめん。


「貴様、姫様に向かって何という口の利き方を! 姫様、申し訳ございません。直ちに抹殺を!」


オカリナが剣を振り上げようとした瞬間、私は静かに立ち上がり、絶望のオーラを放った。オカリナの動きがピタリと止まり、周囲にいた者たちも戦意を失う。


「よい。事実ではな。だが、詫びねばならぬ。かつて我が手によりそなたらの国は滅びた。深く詫びる。すまなかった」


「ひ、姫様……?」


私は視線をエルフの少女に向けた。


「そこで頼みじゃ。此度、我は新たな国を一から作っておる。城の周りは森が多く、そなたらの力が必要不可欠。そなたの力と知恵があれば、国は豊かになる。力を貸してくれぬか?」


少女は絶望のオーラに震えながらも、意地を張る。


「断ったらどうするのよ」


「貴様を含め、エルフを滅ぼす。そなたの返事一つで繁栄か絶滅かが決まるのじゃ」


「断れないじゃない! ちなみに何をさせるのよ。戦わせないでね」


「城下町の管理を頼みたい。そなたが有能であればあるほど、発展する」


「ふん。仕方ないわね。どう逆立ちしても、エルフ全員がかかっても、あなたに傷一つつけられないし。過去のことは水に流して協力してあげる。ただし、配下にはならない。協力者よ」


「ふっ。同じようなものだ。構わぬ」


「あと、食べることや住む場所に困っているエルフが多数いる。住まわせて、働かせてもいいわね?」


「構わぬ」


「では、その管理者を引き受ける。私はヴィオラ。姫様の名は?」


星野美苗――と言いかけて、私は言葉を飲んだ。過去の名は消えない。でも、これからは過去の過ちを背負って生きていこうと決めた。


「オカリナ、紹介して差し上げなさい」


「かしこまりました。姫様、この方こそ、魔族の頂点、ミナエ姫様でございます」


――え? まさかの同名だったの?


———


昼前、私は村人たちの前に立ち声をかけた。


「村の皆、集まってくれて苦労をかける」


代表のお爺さんが前に出て問う。


「その件でございますが、昨日のお願いの返事は?」


「そのことじゃが、村の周りは森が多い。相応しい人材を用意した」


私はヴィオラをチラリと見ると、


「ヴィオラよ。姫様から城下町の長に推薦された。文句ある?」


胸を張って自己紹介する彼女に、村人たちはどよめいた。


「おぉ、エルフだ。なんて美しい」


「さすが姫様。環境に配慮なさっている」


だがすぐに誰かがつぶやいた。


「今、城下町って言ったよね? ここって村じゃないの?」


ヴィオラは一筋の汗を垂らしながら私を見る。


「人口15名じゃからな」


「村以下じゃない。どこが城下町よ」


「今後、城下町になる予定じゃ」


その言葉に、村人たちの期待が勝手に膨らんだ。


「姫様、この小さな村を本格的に大きくするつもりだと!」


「ついに本腰を入れてくださった!」


オカリナがぴょこんと前に出て、勝手に熱を上げる。


「当たり前だ愚民ども。姫様の狙いは――世界征服。ここから真の姫を世界へ羽ばたかせるのだ!」


「世界征服? なんかカッコいい」


村人たちはその言葉をそのまま受け取り、士気が最高潮に達してしまったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ