二人の悪魔姫
「姫様。この作品最大のシリアス展開がやってきました。くだらない修練はおやめ下さい」
「今のうちに謝罪会見の修練をしておきましょうって言ったのはオカリナじゃない」
私はため息をついて玉座に座ると、
「姫様の父、魔王様の仇である聖女が住む村を見つけました。滅ぼしにいく許可をいただきたく思います」
父の仇と言われてもパッとしない。
私は勇者とやらに打ち破られた悪魔姫として転生した。要するに打ち破られる前の彼女のことは知らない。
頭がイカれたヤバいやつって呼ばれてたのは、あちこちから沢山聞かされたが。
というか、オカリナから姫様が復活したと昔言っていたのだが、打ち破られてからどれくらい時が流れて復活したのだろうか?
「多分五分くらいですかね」
「復活まで早すぎ! てか、私目覚めたとき誰もいなかったんだけど?」
「多分ですが、勇者目線、悪魔姫を倒したし、遅くなる前にとっとと帰るかみたいな感じだったんじゃないですかね?」
「何その遊びに行ってお母さんが怒る前に家に帰ろうみたいなやつ。てか、オカリナは一緒に戦ってくれなかったわけ?」
「川に洗濯に行ってましたんで。あ、聞いてくださいよ。その時、桃が流れてきたんですよ」
「まぁその話はいいわ。で、聖女がいたのね」
「ハイ。ネタバレを含むので詳しくは、外伝的扱いになった別作品『転生聖女はレベル=年齢だと知らない』を読んで欲しいのですが、魔王様が討たれて数百年、ようやく見つけました」
「離れ小島? 北極? 南極?」
「新都市建設予定の場所から歩いて一時間くらいです」
「ここからでも歩いて二日くらいじゃない。むしろ数百年何で見つけられなかったのよ」
「姫様が毎日のように世界に飛び回って振り回されていたから、それどころじゃなかったんです」
話を聞くと、その時のノリであちこち滅ぼしていたらしいから、この城にいたことが少なかったことが想像できる。
「そんなわけで、この悪魔大元帥オカリナに聖女抹殺の許可をください!」
「そうはいかないわ!」
私は勢いよく立ち上がると、
「魔王なんか見たこともないけど、私の父の仇って設定なら私が恨みを晴らすべきよ?」
「あー、姫様はあの時、『やっとうるさいのが死んだ。聖女ありがとー!』って、むしろ感謝してましたんで、恨みはないはずですよ」
転生前の私、どんだけヤバいのよ。
「でもまぁ危険人物っていうなら私も行くわ。一回見てみたいし」
「そうですね。あれこそ魔王様が死んだらすぐに逃げましたから、姫様は聖女を見たことないはずです」
「じゃあ行ってみよう。聖女の住む村へ!」
「命だけはお助けください村って酷い名前じゃな」
「まさに全力で命乞いをアピールしてます」
オカリナは私をおいて先に進み、
「おい。聖女チセリはどこだ?」
巨大な鎌を見せて村人を脅すと、
「治療院に住んでいます。あちらです」
素直に指をさした。
さらに進むと、「忌々しい治療院」と看板があった。何故忌々しいのかはわからない。外伝を読んでいないからサッパリだ。
「聖女チセリ!」
扉を乱暴に開けると、
「ついにばれたぁ!」
老婆が驚いていた。
「私は杖。私はただの杖」
老婆が持っている杖が独り言を言いながら震えている。
「老婆よ。私は悪魔大元帥オカリナ。無駄な殺生はしない。だから聖女チセリを出せ」
「!?」
しばしの沈黙。
そして老婆は言った。
「聖女チセリは死んだ」
「なにぃ! 折角魔王様の無念を張らせると思ったのに」
悔しがるオカリナだが、私は彼女の背中をポンと叩いて、
「何悔しがっておる。そのお婆さんが聖女チセリじゃ」
「え? 姫様御冗談を。聖女チセリは小娘です。そういえば幼女をつれてました」
「そうじゃ! 私が聖女チセリなわけない!」
「魔王が死んで数百年たってるんじゃろう? 聖女とはいえ人間だし、若いわけなかろう。見ておれ。時間逆行」
私は老婆を闇の力で、老いた要素を取り除くと、私と変わらないくらいの女性になった。
「確かに聖女チセリです」
「バレたら仕方がない。私はあの忌々しい聖女レミットの力を全て把握している。オカリナのレベルは相変わらずぶっ飛んでいるが、おまえはレベル1。あれから成長した私はレベル217。負ける要素がないわ!」
「妾がレベル1じゃと?」
「そうだ! 私は相手のレベルを察知できるスキルを持っているのだ! どうだ。驚いただろう?」
「年齢じゃなくて? レベル?」
「なんだ年齢って?」
「年齢は年齢じゃ。この世に産まれてから何年経っているかのことじゃ。妾がレベル1じゃったらどう考えても時間逆行なる高度な魔法は使えんじゃろう」
「でもおまえは、どう見ても1歳には見えん」
「復活して1年くらいたったかのう。ちなみに妾は産まれてからずっとこの見た目らしい」
「それなら私は何故最初からレベル17だったんだ!」
「知らんが、どうやらお主も転生者みたいじゃな。妾は魂が消滅して復活した。お主は死んだ人間身体に転生して復活した。そんなところじゃないかと」
「レベルを上げで必死に頑張ってきた200年を返せ!」
「知らん! むしろ何故今まで気付かぬ!」
私とチセリが言い争いをしていると、オカリナが
「姫様。どいて下さいませ。この聖女を抹殺しなければ私の気がおさまりません」
巨大な鎌を振り上げると、チセリが慌てて
「落ち着けオカリナ! 確かにあの時、聖女の魔法をよくわからず治癒と進化の魔法を間違えたのは悪かった! しかし、レッドドラゴンをバハムートにし、そいつを魔王を倒してしまったのは事故だ! むしろバハムートに文句を言え!」
「違う。私が怒っているのは、頭がイカれた破壊神の塊みたいな姫様を止められる唯一の方をコメディ要素で殺し、あんなマジでヤバい姫様を私一人に押し付けたことだ! 見てみろ。今は世界は核の炎に包まれた世界よりひどい状況。これはお前のせいだ!」
あー、オカリナって悪魔大元帥だから責任感と暴走する悪魔姫を止められない狭間で苦しんでいたのね。
「オカリナよ。とりあえず、これで涙を拭け」
チセリはオカリナに手渡すと、
「雑巾じゃないか」
オカリナは雑巾をチセリの顔面に投げつけたのであった。
「とりあえず、お前の言い分はわかった」
人間の姿に戻ったラクエルが差し出してきた茶をすするオカリナ。
殺意がないとわかった聖女チセリは、自分に言い聞かせるように、
「私も大変だったの。元の世界では悪魔姫やってたのにこの世界の聖女として生まれ変わって。本当毎日吐きそうだったわ」
「いちいち相手のレベル察知などせず、聖女として生きることを決意したら何も問題なかったけどね」
「そしたら話として盛り上がらないんだから仕方ないじゃない。いい? 聖女は世の中の作品で溢れかえっているわけ。生き残るにはもうとんでも人生送るしかなかったの!」
「そのせいで、私はどれだけ姫様に苦労したか」
茶を飲み干すオカリナ。
「そういう割には、話がわかる方に見えるけど? とても頭の中がぶっ飛んでいるようには見えないわ」
「復活して改心されたのだ。今は素晴らしい統治者になるため厳しい修練にも耐えてもらっている」
そうオカリナが答えると、ラクエルに茶のおかわりを要求した。
「とりあえず、という言い方はダメなんだろうけど苦労かけて申し訳なかったわ。生きるためとはいえ、魔族とはいえ平和を望んだ方を殺した原因であることには間違いない。本当に申し訳ございませんでした」
「申し訳ございませんでした」
頭を深々と下げるチセリとラクエル。
「わかったならいい。これを使え」
オカリナは短剣をチセリに渡した。
「この展開で自害しろというの!? 悪魔なの?」
「悪魔大元帥だが。この件はもういい。次はその脱げないという、聖女の法衣を脱がせてやると言っているんだ。脱げないなら切り裂くしかないだろう」
「私、この聖女の力でご飯食べてるのに。法衣がなくなったら食べていけなくなる。それに異世界とはいえあの時の野心みたいのはもうないわ。どちらかというと、豊かな世界を望んでるくらいだし」
「そうか。お前がそういうならそれでいい。姫様。長々と付き合わせて申し訳ございませんでした」
頭を軽く下げるオカリナ。
「うむ。ならば聖女チセリよ。これは妾からの提案じゃが、近くに新都市を作るから移住せんか?」
「え?」
「ちょうど病院が欲しかったし、忘れがちじゃが、西にある元ナチュラル王国に死霊使いが現れてな。実際対抗手段が少ないのもあるし、奴らの狙いも何もわかっておらぬ。そなたが近くにいると、こき使いやすいのじゃ」
「えぇ、どうしようかな。村に病人や老人も多いし」
「冒険者登録をすれば働いたぶんだけ給金がでるが、そうか。嫌なら仕方ないな」
「給金のためなら、病人や老人も連れていけば問題ないわ!」
「治してから連れてこいよ」




