新都市構想と、仙人
エストレアを城の書斎に呼んで、新都市におけるプリンセス・サーバンツ。いわゆる冒険者ギルドのイメージ図を書かせて、漫画家に清書してもらうことにした。
それにしても、転生者意外といるもんだ。街に一人は必ずいる気がした。
さて、あとは任せて昼寝をしよう。
私は邪魔しないように部屋を出ようとすると、
「姫様、修練のお時間です」
毎度お馴染みのオカリナである。
「一応聞くわ。どんな修練?」
「敵が必殺技を使ったら、それを解説をする修練です。今日は初級、冷や汗をかきながら『あれはまさかっ! あの技の使い手がいたとは!』と、知ってたフリをするところからはじめましょう」
「それ、主人公の私がやる役?」
「姫様は万能でなくてはなりませんので。さぁ早速やりましょう。目標は仲間から『知っているのか、雷電』と言われることです」
「誰よ雷電って。私がそう呼ばれるわけないじゃない!」
オカリナとそんなやり取りをしていると、
「姫様。新都市開発会議のお時間になりました。会議室までお越しくださいませ」
現在、新都市では城と冒険者ギルドしかない。優先順位を決めた施設の建築と人材募集をしなければいけない。といった内容だ。
「病院と宿屋と温泉施設、雑貨屋」
会議室のホワイトボードに次々と書かれる施設名。
「ホルンよ。|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》にて新都市移住希望者でそれぞれの施設で働いてくれる人を募集してほしい」
「かしこまりました」
「ところでオカリナよ。|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》のマスターであるホルンや、村長のヴィオラや元ナチュラル王国王女のフラットといった参加はわかるのじゃが、こいつ、一体誰じゃ?」
テーブルの隅っこながら堂々と参加している見たことのない老人が気になって仕方がない。
「姫様。彼はただの仙人です」
「何で仙人が会議に参加してるのじゃ?」
「なんでも新商品を売り込みに来たそうです」
「仙人である必要がないのでは?」
「食べていくために仙人も働く必要があるそうです」
「仙人も大変じゃな。一応何を売り込みに来たのじゃ? 発言を許すから申せ」
私は言うと、老人はプルプルしながら立ち上がり、
「ワシら仙人協会は、みんなが快適に使える家具を開発しておりますが、食べていくのが精一杯で誰も見てさえくれませぬ。ですが姫様の領地の民は豊かと聞いて、もしかしたら売れるかもと思い、フラット様に賄賂を渡してこの会議に参加させていただきました」
今、仙人のくせに賄賂ってサラッと言ったぞ。
ていうか、仙人協会ってなんだよ。
「フラットよ。賄賂ってなんじゃ?」
「え? あ、いえ。違うんです姫様。これは“お歳暮”です」
「中身は?」
「金貨10枚です」
「完全に賄賂じゃろが!!」
「違います。誠意です!」
「詭弁すぎる!」
私は頭を抱えた。
「で、仙人よ。何を売り込みたい。正直、妾は貴様をただのクソジジイとしか見ておらんぞ」
「雲の上ベッドです」
そう言うと、老人は袖の中から手のひら大の灰色の玉を取り出し、床に置いて、指先で軽く弾いた。
ポワン——。
白い煙が立ち上り、やがてその場にふわりと雲が浮かび上がった。まるで天界から切り取ってきたかのような、柔らかく光る雲。
「……まるで漫画みたいな雲じゃな。メガネをかけた少年が大好きそうじゃ」
「そうです。ハンモックをモチーフにして仙人三百名で開発しました」
「仙人多いな!」
「あと七百名おります!」
「つまらぬギャグはよい。で、試しに寝てみても良いか?」
「どうぞ!」
私は雲に乗ろうとすると、落ちてしまった。
「この雲は心の綺麗な者しか乗れませぬ」
「妾が古の悪魔姫とわかって言っておるのか?」
「ち、違いますぞ姫様! そういう意味ではなく、“心の乱れがない者”という意味でして……!」
老人が慌てて手を振る。
「なら最初からそう言え。で、どうすれば乗れるんじゃ?」
「魔力を少し注ぎ込んでください。姫様ほどの方なら、すぐに雲が懐きます」
私はため息をつきながら、手のひらから少しだけ魔力を流した。
すると雲がポヨンと震え、猫のようにすり寄ってくる。
「……なんか可愛いのぅ」
「でしょう! この“雲獣”は使用者の魔力を覚え、その人専用の寝心地に自動調整いたします。柔らかすぎず、沈みすぎず、そして眠気誘導魔法陣が内蔵されておりまして……」
「寝た瞬間に意識を刈り取る仕様じゃな?」
「まさしく! 名づけて“即眠モード”!」
「ネーミングセンスが最低じゃ」
「さらに、睡眠中は使用者の体から余剰魔力を吸収し、翌朝、自動的に還元してくれる。つまり——」
「寝ながら魔力回復できる、というわけか?」
「その通り! しかも吸収した魔力で雲自体が自家発電するため、夜でもふわふわ浮いたまま! 停電知らずのエコ設計!」
「いや、この世界に停電という概念はないが?」
「そこは雰囲気です!」
「ちなみに希望小売価格はいくらじゃ?」
「金貨五万枚です」
「国家予算より高いわ! 出直してまいれ!」
「そんな! ここでも売れなければ我が仙人協会は潰れてしまいます!」
ドラマの町工場かよ。
「妾を仙人協会へ案内しろ。建て直しをはかるぞ」
城から、北へしばらく飛んでいった森の中に仙人協会と書かれた大きな建物があった。まるで
工場だ。
そして囲むように小さな民家が連なっている。
「集落じゃな」
「ハッ。今まで存在を知りませんでした」
「まぁ仙人を名乗るくらいじゃから堂々とは生活はしないよな」
そんな会話をオカリナをしていると、
「はじめまして、姫様。ワシが仙人オブザ仙人――セン=ニンと申します」
明らかに会議にいた老人と見分けがつかない仙人が現れては挨拶をしてきた。
「……お主が、あのセン=ニンと申すか?」
「姫様、セン=ニンをご存じなのですか?」
「知らぬ。正直、会議にいたジジイと違いがわからぬわ。――しかしオカリナよ、そこは事前に把握しておらんかったのか雷電じゃ」
「迂闊でした……申し訳ございません」
「まぁよい。――で、ジジイよ。お主らは家具を作る集団と聞いたが?」
「はい。我ら仙人一同、魂を込めて手作りで家具を生み出しております」
「それが、金貨五万枚の“雲の上ベッド”とやらか」
「今は――百人乗っても大丈夫なベッドを開発中です!」
セン=ニンがどや顔で胸を張る。
「百人が一斉にベッドに乗る状況って、あるのか?」
「それは……」
「山に引きこもっておるから、現地の需要がわかっておらぬのじゃ」
「では、我らはどうしたら……?」
「お主ら仙人なんじゃろ? いっそ見た目を活かして法の番人でもやったらどうじゃ。『喝!』と言っておるだけで生活できるぞ」
「しかし仙人協会には千人おりますぞ。そんなに必要でしょうか」
「そんなうるさい奴、一人おれば充分じゃ。残り九百九十九人は――全世界の調査員じゃ」
「じ、調査員……?」
「仙人ならなんかできそうじゃろ。世界から有能な人材をスカウトするもよし、名産品を調べるもよし、情勢を調べるもよしじゃ」
「……扱いが雑でございます」
「あと、仙人全員、冒険者登録しておけ」
「せ、仙人は冒険者なのですか?」
「登録せんかったら、誰が誰かわからんじゃろうが! あと文官も欲しい。頭の良い仙人を何名かそっちにうつしてくれ」
「折角最高級のベッドを作ったのに。売れなければただのゴミですじゃ」
「仕方がない。それは妾がもらっておいてやろう」
「ありがとうございます。姫様!」
こうして仙人問題は解決した。
よし。これで妾は最高級のベッドで寝ることができる。これこそ悪魔の知恵じゃな。
と、ほくそ笑むのであった。
だが、しばらくして。
「姫様。雲獣がこの仙人協会の地から離れたくないと申しておりまして」
クラリが報告してきた。
「また妾の昼寝が遠のいたわ……」




