転生アイドル、受付嬢になりたがる
ナチュラル王国を併合して一週間後。
新しい首都の開発が進む中、私はミナエモン城に戻り、今日こそはと昼寝しようとしていた。
「姫様、修練のお時間です」
「ちょ、新国家の計画を練っていたのに!」
「私には昼寝をしているようにしか見えませんでしたが」
「昼寝じゃない。瞑想していただけよ! で、一応どういう修練よ」
「101回目のプロポーズをする修練です。出来ればトラックに跳ねられる寸前がいいですね」
「あれ運転手目線ただの迷惑行為だからね!」
「では修練をしましょう」
「トラックどうやって用意するのよ」
そんないつものやり取りをしていると、
「姫様、ミナエモン村を捨て拠点を変えると聞いたけど本当なの?」
ミナエモン村の村長を任せているエルフのヴィオラが訪ねてきた。
ため息をついて絶望のオーラを少しだけ出す。
「ここは山奥すぎてどこに行くにしても遠いからのぅ」
「でも、村の人たちは心配しています。この土地は姫様と一緒に開いた場所ですから」
ヴィオラの金の髪が、揺れる。彼女の表情には、ほんの少し寂しさがあった。
オカリナが割り込む。
「安心するがいい。この村は姫様のご復活の地として観光地となる。そう。まさにここは聖地となるのよ」
「聖地!」
ヴィオラの目が輝いた。
「ヴィオラよ。職人に命じるがいい。姫様グッズを作れと。温泉施設に置いたらたちまち売れきれ御免になって財政はウハウハになろうぞ!」
「え?」
「そうね! その資金で新都市とミナエモン村を線路で繋げば日帰りで列車で往復できるわね!」
「まてヴィオラよ。お主列車と言ったか!?」
「うん。|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》に、列車男って呼ばれてたって人が来てね。雷の四天王と共にリニアモーターカー?っていうのを開発してるの。でも完成には資金がなくてね」
「リニアモーターカーとか、この村だけ世界観が狂ってるのぅ」
「他の国は食べるのにさえ、困っていましたからね」
「よく考えたらこの村だけ学校だの温泉だの化粧品だの言っていたからのぅ」
「そうですね。私たちも一週間前は他国で畑作って喜ばれてましたからね」
「この村だけ、実はものすごい発展をしているのではなかろうか?」
私は頭を抱えていると、
「姫様。お役に立てるならなんでも言って。なんていったって、ここは聖地になるんだから!」
「エルフってのは聖地って言葉に弱い生き物なのか? まぁなんだ。せっかくだからこの村も改名しよう。なんかあるか?」
「じゃあ聖地カスタネットがいいわ」
そんなわけで、ミナエモン村が聖地カスタネットに変更されたのであった。
ヴィオラがスキップで出ていくと、絶望のオーラを消して、
「オカリナ。新ミナエモン城だけど、この村の無駄に発展している技術が欲しいなと」
「かまいませんが資金がありません。城だけで姫様の溜め込んだ小遣いぶっ飛んでますし」
「オカリナも住むんだから出してくれるんでしょ?」
「え? 嫌ですよ。欲しいものあるんですから」
「じゃあ、オカリナの寝床は物置ね」
「喜んで投資致します! で、どんな技術を取り入れるつもりですか?」
「なんというか、カラクリ屋敷みたいな?」
「無駄遣いじゃないですか。却下します。大浴場や展望台ならかまいません。あと図書館も併設しましょう」
「あと水の四天王に頼んだら水洗トイレ作ってくれそうだよね。炎の四天王には暖炉作ってもらって、土の四天王には立派な庭を作ってもらおう」
「四天王をインフラの業者と勘違いしている気がしますが」
「雷の四天王がリニアモーターカーの開発してるくらいなんだから暇なんでしょ?」
「いや、彼の仕事って悪ガキを怒鳴るくらいしかないからだと」
こうして新城のイメージを漫画家たちに伝えて、イラストを描いてもらい、四天王たちに築城の手伝いをしてもらうのであった。
私はというと新国家樹立に向けての人事や方針を固める羽目になるのであった。
そんな中、|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》のホルンが一人の女性を連れてきた。
「姫様。紹介したい人を連れて参りました」
彼女の背後に立つその人物――どこか見覚えのある顔をしていた。
「姫様?」
ホルンと女性が心配そうに見てくる。
思い出した。死ぬ前テレビで引っ張りだこだった鈴木香澄だ。アイドル顔負けの華やかさと、まっすぐにこちらを見つめる瞳。まっすぐな視線と、整いすぎた微笑み。
かつて画面越しにしか見られなかった「鈴木香澄」が、今は目の前に立っている。
「大丈夫じゃ。で、お主、名は?」
「姫様。はじめまして。エストレアと申します。是非、新都市において私を働かせて欲しいんです」
頭を下げるエストレア。その声には落ち着きがあり、しかし人を惹きつける力が確かにあった。
「新都市で? まだ城の建造しか始まっておらんが」
「この聖地カスタネットには|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》がございますが、新都市にも必要があると思っています。是非新都市にも作らせてください!」
|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》は、今はいわば役場みたいなものと化している。住民登録料を取る代わりに、学校や病院を無料にしている他、仕事を斡旋している。
「新都市にも。か」
「はい。ですがこちらは寄せられた依頼を冒険者に斡旋する方向に振り切りたいと思っています」
「なるほど。依頼登録料で経営を成り立たせるつもりか。てっきりアイドルをやりたいと言い出したらどうしようかと思ったぞ」
そう言うと項垂れるエストレア。
「さすが姫様。全てお見通しなんですね」
「え?」
「私、死ぬ前はアイドルを生業としていました。ですが常にマスコミに監視される生活は嫌なんです。折角この世界に転生したんだから受付嬢やりたいんです!」
「受付嬢ってそんなにいい仕事か?」
私が問うと、エストレアは目をキラキラさせて頷いた。
「はい! だって、受付嬢って……お客様の笑顔を毎日間近で見られるじゃないですか! 私、あのときの握手会とかライブで、皆の笑顔を見て幸せになれたんです! だから新都市の人々にも、毎日ハッピーを配りたいんです!」
「……それ、完全にアイドル時代のノリで言っておるな」
「えっ、違います! 私は……ほ、本当に仕事としてやりたいんです! 毎日笑顔を届けるって、立派な職務だと思います!」
「まぁ良いわ。どっちにしろ新都市にも|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》を置きたいと思っていたからホルンに相談しようと思っていたのじゃ。現地に建設するよう取り計らっておこう」
「ありがとうございます! 姫様」
「ところでエストニア。あのイケメングループとの熱愛報道本当じゃったのか?」
「さすが姫様。私の前世までお見通しとは」
テレビであんだけ騒いでいたら。とは言わない私。
「嘘ですよ。まぁ……迫られて断ったら、逆上されて殺されたっぽいですけどね」
エストレアはあっけらかんと笑った。
その笑顔に、一瞬だけアイドルだった頃の輝きが見えた気がした。
「……やっぱりアイドルって命懸けの職業だったんじゃな」




