王女、やる気のない杖に呪われる
床の亀裂から、白く乾いた指が幾つも突き出た。
やがて、骨の腕、肋骨、骸骨――次々と地上に這い上がってくる。
「骨が……立っておる?」
「白骨兵です。死霊使いが呼び出す最低位の死者ですが、数が厄介です」
オカリナの声が低く響く。
その周囲を囲むように、十体、二十体……いや、数百の骸骨たちが立ち上がっていた。
「クッ。さすがに数が多いぞ!」
私は一歩下がると、
「姫様。勝手ながら我にお任せを!」
私の影から土の四天王が現れた。
ティンカーベル国の件で連れて来ていたのが功を奏した。
「土のシンバル、ここに参上!」
「よし、シンバルとやらよ。死霊使いを倒すのじゃ!」
「残念ながら姫様。私のホームグラウンドは大地の上。ここの床はコンクリート。アウェーです」
「お主、何をしに出て来たのじゃ」
「応援です!」
「帰れ!」
「いえ、せっかくですから応援だけでも――」
「うるさい! 地割れでも起こしてみせんか!」
「むぅ……では、やむを得ませんな」
シンバルが両腕を組み、床に掌を当てた。
その瞬間、鈍い振動が玉座の間全体を揺らす。
「大地、割れよ――地裂波!」
地面を走る地割れの波を発生させ、骸骨たちを弾き飛ばす。
「おおっ、やればできるではないか」
「しかし姫様。死霊使い自身を打ち破らねば永遠に骸骨が復活します」
「多勢に無勢じゃの」
「ミナエ姫。我らも加勢しますぞ!」
シャープが代わりの剣を携えて、兵士と共に骸骨と闘い始めた。
「石盾陣!」
シンバルが地中から複数の石柱を生み出し、盾のように兵士たちを守る。
オカリナも加わり、骸骨たちはどうにかなりそうだ。
ならば私と死霊使いの一騎打ちか。
だが、このすぐに折れそうな剣だけで戦えるのか?
私はもう一度戦っているオカリナたちを見ると、後方で応援だけをしているフラットを見つけた。
「お主は戦わんのか?」
「私、戦ったことがないのよ!」
「この城の宝物庫に光の杖があるらしいから持ってくるのじゃ!」
「はぃ!」
この場から急いで出て行くフラット。
「さて、死霊使いよ。待たせたな。妾が相手をしよう」
私は闇の絶剣を右手に呼び出した。
「そなたの闇の力と妾の闇の力。真っ向勝負じゃ」
「面白い。受けてやろう」
死霊使いは杖を構える。
「あれはなんじゃ!」
「え?」
「隙あり!」
私はよそ見をした死霊使いの頭を剣で殴る。
「くそっ、やはりダメージはそれなりにしか通らんか!」
「悪魔姫、卑怯なり!」
「妾は日頃の修練で『蛾のように舞い、ゴキブリのように逃げる』のスキルを得ているのじゃ」
「さすが姫様です!」
戦いの最中にも関わらず褒めるオカリナ。
「まぁ、闇の力を遥かに上回る闇の力でゴリ押しはきついということはわかった。やはり相反する属性で戦うのが一番じゃな。そんなわけでフラットよ。その光の杖を妾に貸すのじゃ」
私が手を差し出した先には、フラットが両手で杖を持って来ていた。
「姫様。残念ですがそれは出来ません。試しに装備したら呪われていたらしく、外せません!」
「え? 光の杖のくせに呪われてるの?」
「装備したら冒険の書が消えたSEが鳴りました!」
「ならばお主がこやつと戦うのじゃ。ほら、こやつをオカリナやクラリと思って殴れば良い。ストレス発散にもなるぞ。妾が闇属性の防御結界を張ってやる」
「でも大丈夫です。杖が私に語りかけてきます」
「ほう、なんと?」
「『働きたくない。早く帰りたい』と」
「それは完全にダメなやつじゃ!」
「ですがなんか……親近感が湧きます! まるで姫様みたいな」
「湧かすな! 戦え!」
「わかりました! このやる気ゼロの杖と共に、やる気だけで頑張ります!」
「頼もしいような不安なような……まぁよい。そなたに任せた!」
「減速の祝福」
光の杖の先端が青白く光る。死霊使いや骸骨の動きが鈍くなる。だがオカリナたちや兵隊たちも動きが鈍くなる。
「ちょっと、なんで味方にまで悪影響及ぼすのよ!」
「杖にやる気がないからじゃな」
「どうやったら杖ってやる気出すのよ!」
「杖にやる気を出させたことがないからわからぬ。自力でなんとかせい」
「そんな無茶なぁ!」
フラットは光の杖をブンブン振りながら、必死に声をかける。
「ねぇ、お願い! このままだと全滅しちゃうの! 少しでいいから、本気出してよ!」
「面倒くさい杖じゃな」
私はそう言って見ていると、
「姫様。『戦いが終わったらお腹いっぱい食べたい』って杖が言ってるんだけど」
「杖がどうやって食べるのかはわからぬが、かまわんぞ」
フラットが杖に伝えると、杖の先端が眩しいくらいに輝いた。
「神罰の光矢!」
死霊使いに向かって、光の矢が放たれる。まるで魂ごと浄化をするように。
「光魔法最高級の魔法ですよ、これ」
オカリナは唖然として言った。
一瞬で死霊使いは姿を消すと骸骨たちも連ねるように姿を消した。
「よくわからぬが、いきなり終わったのぅ。せめて何故この城を狙ったかきからいは聞きたかったもんじゃが」
骸骨たちが消えたあと、しんと静まり返る玉座の間。
焦げた匂いと、光の残滓だけが漂っていた。
――その光の中で、光の杖がかすかに呟いた。
『……これでやっと、食事にありつける……』
フラットがきょとんと杖を見つめる。
「今、何か言った?」
しかし、もう杖は沈黙していたのであった。




