奪う女王と、守る姫
「勝った気がせんがまぁいいや。とりあえずオカリナ。生捕にせよ」
「ハハッ!」
オカリナは縄で女王をぐるぐる巻きにする。
「あと、魅了のスキルがあるから目隠しせよ。
あと口が達者じゃから口を塞げ。あと何となく四つん這いにしてお尻をこっちに向けろ。刃向かったら蹴り飛ばすのじゃ」
「姫様。なんか変態みたいです」
「妾にそういう趣味はないっ!」
そう言って絶望のオーラを弱め、ペシペシほっぺたを叩くと、目を覚ました。何か騒ぎたいらしいが、何を騒ぎたいのか分からなかった。
「オカリナよ。悪魔大元帥の知識をもって通訳せよ」
「ハッ、姫様!」
「おい。妾がミナエじゃ。悪魔姫と呼ばれている。化粧品の代金を払え」
「ふぬぬぬぬー!(うるさい。こんなことされて払うわけないだろ!)」
「姫様。利子付きで支払うそうです」
「了解した。支払う金はどこにある?」
「ふぬぬぬぬー!(そんなこと言ってねぇ! 早く解放しろ!)」
「金庫は隣の部屋にある。だそうです」
「了解した」
私は隣の小部屋にあった金庫を見つけ持って来ては、
「暗証番号ががわからぬ」
「ふぬっふぬっ!(言うかボケ!)」
「姫様。0573です。」
「!!!(何故通訳できてるのかわからん!)」
暗証番号からして死ぬ前の名前なのか、勤め先かはわからないが入力すると金庫が開いたので、金貨を全部持ち帰ることにした。
「オカリナ。用は済んだ。帰るぞ」
「ハッ!」
「待て。最後にこやつの顔にいたずら書きをし、代金を回収して帰ろう」
「見た目もやる事も五歳児ですよ」
「妾は悪魔姫ぞ。こやつに史上最大の悪夢を見せてやるのじゃ!」
「さすが姫様! 折角なので油性ペンを使いましょう!!」
「手のひらくるっくるじゃな」
私は油性ペンを借りて、女王の目隠しと口を塞いでいた布を外す。
「てめぇらいい加減にしやがれ! ここがどこかわかってんのか!?」
「何故か怒ってるんじゃが」
「代金踏み倒そうとしたくせに生意気ですね。抹殺しましょう」
オカリナは巨大な鎌を振り上げる。
「なめんな!」
女王の目が赤く光ると、空気が瞬間的に歪んだ。
オカリナの体に赤い火花が散り、彼女はぎりりと顔を引き締めた。――それは魅了ではなく、逆に魔力波を跳ね返す防御の走りだった。
「オカリナ、魅了じゃ! 気をつけよ!」
叫ぶより早く、女王の手から黒い霧がほとばしり、床が震えた。
「ふん、アタイのスキル魅了は絶対に防げない! アンタ達は同士討ちするんだ!」
「仕方がないのぅ」
私はオカリナの前で不思議な踊りを舞う。今こそ修練の成果を見せると、オカリナはパタリと倒れた。
「アンタ一体何をした!」
「不思議な踊りは魔力を奪う。そして妾の踊りは一気に全魔力を奪うのじゃ! ちなみに逆再生バージョンで元に戻すことも可能!」
「じゃあ、アンタを魅了してやる!」
「悪魔姫をなめんな。下郎が」
私の目が金色に輝きツノが二本、頭から生えた。まるで化粧をしたように幼い顔が大人びて見える。
そして絶望のオーラが身にまとわれ闇の衣に変化する。
「女王様。これは一体!」
どこからか、ごろつき兵がやって来る。私は彼らを睨みつけると、彼らどころかその先の景色も闇に覆われ、消滅した。
「な、なんなのよアンタ!」
ワナワナ震える女王。
「まぁ座れ。人間の娘だったサキュバスよ」
「なんでアンタ、アタイが人間の生まれ変わりだとわかったのさ!?」
「暗証番号0573。語呂合わせでコナミじゃ。きっと生前の名前じゃろ、もし企業名じゃったら怒られるがな」
「ああ、そうさ。本名は瑞原小波。ある日彼氏に逆ギレされて刺されて、気付いたらこの国の近くにいたよ。この姿になってね!」
おそらく彼女は知らない世界でも自分が食べていくために。
「――仕方なく、男どもを魅了して生きてきたんじゃろう?」
私が言うと、女王はぎゅっと唇を噛んだ。
「うるさい。生きるためにやったんだよ。誰も助けてくれなかった。最初に手を差し伸べてきたのが“ろくでもない男”だっただけさ」
「なるほどのぅ」
私は頷く。
「――女が“楽して金を稼いでいる”って目で、そして、まるで罪みたいに扱うな。私だって好きでこんなことをしてるわけじゃない! 国にいる女もそうだ。身体を売るって簡単な気持ちでは決して出来ない。全てを捨てたからできるんだ!」
コナミは力強く言う。
「この国は元々何もなかった。近隣都市から奪うことしかできない国。罪もない人から奪いにいくなんてやりたくない。この国に笑顔なんかなかった。みんな死んだ顔をして生きて来たよ。それでも生きるために仕方なかった!」
「ふむ」
私は黙って聞く。
「そして私は国を奪った。そして知った。国を生かすために他国から奪うしかなかった前国王の心情を。そして引き続き、男は奪いに。女は水商売。何も変わらないと思ったね」
「お主の心情は理解した。しかし化粧品の代金を踏み倒していい理由にはならぬ。それに金庫にあった大量の金貨。これを使えば多少なりとも民に食べさせることはできるはずじゃ。結局自分のことしか考えてないのじゃ」
「うっ……!」
コナミは顔を歪めた。
図星だった。
「確かに……アタイは、怖かったんだよ」
絞り出すような声で、彼女は続ける。
「国の王になっても、結局“誰も幸せにできない”気がしてさ。だったらせめて、せめて自分だけは贅沢してやろうって。誰にも文句言わせないくらいに、ね」
「それで結局、孤独を選んだのじゃな」
「うるさいな。アンタに何がわかるってのよ」
「妾も似たようなもんじゃ。悪魔の血を持つがゆえに世界中から忌み嫌われ、友を作ることすら難しかった。だからこそ妾は思う――“力”とは、守るためにこそあるものじゃ」
そう言うと、私は金色の瞳を細めた。
闇の衣がゆっくりと薄まり、代わりに静かな温もりが場を包む。
「……どうすれば、取り戻せる?」
コナミの声は震えていた。
「まず、妾に化粧品代を払え」
「やっぱりそこから!?」
「当然じゃ。商取引の基本じゃろうが」
「……チッ、わかったよ。払えばいいんでしょ払えば」
「それともう一つ」
「まだあるの!?」
「この国の再生に付き合え」




