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悪魔姫は、働くたくない

――戦いが終わった。


夜空にはまだ、遠くで立ち上る煙と、焦げた木々の匂いが漂っている。村はかろうじて無事だったが、被害は甚大だった。


「これじゃあ……衣服や食料どころじゃないわね」


倒れた家々や焼け焦げた畑を見渡し、ため息をつく。村人の多くが負傷し、命を落とした者も多い。生き残りは十数名といったところだろうか。


「姫様、人間など食べればいいじゃないですか。衣服も剥ぎ取れば――」


オカリナが相変わらず真面目な顔で提案する。


「ダメよ、そんなことしたら……!」


眉をひそめ、オカリナを止める。


「かしこまりました。ならば城にある姫様のコレクションを売り、資金に変え、調達するのはいかがでしょう?」


「あぁ、あの趣味悪い絵画や石像? 売れるのあれ?」


「姫様のコレクションですが」


(復活前とやらの私、どんだけ悪趣味なのよ……)


とりあえず、それらを売ればしばらく飢えることはなさそうだ。


安心した私は村人たちに挨拶して帰ろうとすると、


「もう村として壊滅しているし、今度襲われたら生き残った者たちでは戦えません」


村人たちは不安げに顔を見合わせる。確かに戦えそうなものは指折りの数しかいない。


「なら、城の近くに新たに村を作るのはどうかしら? 襲って来たら私やオカリナがすぐに対処できるかもだし」


私の提案に、村人たちは歓声を上げた。希望の光が、少しずつ村に広がる。


しかし現実は厳しい。家も店も畑も、一から作らねばならない。今現在だって、明日の食事すら足りない状況だ。


(……城の財を資金に変えても、さすがに無理があるかもしれない)


不安に満ちた顔でオカリナをチラッと見る。


「隠し部屋にはあちこちから強奪した金品や財宝も眠っていますから、それもあればなんとかなるかと思います」


(それがあれば充分ね)


胸の中で決意した。



翌日、オカリナに頼んで旅の商人を呼び出し、城の財を資金に換えた。そして食料を買い、必要なものを仕入れ、村人に与えた。


それから新しい家が建ち、畑が耕され、商人が行き来し、少しずつ村人たちの暮らしが戻っていく。


「姫様、ありがとうございます!」


自然と私を「姫様」と呼び、私の存在を慕ってくれるようになったのだが、


「村人たちが来て姫様に陳情があるようです。玉座に通してもよろしいですか?」


1ヶ月後、オカリナがそんなことを言い出した。


なんだろうと思い、


「かまわないよ」と答えたのだが、


「姫様。つきましてはお願いがございます。普段はいいのですが、村人など魔族に組みしていない者と会う時は威厳のある姫として振る舞っていただきたいのです」


「どうして?」


「失礼を承知で申し上げますが、姫様は見た目子供です。姫様の実力を知らないものはなめてかかってくることもございます。そのような愚民、このオカリナすかさず抹殺してしまうでしょう」


「なるほどね。遺恨を作らないためかぁ」


「何卒ご理解ください」


私は玉座に座り、しばらく待つと村人たちが入って来た。15名。全員か。


「お目通りありがとうございます」


代表者となのるお爺さんが頭を再度下げる。


「ウム。かまわん」


こんな感じでいいのだろうか。村人たちなんかビビってるぞ。子供が泣きそうになっているのを母親が必死になだめている。


実は私から絶望のオーラが全開に出ていて村人たちがオーラにのまれて畏怖していたのだがもちろん気づいているわけなかった。


「で、何用じゃ? 手短に申せ」


「姫様は村の守護者にございます。できましたら村長になっていただきたいのです」


え?


せっかく毎日、村人が採れた野菜を献上してくれたり、オカリナが資金から足りない食料を仕入れて調理までしてくれて、ようやく食っちゃ寝できはじめたのに仕事をしろというのか。


絶望のオーラがさらに深まる。泡をふいて失神する村人が現れたのを見て、我に返る。オーラが少しおさまる。


「そのような雑務、主らで決められないものか?」


「姫様は崇拝的かつ絶対的な頂点です。我らから村長を選出しても誰も耳を傾けないでしょう」


一理あるのはわかる。村長を決めても私に陳情すればいいとなれば、村長をつくる意味がない。


しかし、働きたくないんだよなぁ。


どうしようか困っていると、


「姫様は名も知らぬ村や民をお救いになられたお優しい方、そしてその巨大すぎるオーラ。是非我らを導いてくだされ!」


「考えておこう。明日この時間に来ると良い」


「かしこまりました!」


村人一同、再度頭を下げて玉座を出ていった。


「どう思う?」


深いため息をついて隣に立っていたオカリナに話しかけると、


「素晴らしい絶望のオーラでした。このオカリナ、さらなる忠義に励みたいと思いました」


涙ぐんでいるのは結構だが私が聞きたいのはそこじゃなくてって、


「絶望のオーラ?」


「はい。気づいておりませんでした? こんな感じです」  


微笑むと同時にオカリナからすさまじいオーラを感じる。身体がひりつくのがわかる。この前の村救出でもこんなの感じなかったのに。


「今の100倍くらいでした」


オーラを消して再度微笑む。


感情に左右されるっぽいから気をつけようと思った。


「それで村人の頼みどう思う? できたら断りたいんだけど」


「その前に姫様の最終目標はなんでしょう? 最近は食べて寝てばかりで勉学や剣や魔法の修練を怠っているように見えますが。このままの生活をするなら就任すべきかと思います」


「目標?」


突然そんなことを言われても困る。ぐうたらしたいだけなんだから。多分そんなことを言っても通用しない相手だってのはわかる。


「せ、世界征服とか?」


とりあえず冗談で思いついたことを言ってみた。小学生が私は。


「素晴らしい。さすが姫様です。そんな大志を隠し抱いていたとは。このオカリナ感服致しました! ああ、亡き父君に聞かせてあげたかったです!」


泣き崩れないで。鵜呑みにしないで。


必死に言いかけたが、


「なるほど。それであの村を最初の支配下にするため救出したのですね。今度は力でなく慈愛でもって」


いや、だから衣服と食料をもらいたかっただけ。


「この悪魔大元帥オカリナ。全力を持ってその野望、達してみせましょう!」


おーい。私の話をきけ。


「そう考えると、確かに姫様は村長なぞ小さな器にあらず。全国世界の姫。村の頼みなぞ断ってよろしいかと思います」


「でも村の言うように指導者は必要なのはわかるのよね」


「それでしたらお任せを。このオカリナ。絶対的な中間管理職を連れて参ります!」


「あんたの場合、連れてくるんでなくて拉致してきそうなんだけど」


「そうとも言います! では失礼!」


一方的にオカリナは姿を消した。


って、マジで世界征服目指さないと怒られるやつになっちゃったじゃないの。静かな生活は。ぐうたらな生活はもう終わりなわけ?


――こうして、私のぐうたら生活は、音を立てて崩れていったのだった。


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