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悪魔姫は世界征服より昼寝がしたい!  作者: みずほたる
古の悪魔姫は仕事量が多い
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悪魔大元帥、城を半壊する

農業都市ハーモニカの再興から一ヶ月。


ドタバタしていた毎日もようやく落ち着き、私が決裁しなくても回るようになってきた。


これまでは――


「姫様、修練のお時間です」


「昼寝タイム三分!」


「十分過ぎるほど寝たでしょう。それに今は休んでいる暇はありません! 決裁がこんなに!」


――そんな日々だったが。


「よし、修練まで一時間あるわね。昼寝できる!」


「時間になったらお呼びします」


オカリナが一礼して部屋を出る。


私はふかふかの枕に顔をうずめ、幸せのひとときを味わった。


――その時。


「きゃあああああっ!!」


オカリナの悲鳴が響いた。


(何があったのか知らないけど、オカリナならなんとかするでしょう)


無視して寝ることにした。


ボコッ! バキッ! グシャァァ!


「寝れん!」


私は寝室を飛び出した。


「な、なんじゃこれは!? 城が壊れておる!」


「あっ、姫様! オカリナさんがご乱心で暴れてます!」


「クラリ! 止めるのじゃ!」


「無理です! 私人間ですよ!? あんな巨大な鎌ぶん回す狂人にモップで挑めと!?」


「グルメマスター! お主が行け!」


「無理です! 俺人間ですよ!? あんな目からビーム出してる狂人にフライパンで勝てるかっての!」


「情けないわね、二人とも」


フラットがすっと前に出て、指を突きつける。


「ナチュラル王国王女、フラット=フェルマータ! 悪魔大元帥を止める時が来たわ!」


「よし、行け! オカリナを止めてみせよ!」


「フッ、毎日掃除ばかりで足腰は鍛えられた。今なら行ける!」


「いや、たぶん戦闘には関係ないが……まあ行け!」


「覚悟なさい、オカリナ! そして私と戦ったことを後悔するがいい!」


「いいから早く行け!」


「無理よ! ただの王女が勝てるわけないでしょ!」


「なんなんじゃおまえはぁ!!」


仕方がない。私は絶望のオーラを最高レベルに上げる。


恐怖の空間が周囲一帯を包み込んだ。


「ハッ! 私ったら……何を!」


正気に戻るオカリナ。


だが、すでに遅かった。


「お主が見境なく暴れるから止めた。代償は――ほれ、この有様じゃ」


枯れた花壇。泡を吹いて倒れている三人。


完璧な地獄絵図である。


「申し訳ございません!」


「何をそんなに発狂しておったのじゃ。冷静沈着なお主らしくない」


「これを見て下さい!」


オカリナは髪をかき上げ、頭をこちらへ突き出す。


「よく見て下さい、ここです!」


目を細めてみると――


「……白髪が一本、生えとるな」


「そうです! 生まれて八百年、今までこんなことなかったのに!」


「抜けば良かろう」


「抜いたら増えると漫画に書いてありました!あぁ……美容には気をつかっていたのに……」


この世界にも“美容”という言葉があるのか。


今まで食べることで精一杯だったから、その概念すら薄かった。


それに今の私は見た目こそ女子高生。


死ぬ前の私に比べたら、全然いいじゃない。

――そう思っていた。


まぁ、気持ちはわかる。


給料のほとんどを美容に使っていた時期もある。期待したほどの効果なんて、ほとんどなかったけど。


というか、この世界、美容どころか“湯船”という概念すらないのだ。


身体を洗うとすれば川での水浴びくらい。


最初は信じられなかったが、今ではすっかり慣れてしまった。もちろん石鹸すらない。


食べる物に困らなくなったがゆえの――贅沢な悩み、というやつだろう。


私はそう思い、静かに窓の外を見た。


「薬といえばあやつなんじゃが」


いつも感じる、嫌な予感しかしなかった。




ミナエモン村にある病院。


「シャンプーにボディソープに洗顔? なんだそれ?」


薬師バスクラは不審な顔をして私を見た。


「ようするに身体が髪、顔を洗う薬じゃ。今後は衛生面にも気をつかっていかなければならぬと思ってな。他にもあるが、まずはこの三点セットら欠かせぬ」


「姫様。それで私の髪は復活されるのですか?」


泣きそうな顔をしているオカリナに、


「まぁわからんが、悪化はせんかもしれぬな」


「薬剤バスクラよ。大至急開発しろ! さもなくば殺す」


巨大な鎌を振り上げるオカリナ。


バスクラは涼しい顔で首をかしげる。


「まぁいいけど、材料が欲しい。人喰い草は最低限いるな」


やはりこいつに聞いたのが間違いだった。確かに効果は抜群なのだろうが材料の選択が絶望的に悪い。


「花の蜜とかそういう材料では作れぬのか?」


「そういう生きるのに役に立たないもん作るなら、俺じゃなくて――あいつだな」


「……あいつ?」


バスクラは煙管をくわえ、天井を見上げた。


「アルトっていうダークエルフの女だ。妙に肌ツヤのことばっか気にしててな。薬でも魔法でも、きれいになるって聞くと試さずにいられねぇ」


「なんじゃその、生命力の方向を間違えたようなエルフは」


「腕は確かだよ。俺が昔作った“爆発する湿布”を改良して、“匂うだけで若返る香油”に変えやがった。頭のネジが外れてるが、技術は一流だ」


「匂うだけで若返る……? そんなものが存在するのか」


「まぁ、実際に若返ったやつはいねぇけどな」


「なんの意味もないではないか!」


「見た目のために生きてんだよ、あの女は。おまえらの“美の執念”とやらに一番近い種族だ。美容薬なら喜んで作るだろうさ」


私は腕を組んでうなった。


「ふむ……ダークエルフの美容師、か。なんとも不安じゃが――」


「行くしかありません、姫様!」


目を輝かせてオカリナが立ち上がる。


「そのアルトさんとやら、どこにいるのか!」


「森の南のほう、“影の集落”に住んでる。迷わず行けりゃ三日ってとこだな。ただし……」


「ただし?」


「帰ってこられる保証はねぇ」


バスクラが淡々と言い放つ。


「“影の森”は夜でもないのに真っ暗だ。人間はもちろん、悪魔だって近寄らねぇ。けど、まぁ姫様たちなら……死なない程度には済むだべ」


「なんという雑な励まし……!」


私は額を押さえた。


「よし、行くぞ。目的は美容薬の開発――アルトというダークエルフをスカウトじゃ」


「了解です!」


オカリナは鎌を背負い直し、気合十分で叫んだ。


「美のためなら命など惜しくありません!」


「そういう覚悟はどこで培われたのじゃ……!」


私は思わずため息をつき、窓の外を見上げた。


こうして――八百年生きて初めての“一本の白髪”が、世界の美容革命を巻き起こすことになるとは、この時まだ誰も知らなかった。

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