表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔姫は世界征服より昼寝がしたい!  作者: みずほたる
古の悪魔姫は仕事量が多い
25/42

星降る港と、四天の花火

その日の夕方、ステージ上で市長が豊漁祭り開催の挨拶をすると湧き上がる民衆たち。


潮の香りを含んだ風が吹き抜け、港の波音が太鼓のリズムに溶けていく。


港には赤や金の提灯が吊るされ、風に揺れるたびに、波間にきらめく光が踊る。


子どもたちは屋台の周りを走り回り、焼き魚の匂いと甘い蜜菓子の香りが混じり合って、まるで街全体が一つの宴のようだった。


「姫様。あの屋台に行列ができております。見に行きましょう」


オカリナが興味津々で見に行くと、湯気とソースの匂いが立ちこめていた。


「姫様。何故にフラット王女が焼きそばという物を売っているのですか?」


「ウム。祭りといえば焼きそばじゃからな。試しに作って売らせてみておる。利益の半分をやると言ったらやる気満々じゃ」


「料理を……王女が、ですか?」


「うむ。意外と器用じゃぞ。ほれ、見てみい」


フラット王女は額に汗を浮かべながら、鉄板の上で麺を手際よく炒めていた。


香ばしいソースの匂いが辺りに広がり、客たちは次々と列を伸ばしていく。


「いらっしゃいませ! フラット特製、もっちもち焼きそばですよー!」


「声も張っておるのぅ。悪くない」


「……姫様。なぜかあの行列の半分以上が男性なのですが」


「気にするでない。努力の成果というやつじゃ」


「それ、たぶん“努力”の方向が違います」


「そしてオカリナよ。見るがよい。妾が作らせた浴衣屋じゃ」


私は指をさす。その先には――色とりどりの反物が並ぶ屋台があった。


「おお……!」


オカリナが思わず息を呑む。


布地には金糸で花や波が刺繍され、まるで夜空の星が降り注いだような華やかさだ。


店先には若い娘たちが行列を作り、鏡の前で嬉しそうに袖を広げている。


「どうじゃ。ミナエモン村で作らておる絹と染料を使っておる。軽くて涼しい上に、水にも強い。まさに夏祭りにうってつけじゃ」


「姫様……その発想、完全に商人です」


「商いは国の礎じゃからな」


「……でも、あの店員の方々。妙に露出が多いような……」


「売るための工夫じゃ。目立たねば商売はできぬ」


「だから男性客が集まってるんですね」


「ふむ、経済が回っておるのなら問題なかろう」


二人がやり取りしている間にも、太鼓の音が鳴り響き、夜空が少しずつ群青へと沈んでいく。

祭りは、いよいよ本番を迎えようとしていた。


種族や国の垣根を超えて飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。中央に巨大な焚き火を囲むように輪になって踊っている。


その様子を見ていた私に、西村が声をかけてきた。


「姫様。我々ハーモニカ国民みんな楽しんでおります。それにあの焼きそば。日本でしか味わえないと思ってました」


「それはなりより。是非楽しんでいってくれ。さて――そろそろ頃合いじゃな」


私は夜空を見上げ、満ち欠けの途中にある月を見据えた。


周囲では屋台の明かりが増え、太鼓のリズムも速くなっていく。


「オカリナ。四天王を呼べ」


「ハッ!」


やがて港の中央に、四人の影が並び立つ。


ごめん。名前忘れた。


そんな四人は私の前に跪き、声を揃えて言った。


「姫様の御命により、四天の力を結集いたします」


「日頃の学校での修練。妾に見せてみよ」


私は右手を高く掲げた。


その瞬間、四天王の魔力が港の空へと解き放たれる。


炎が夜空を裂き、水がその軌跡を包み、風が形を整え、雷が火花を散らして――


ドォン!


轟音とともに、空一面に巨大な光の花が咲いた。


赤、青、金、紫――それぞれが四天王の属性を象徴する色で、まるで天の神々が舞っているかのよう。


歓声が上がり、子どもたちは手を叩き、大人たちは涙ぐんだ。


「これぞ妾の国の祭りじゃ!」


私の声に合わせて、再び夜空が爆ぜる。


炎の花火が竜の形を成し、水の花がそれを包み、風と雷が織りなす光の輪が海面に映える。


港全体がまるで昼のように輝き、波間に映る光は、まるで神々の祝福そのものだった。


やがて最後の一発が夜空に咲き、静寂が訪れる。


風に揺れる提灯の音だけが、しばらく余韻のように響いていた。


「まさかこの世界でこんな素晴らしい花火を見る事ができるとは」


西村が感激していたので、


「妾にかかればこの程度、造作もないことよ」


と、私は胸を張った。


「でも……すごいですね。本当に人と魔族とが一緒に笑ってる」


「うむ。これこそ妾の目指す国の形じゃ。誰も争わず、皆が腹を満たし、笑い合う。豊漁も、平和も、すべては努力の果てにあるものじゃ」


「姫様……やっぱり、あなたは立派です」


「ふふ。そう褒められると悪い気はせぬな。――して、西村よ。そなたも楽しんでおるか?」


「ええ。最高です。ただ、ちょっと懐かしくて……」


彼は夜空を見上げた。


その瞳に、打ち上げ花火の残光が映り込む。


「日本の夏祭りを思い出しました。屋台も、浴衣も、そしてこの花火も。まるで、あの頃に帰ったみたいだ」


「そうか……。ならば妾の国は、少しは“帰る場所”になれたのかもしれぬな」


私は小さく笑い、潮風を吸い込む。


遠くでまだ、子どもたちの笑い声が響いていた。


――祭りは夜更けまで続いた。


人も魔も、神すらも、この夜ばかりは同じ空の下で、ひとつになっていた。



翌日。民衆は片付けを終えたのを確認し、


「さて、そろそろ帰るか。市長、世話になった」


「とんでもございません。姫様がいてこその祭りでした」


挨拶を交わすと、クラリが慌ててやってきた。



「姫様、ハーモニカ国民が陳情しに来てます!」


「なんじゃ、今度は何を言い出した?」


「はいっ、内容は――“ハーモニカ国民全員、この祭りに感動し、姫様の領地に移住したい”とのことです!」


「はあ!? 全員!? あんたらの国、空になるじゃないの!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ