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悪魔姫は世界征服より昼寝がしたい!  作者: みずほたる
古の悪魔姫は仕事量が多い
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勇者、討伐失敗につき就職する

「よくぞ来た勇者とやら。次のレベルまで10の経験値が必要じゃ。そなたの冒険を記録するか?」


玉座に座っている私は、目の前に立つ勇者を見渡す。


彼は白銀の鎧を身にまとっているが、肩や肘のあたりは少しサイズが合わず窮屈そうだ。


光を反射して眩しいが、防御力に長けているわけでも、何か特別な耐性を持っているわけでもない。大剣も重量感に欠け、村人が使う鍬の方が強そうに見えるほどだ。


「何ふざけたことを言っている。世界征服を企む悪魔姫め。あちこちの街や村を見てきたが、今まであんな村は見たことがない!」


勇者は大剣をぎこちなく構え、少し汗ばんだ額を手でぬぐう。


「村人はみんな一生懸命働き、労働の後はおなかいっぱい食べて、いっぱい寝る。争いはなく笑顔で暮らしてるじゃないか!」


うーん……見れば見るほど弱そうな剣だ。


村人が使う鍬の方が役立ちそうだと心の中で思う。


それでも声を落ち着けて言った。


「それのどこが悪いのかわからぬ」


「なんで悪魔姫の統治する村が、なんで我が祖国ハーモニカよりも豊かなんだ!? 悪魔姫が統治するなら普通は荒廃しているだろう! 人間が奴隷のように死ぬまで働かされているはずだ!」


「知らぬ。それよりも勇者よ。村で食い逃げをした罪で今ここに連行されている自覚はあるか? 言い訳の仕方によっては、貴様は討伐しようとする悪魔姫より下衆な存在になりえることをわきまえよ」


勇者は大きく息をつき、鎧の胸当てを押さえながら言った。


「王が16歳になったばかりの俺を強引に城に呼び出して、悪魔姫討伐を指示しておきながら、金貨50枚と銅の剣しかくれなかったんだから仕方がない!」


「それこそ知らぬわ。冒険に出たらモンスターを倒し、経験値と資金を貯めながら進むのがRPGのテンプレではないか」


「ピアニカ領内に入ってからモンスターが襲って来ないんだ。むしろ、街や村で人間と仲良く暮らしていた。そんな笑顔のモンスターを倒せるわけないじゃないか!」


「ピアニカ領はすでに妾が治めとるからな。種族問わず共に暮らすのがモットーじゃ」


「だから資金が貯まる要素はなし。食べ物や宿やらで資金が減る一方だったんだ!」


「ふむ。とりあえず飯屋で食った分、働いて返済することじゃな」


「働いて返済したら、貴様の首を取りにくるからな!」


そう叫びながら勇者は、よろよろと鎧をきしませながら城から追い出されていった。


「姫様。よかったのですか?」


隣に立つオカリナが、微かに緊張した声で問う。


「もちろんハーモニカとかいう国だったっけ? 苦情の書状を送るわ。あんたのところから来た勇者が私の村で食い逃げをしたんだけど、どういう教育してるの?って」


「素晴らしい判断です、姫様」


オカリナは目を細め、くすっと笑った。


「それにしても、勇者って思ったより弱そうだったわ」 


「姫様が強大すぎるのです……」




数日後、勇者はエプロン姿のまま現れた。 


鎧よりも村作業用のエプロンの方が防御力や耐性に優れているのは黙っておこう。


「働いてちゃんと返済してきたぞ。覚悟することだな!」


大剣をぎこちなく構える勇者を見ながら、私は冷静に指示する。


「オカリナよ。例の書状を勇者に見せてやれ」


「ハッ!」


オカリナは勇者に書状を差し出す。


「勇者の地位を剥奪だと! 王は血迷ったのか?」


「あと、うちの者が迷惑をかけてすみませんでした、という金品財宝を送ってきたぞ」


私はハーモニカ王から届いた金品財宝を見せると、勇者は思わず目を見開いた。


「こんな金品財宝、どこから!」


「民衆から巻き上げたに決まっておる。普段からそんなことしているから、妾の領地より貧しいのじゃ。で、どうする? 妾を討伐したいなら相手するが、妾としては勇者が相手ならやる気は出るが、相手が民間人ならただのイジメじゃからなぁ」


勇者は大剣を床に置き、肩で息をついた。


「俺にはもう戦う理由がない」


オカリナはハンカチで目元を押さえ、感嘆の声を漏らす。


「姫様さすがです。戦いもせず相手を降参させるとは!」


私は無表情で玉座から立ち上がり、勇者に問いかけた。


「ところで、勇者の地位を剥奪された者よ。名は何という?」


「西村武丸と申します」


「え? 日本人?」


「元ですが。暴走した車にはねられて死んだら神に同情され、この世界に生まれ変わりました。生まれてから知識や運動経験は元のままだったので幼少から神童と呼ばれ、国から勇者として扱われてきました」


「なるほどのぅ。ちなみに死ぬ前は何の仕事をしていたのじゃ?」


「米農家を営んでおりました」


私は目を輝かせそうになったが必死に抑えた。


「ならば米農家としてここで働く気はないか? 足りない人手は村にいる|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》で募集しよう。きちんと生産した分は支払うぞ」


「かしこまりました。寛大な御心に深く感謝致します」


「問題は土地じゃが、肥沃で広大な大地なんか妾の領地にあったかのぅ」


私は考える。いかんせんここは山奥。


「姫様。私たちが再会したあの場所なら適任かもしれません」


オカリナは誇らしげに言う。


私が悪魔姫として生まれ変わり、最初に向かった村だ。変化がなければ廃村のままのはずだが、確かにここよりも農業に適している。


あの村まで街道を作れば発展も早いし、地元に帰りたい村人も喜ぶだろう。


「よし、そこに新たな村を」


私が言いきる前に西村が遮った。


「姫様。肥沃で広大な土地があります」


「一応聞こう。どこじゃ?」


「我が祖国だったハーモニカです」


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