姫様、大元帥のネーミングに絶望する
「姫様。22話にして国や城や村の名前を決めていないことに気づきました」
いつもの城に戻ってきた翌日。
「お魚を咥えたドラ猫を追いかける修練」をしていた時にオカリナが思い出したように話しかけてきた。
「むしろ今までよく読者と意思疎通できてたわね」
「読者というのがよくわかりませんが、この際決めてみてはいかがでしょう?」
「私、ネーミングセンスないからなぁ」
「ならばこのオカリナにお任せを! 悪魔大元帥の名をかけて姫様に相応しい名前を考えます!」
オカリナは意気揚々と姿を消した。
三日後。
久々に昼寝をしていた私を叩き起こしてきたオカリナが、
「姫様。いい名前を思いつきました。まさに姫様にふさわしい国名です」
寝ずに考えたのであろう。うっすらと目の下にクマができている。
「その名も、毒舌貧乏帝国です! まさに姫様に相応しい名前だと思いませんか?」
「思わないんだけど。ただの悪口じゃない。しかも酷いネーミングセンス!」
「申し訳ございません! ついだんだんと面倒くさくなりまして、最後はやけくそになりました!」
なにそのテスト問題でとりあえず空欄埋めておけみたいなやつ。
「申し訳ございません! 本当はルミナリア王国にしたかったんです。光が民を照らすって意味です」
「恥ずかしいのと、舌噛みそう」
「はい。名前をつけるって難しいですね」
二人で頭を抱えていると、
「やっとついたわ。早くこのガラスの靴を脱がせて。一週間休むことなく走らされたんだから」
ヘロヘロを通り過ぎて死にそうなフラットが扉を開けて走ってきた。
「忘れてたわ。ほぃっ」
私は絶望のオーラを開放し、指をさすと、ガラスの靴が消えた。
「本当死ぬかと思ったわ。トイレの時すら走らされるのよ」
「ふむ。お主の苦労話は外伝かスピンオフでやるとして、五分間、特別に休憩をとらす」
「そこは今日はゆっくり休めじゃないの?」
「今、オカリナと国や城や村の名前に苦悩してるのじゃ。お主も会議に参加せよ」
「国? どこの国よ」
「ここの国や城や村じゃ」
「ミナエモン領のミナエモン城のミナエモン村じゃないの?」
「え?」
「これに書いてあるわ」
フラットはドレスからクタクタになったパンフレットを取り出すと、
「本当じゃ。いつの間に!」
そこには、「ようこそミナエモン領へ!」「ここが姫様が住むミナエモン城だ!」「ミナエモン村の絶対おすすめなランチ!」などと書かれていた。
「誰が決めたのかは知らんが、決まっていたのなら仕方がない。このままでいこうではないか」
「さすが姫様。寛大な御心です!」
「いや、毒舌貧乏帝国よりはマシと思っただけじゃ。正直、妾としては名前よりも中身じゃからな。ミナエモン村の拡大はもちろん、漁業都市ピアニカも今後発展させなければならないしのぅ」
「ピアニカを統治する人材も早急に決めなければなりませぬ」
「そうじゃなぁ。よい者を抜擢せねば、民が混乱する。オカリナ、推薦できる者はおるか?」
オカリナは地図と資料を広げ、指を走らせながら考える。
「漁業都市ピアニカなら……まずは漁師や港の管理者ですね。あとは交易や治安も必要です。信頼できる者を選ぶなら、村出身で民に慕われている者が最適かと」
「なるほど。漁業の心得がある者か。村出身で民に慕われている……」
フラットが首をかしげる。
「姫様、でもそういう人材ってすぐには見つからないんじゃ……?」
「見つからぬなら育てればよい。即戦力が理想じゃがのう」
私は地図を指さし、目を輝かせる。
「ピアニカ港は拡張し、交易路も整備する。ミナエモン村と港を結ぶ街道も造る。港周辺には市場を開設し、民が安定して暮らせる環境を整えるのじゃ」
「姫様……さすがです。指示が的確すぎて、何も言えません」
オカリナは控えめに微笑みながら付け加える。
「そして、港には灯台も必要です。夜間でも船が安全に着岸できるように」
「よし、まずは港の設計図を描き、漁業と交易の管理体制を整えるのじゃ」
フラットが小さく息をつきながら、地図の隅を指さす。
「姫様……この計画、全部一人で指導するの?」
「嫌じゃ。プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》のマスターであるホルンにそれぞれ適正な人材を用意してもらうのに決まっておろう」
「姫様は何を?」
「妾はベッドでゴロゴロしながら報告を待つのみじゃ」
「またまた。そう言って隠れて修練をなされるつもりですね?」
「え?」
そんなわけないと言おうとしたが、オカリナの視線がなんか厳しい。
そして、咳払いをついてから、
「よし、まずは漁業都市ピアニカの基礎を築く! 次に、ミナエモン村を発展させる計画じゃ。妾が陣頭指揮をとろう」
オカリナとフラットは少し緊張しつつも、頷いた。
「姫様、民の笑顔が目に浮かびます……」
「うむ、妾も見たいのぅ。妾の導きで、ミナエモン領が真に豊かな国となる瞬間を」
こうして、国名や城名、村名が決まったことで、物語は新たな章へと進む。
次は漁業都市ピアニカとミナエモン村を舞台に、民と姫の交流や発展の物語が始まるのであった。
一方その頃、ミナエモン村に足を踏み入れた男がいた。
「ここがミナエモン村。悪魔姫が統治してるって聞いていたわりにめっちゃ平和そうなんだけど。ああ、腹が減った。でも金がない」
そう呟いたが、目はまだあきらめていない。
「いや、きっと裏では悪事が横行してるに違いない。そいつらを助けて食事と寝床を提供してもらうぞ!」
気持ちを切り替えて、一呼吸する。
「世界の平和のために白銀の勇者が悪魔姫を討伐する!」
買い物帰りの女性を見つけ、
「おい。俺は勇者だ。悪事を働いている奴はいないか?」
「おりませんよ? ここは姫様が守護されまてますので、そんな人いませんよ」
「そ、そんな。それじゃ飯にありつけれないじゃないか」
そう絶望すると、いい匂いがした。どうやらあの食堂からのようだ。窓から覗いてみるとゴブリンがシェフをしているようだ。
これは悪の匂いがする。
勇者は、たこ焼きの匂いと悪の匂いを間違えて入店するのであった。




