メイド、帝王に共食いを提供する
「確かナチュラル王国の元王女様。今は没落して姫様のメイドだったかしら? 名前は忘れたわ。ごめんなさい」
病院の休憩室に行って医師フルートに会うなり失礼なことを言われたがフラットは怒るのを我慢して、
「元じゃなく現役の王女フラットよ。今は仕方なく働いているだけよ」
「それでフラットさん。私に何か用? 診察で忙しいのよね」
「舞踏会に行くためのドレスや靴、ティアラなんかあったら貸してほしいのよ。姫様たちを出し抜いて王子様と結婚するのよ」
「それは構わないけど、姫様に会った瞬間バレるわ。姫様は寛大でお優しい方だけどオカリナさんは違うわ。雷の四天王をつかって怒鳴られるわよ?」
雷の四天王の「バカモン!」は怖いからなぁ。城にいても彼の怒鳴り声は聞こえたくらいだし。
「対策考えてなさそうね。なら私が神の力を少し使ってあなたを世界一美しくしてあげるわ」
「お願いするわ」
そうフラットは言うと、フルートはカバンから化粧道具を取り出した。
「あなた神なんでしょ? 変身とかじゃないの?」
「私が使えるのは神眼だけだから。でもお化粧って大事よ?」
メイクを終えると、
「なんて美しい。姫様には劣るけど十分すぎるくらいだわ!」
感極まっているフルートだが、鏡を見たフラットは、
(やばい。センスなさすぎ)
と、落胆していた。しかし仮にも相手は神である。多分私のセンスが間違っている可能性はある。
「ありがと。じゃあレンタル馬車もくるしそろそろ行くわ」
一礼すると、フルートが
「激しく動きすぎるとメイクが落ちるわ。気をつけてね」
と、わかりきっている注意をされたのであった。
ピアニカ帝国の首都。
馬車を郊外に停め、城まで歩くことにした。
街の石畳にはひびが走り、店先の棚はどこも空っぽだ。
通りすがる市民の顔はみな、飢えと疲労でやつれている。
オカリナが周囲を見ながら言う。
「姫様。お気づきですか? 市民が皆、疲れ果てています」
「うむ。空腹に耐えておる顔じゃな。実際、やつれておる者も多い。……だが妾たちは舞踏会に招かれておる客人じゃ」
「つまり、城の中では贅沢が続いているということですね」
「世も末とはこの帝国のことかもしれぬ。じゃが妾たちには関係ない。客として来ただけじゃからの」
私はそう言いながらもこっちを見てくる民衆の視線がどうしても気になる。
「ヴィオラよ。持って来た食料を与えよ。少ないがうまくやりくりしてくれ」
「姫様ならそう言うと思ってたわ」
意気揚々とヴィオラは馬車に戻って行った。
「ところで姫様。もしこの王子に求婚されたら、どうなさいますか?」
「民をないがしろにする王族に興味はない。もしそれで戦になっても、そなたや四天王がいれば問題なかろう」
「姫様が魔力を全開放すれば充分かと」
「妾は城で勝利報告を聞く役がいいのじゃが」
そんな会話を交わしているうちに、城門前にたどり着いた。
「身分証はあるか?」
「ミナエ姫様とその従者である」
オカリナが招待状を渡すと、衛兵は確認し、すんなり通してくれた。
「……あの兵士、今にも倒れそうじゃったぞ?」
「しばらく食べていないのでしょう。ですが、食料を分ける義理はありません」
「妾が帝王に“国内事情をどうにかせよ”と言ったほうがいいか?」
「言ったら戦争になります」
「構わぬ。村人もわかってくれよう」
「姫様に反対する愚民などおりませんよ」
そう話していると、肥えたオークが宝飾品をじゃらつかせながら現れた。
「これはミナエ姫様御一行。ようこそピアニカ帝国へ。私は大臣でございます。帝王がお待ちです」
「うむ。出迎えご苦労。食材を用意しておるゆえ、厨房を貸してもらいたい」
「それは楽しみですな。従者の方、厨房へ案内せよ」
「クラリよ、わかっておるな?」
「ハイ。姫様の御心のままに」
クラリは一礼して厨房へ向かった。
「さて、妾たちは帝王に挨拶しようぞ」
⸻
その一時間後。
「招待状? そんなもんあるわけないでしょ!」
遅れて到着したフラットが、衛兵に食ってかかっていた。
「しかしフラット王女様といえども、無許可では城に入れませぬ!」
するとフラットは衛兵の耳元で囁いた。
「私、こう見えてもあの伝説の悪魔姫とマブダチなんだけど。彼女が知ったらこの国、滅ぶかも」
「ぐぬぬ……確かに、フラット王女が今ミナエ姫のもとで働いているという情報はある。特別に許可する。入られよ」
こうしてフラットも入城した。
その背中を見つめながら、衛兵は小さく呟く。
「悪魔姫に、フラット王女……どうか我が国をお救いください」
一方、帝王の間。
「遠路はるばるご苦労」
巨大なオーク。おそらくオークキングだろうか? 威圧感のある帝王が労いの言葉をかけてきた。
「ウム。舞踏会に呼ばれて参ったぞ」
「今夜は楽しんでいってくれ。国の話は明日しようではないか。それまで来賓室で休むと良い」
「フン、明日でなくて良い。今からしようではないか。食事をしながら。な」
私は手を叩くと、
「お待たせ致しました」
クラリがワゴンを押しながら入って来た。
「オークキングよ。これが妾からの贈り物じゃ」
私は料理の蓋を開けると、出来立てホヤホヤの美味しそうな豚丼が出て来たのであった。
「クラリよ。妾が思ってるのと違うのが出て来たのじゃが。これでは共食いではないか」
「え? 次はお前がこうなるぞ。って料理をもって示すのでは?」
「いや、妾から喧嘩をうってどうする?」
「ちなみに何を作ると思ったんです?」
「トンカツじゃ」
「似たようなもんじゃないですか」
帝王を前にそんなやりとりをしながらも
「まぁ良い。オークキングよ。ありがたく食え。そして返答次第では次は貴様が豚丼になる番じゃ」
私は豚丼を帝王に差し出すのであった。




