悪魔姫、教育を間違える
「姫様。四天王の教育が終わりました。これで4クラス受け持つことができます」
一週間後、「干し草の上でパトラッシュの腹毛を撫でながら、天井を見つめている修練」をしていた私にオカリナが話しかけてきた。
「で、どうやって勉強を教えたの? 教えるってそんなに簡単じゃないと思っていたけど」
「教材を用いました。悪魔大元帥監修の、「悪魔の読み書きレベル1」です。一応レベル10まで用意しました。計算編もございます。漫画家たちに協力を要請し、イラストつきです」
レベル10を読むと、もはや難読漢字だった。私でも読めない。というか、日本語?
この世界日本語だったのか。通りで皆の言葉がわかったり読み書きに困らなかったのか。漫画の時に気づくべきだったかもしれない。
ということは、もしかしたらこの世界を作った神がいたとしたら日本人かもしれない。会うことはないかもしれないが。
「姫様? 教材に問題がございましたか?」
「あ、いや。問題ないよ。とりあえず二教科からスタートするのね?」
「いえ。国語、算数、思想の三教科です」
「思想?」
「姫様の理想郷をたたきこむ授業です。全種族が共存する世界を作るため我々は何をすべきかを考えさせます。そして姫様は民のために日々どんな修練していることも教えます」
「民の役に立つ修練なんか何一つやっていないんだけど! いつどこで使うのよ!」
「姫様。お気づきではないのですね。三日前、村長ヴィオラに新開発のカレーパンを試食させたではありませんか」
「それが何か?」
「何も知らないヴィオラに毒味をさせていた悪い表情。あれこそ越後屋の鏡です。そしてカレーパンこそ賄賂。もう姫様は越後屋のスキルをマスター致しました」
「マスターしてどうするのよ!」
「他の国に賄賂を渡す時に使えます」
「渡すことあるの!?」
「備えあれば憂いなしです!」
「村人に私が賄賂を渡す修練してるとか暴露してどうするのよ!!」
「さすが姫様。民のために自ら悪行に手を染めてるとはって感服するでしょう」
「あんただけよ!」
試しにメイドを呼んだ。城にいるのは私とオカリナ。あと、グルメマスターくらいだろうか。あまりにも少ないので城門前にメイド募集。住み込み可の張り紙をした。
そんなわけで村人出身のメイドが誕生したのである。
「クラリよ。妾が他の国に賄賂を渡していると知ったらどう思う? 率直な意見を述べよ」
「お互いの血を流すのでなく調略をもって敵内部を勝手に崩壊させ、味方に傷はつけさせない。まさに神の一手。いや、神でもお考えにならないでしょう」
ダメだこいつ。すぐに解雇しないと。
いや、まだだ。
「この前、必死に仕事をしてる皆をよそに一人寂しく外を見ている修練をさせられたんじゃが、どう思うか?」
「姫様はこの村の姫様なんですから、皆と共に仕事をなされる必要はございませんし、部下を信頼している証拠でございます。それよりも仕事は部下に一任し、我先にと周囲に目を向け次の戦略を練る。素晴らしい修練かと存じます」
何故私はこんな奴を雇ったのだろうか。
つい、こめかみに指を当ててしまった。
さっきまで修練していたパトラッシュの話をしても、
「家畜が死ぬ時、共に召されようと優しくするお気持ち。まさに慈愛の姫様。このクラリ。一生ついて行きます!」
いや、私はあんたを解雇したい。
まあ素直な意見を言えと言っておいて解雇は不当すぎるか。忘れることにしよう。
そんなわけで学校がスタートした。子供だけかと思ったが大人もいた。午前の部、午後の部と分け仕事に支障がないようにはかった。
四天王もすぐに環境に慣れ、それぞれの特技を活かして授業外で行動をしていた。
まず水の四天王はプール作って泳ぎの練習をさせていた。
「姫様。この村から湖まで距離がありますゆえ泳げないものが多数。良い機会として泳ぎをマスターすれば川で溺れるものも減るでしょう」
「そうじゃな。よくぞ気づいた。さすが四天王じゃ。期待しているぞ」
「ありがとうございます!」
学校の裏で土の四天王がグラウンドを作り漫画から知った野球やサッカーを炎の四天王が熱血指導をしていた。
「二人とも良いチームプレイじゃ」
労いの言葉をかけると、
「ありがたき幸せ! いつか世界大会で優勝しトロフィーを姫さまにお渡ししたいと思います!」
「ウム。期待しているぞ」
「ありがとうございます!」
私は次にグラウンドのすみっこで雷の四天王が生徒たちを体育座りで見ているので話かけてみた。
「生徒が怪我しないように見守ってるのか?」
「いいえ。姫様。こちらをご覧ください。グラウンド後ろに馬小屋をがございます。野球やサッカーで窓ガラスを割った悪ガキに雷を落とすオヤジ。それが私の役目でございます」
「そんな人カツオや中島くんしかいないと思うのじゃが」
「要注意人物として名を覚えておきます」
「そ、そうか」
「姫様」
雷の四天王がやけに訴えるような目で私を見てくる。少し考えた後、
「ウム。馬小屋に被害が出ないよう期待しているぞ!」
「ありがとうございます!」
なんか一人だけポンコツがいた気がしたが気にしないことにして、うまくいくことを期待するのであった。




