六.
ハンナは今年十一歳になった。友達とたわいのないおしゃべりで盛り上がったりするよりも、男の子たちと一緒になって学校の先生に悪戯をするのが好きな女の子になった。お母さんのこともお兄さんのことも大好きで人懐っこく愛らしい子に育った。
生まれたときに起こった不思議な出来事の記憶は、歳を重ねるうちに薄れていってしまった。初めの頃こそ何度も思い出して孤独を感じていたのだが、可愛がってくれる家族と一緒にいると気にしなくなっていった。
「今から月を見に行こうよ」
ある日の晩、夜ご飯を食べ終わった頃に一番大きいお兄さんがそう提案した。彼によるとこの日の月は、一年のうちで最も大きく美しく見えるそうだ。
お転婆なハンナはもちろん
「行きたい!」
と大きな声で答えた。
母親も笑いながら了承し、みんなで少し冷たい暗闇へ入っていった。
「綺麗なお月さまだね」
家族で草むらに寝転がり、静かに夜空を見上げていた。いつもはしゃぎ回っているハンナも、この時ばかりはしんみりとした落ち着いた気分になった。
「お月さまって熱いのよね」
ハンナは自分を包み込みそうなくらいに大きな月を見て、ポツリと呟いた。何気ない一言だったが、お兄さんは聞き逃さず敏感に反応した。
「どうしてそう思うんだい?」
「なんでって、あんなに明るくて黄色い光を出しているんだもの。熱そうじゃないかしら?」
ハンナは手を上に伸ばしながら、そう答えた。
「だって、あんなにたくさんある星たちの何倍も目立っているのよ。それくらいお月さまには力があるんだろうね」
彼女はそう言って、お兄さんに笑いかけた。
涼しげな風がハンナの鼻をくすぐり、続けざまにくしゃみをした。その音がしんとした夜に高く響いたものだから、家族みんなが楽しそうに笑った。
「もうそろそろ帰りましょう」
夜風の気持ちよさにうとうとしていた一同は、母親の声ではっと我に返った。なかなか起き上がりたがらないハンナに、お兄さんが手を差し伸べた。
「いつの間にか真っ暗になっているわね」
ハンナが周りを見渡すと、
「そうだな。鬼が出ないうちに早く帰らなきゃね」
と一人の兄が言った。するとハンナはふざけて彼を追いかけ、後ろ姿に向かって叫んだ。
「もう信じてないわよ」
「嘘おっしゃい。最近まで信じていたくせに」
「違いますってば」
「そんなこと言ってたら鬼さんが後ろから飛びついて、ちっちゃなハンナちゃんのこと食べちゃうかもよ」
彼は舌をベッと出しながら走り去ろうとしたが、ハンナはすかさず彼の腕を掴んだ。
「待ちなさいよ、ハイク」
「離せよ、ハンナ」
幼い子どもたちが戯れあっている様子が、母親を笑顔にした。遅い時間だからあまり騒がないように、と口を開きかけたその時だった。
遠くで叫び声がした。
何かが爆発する音がした。
誰かが宙に舞っているのが見えた。
あたりが白色に包まれた。
あれは一体何だったのだろうか。