五.
暖かい匂いがした。
「無事に産まれましたわ。元気な女の子ですね。産声の甲高いことったら、とてもお転婆な子に育ちそうですわ。」
「本当にそうですわ。息子たちよりも何倍も元気に育ちそうね」
「この子は何という名前になさるんです?まだお決めになっていないのですか?」
「いや、もう決まっていますわ。ハンナという名前です。あの人と前々から決めていたのです。ああ、あの人が生きていれば…、この子はもっと幸せになれただろうに…」
「お母さん、気持ちを落ち着かせてください。きっとご主人も空の上から喜んでいますわ。この子だって絶対に幸せになれるわ。だってこんないい子たちがお兄さんなのだから」
ハンナは大きな声で泣いていた。母親の胸に抱かれていて、周りからたくさんの目に見守られている。混乱している中でも、たった今自分が生まれてきたのだと理解できた。
「お母さんはしばらく安静にしておくんですよ。そして赤ちゃんは私がお清めをしておきます。こちらにお渡しください」
産湯に浸かっている間でも、ハンナはずっと考えを巡らしていた。
ついさっきまで九つの女の子で、ここにいる家族たちで星を見に行っていた。腕輪を追いかけていたら空中に打ち上げられ、その間に赤ちゃんに戻ってしまった。どっちが現実なのかわからない。いやどっちも実際にあったことなのだろうか。
お父さんは高いところに登って消えてしまった。光がパッと広がり吸い込まれていったそうだ。ということはわたしも同じように迷い込んでしまったのだろうか。あそこにいたお母さんたちは悲しんでいるのだろうか。わたしが鬼に食べられちゃったって思い込んでいるのだろう。大丈夫だよって伝えたい。ここにいるよって教えたい。だけど今目の前にいるお母さんは、あのときのお母さんじゃない。
小さな頭でそんなことをぼんやり考えていると、途端に涙が溢れてきた。
寂しさが増してきて、我慢できずに大きな声で泣き始めると、産婆さんが体と一緒に顔も拭ってくれた。