劫火はあなたと共に
「調子はどうかね?」
形式的に、その悍ましい星に訊く。
看守である私の仕事の一つは受刑者と話すことだ。何の目的があるのかは知らされていないが、お偉いさんにも考えがあるんだろう。
星々の監獄、恒星系。
収監者は中心の看守に常に監視され、看守の命が尽きるまで解放されず、最後には看守の贄にされる。
本来、永遠の時を生き、世界を観測し続けられる星々にとっては絶望という他なく、皆狂っていく。
そんな恒星系の中でもとりわけ恐ろしい刑罰を科せられた受刑者が、ここ、太陽系には存在している。
表面上を数多の異形どもが這いまわり、進行すると元の美しい外観は灰色の吹き出物により破壊される。
今、私と話している星のことだ。
「ええ、問題ありませんよ」
彼女がそう話す内にも、吹き出物が増えたり、崩壊したりする。
発声の周期を、彼女の公転になぞらえて11年と呼ぶことにした。主観的で意味のない指標だが、他の受刑者は皆狂ってしまい会話にならないので、問題はなかった。
「4番目のように食い尽くされはしないのか?」
「今の所は」
受刑者は私との距離で区別され、最も近いものを1番目と呼ぶ。
4番目も同様の「蛆虫」の刑罰が科されていた。その進行はかなり早く、蛆虫尋常ではない速度で増殖し、元々青かったその星を食い尽くした後に3番目へと飛来したが、あっけなく絶滅した。
「むしろ、結構好きなんですよ。あなたが蛆虫と呼ぶ生き物たち」
私は理解できなかった。
どれだけ経っただろう。
私たちは11年毎に言葉を交わし続けた。いや、周期は変わっていたかもしれない。それでも、規律が欲しかった。彼女の蛆虫のコロニーは永遠ではなかったが、滅びると、直ぐにコロニーが生まれた。
私自身も熱を増して、永遠に思われた命が尽きるのを感じる。
「ねえ、彼らと私たちって同じだと思わない?」
「どういうことだ?」
「あなたはもうすぐ死ぬ。あなたが死ねば、私も死ぬ。でも、それは絶望じゃない」
もう1番目と2番目は私の中に融けていった。
「彼らも、ただ私を貪っているわけじゃない。感じるのよ。彼らの祈りを」
3番目。彼女と肉薄する。
「私があなたに融けて、あなたも死ぬ。でも、あなたは星雲に還り、私は生まれ変わる」
彼女の思考を摂食する。
「次の私たちが、笑顔になれたらいいよね」