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-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
序章 四つ辻の怪異
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老齢陰陽師、逃亡の果て

大学の図書館。書籍独特の香りが満ちる中、晴朗(はるあき)保憲(やすのり)は歴史書の並ぶ、二階自習スペースにカバンを置き、それぞれの調査に取り掛かった。

 晴朗はPCを使い、保憲は『平安時代中期』と書かれた棚へ向かう。


 彼らが探すのは『陰陽師」『安倍晴明(あべのせいめい)』の記述がある資料だ。


「……あった」

「お、思ったより早かったな、どれどれ……」


 探し始めてほどなく、PCを操作していた晴朗が先に声を上げた。

『安倍晴明と港町の伝説』画面に表示されたタイトルに、保憲が覗き込む。


 その内容はこうであった。


 ******


 西暦986年、天皇を取り巻く政争に巻き込まれた安倍晴明(あべのせいめい)は、都を脱出し関東東部の沿岸の村へと逃れた。そしてその地で一番の年長者が住むという屋敷に泊まった。

 そこで彼はその村で最も美しいと評判のお姫様に出会う。


 そのお姫様が、晴明に一目惚れをしてしまったのだ。


 しかしそのお姫様は生まれつき、顔の左ほほ全面に痣があった。


 お姫様の父は娘のため、晴明に自分の財産を全て提供し、娘との結婚を願い出た。

 都から逃れてきていた晴明は、最初は婚姻を承諾するも、次第に後悔しはじめ、ついに姫のもとから逃げ出した。


 姫は晴明を諦めきれず、必死にその後を追いかけた。


 逃げても逃げても追いかけてくる姫に、晴明はついに海岸まで追い詰められる。


 追い込まれた晴明は、とある策を講じた。


 自らが自死した見せかければ、きっと姫もあきらめるだろうと考えたのだ。


 崖上に、自らの着物と履き物を脱ぎ置き、海に飛び込んだように見せかけた。

 そして自身は、近くの寺に身を隠した。


 追ってきた姫は、崖上に置かれた着物と履き物を見て、晴明が身を投げたものと信じ込み深く悲しんだ。そしてそのまま、後を追うように身投げしてまったのだった。



 ******



「____……一応、確認、なんだが……。これ……、本当に、あったのか?」


 内容を一通り読み終えた保憲は、眉間に皺を寄せ、ひどく言葉を詰まらせながらも恐る恐る晴朗に聞いた。


「……全く覚えてない」


 晴朗はこめかみに指を当ててしばらく考え込んだが、険しい表情のまま首を横に振った。


「お前、これ……、もし実話だったら……」

「いっそハッキリ言ってくれていいぞ」

「……」


 保憲は喉から出かけた言葉をなんとか飲み込んだが、とても苦々しい表情を浮かべている。


「だが、……関東だろ? 当時の京都からここまで、どれくらいかかると思ってるんだ」

「だいたい2、3週間程度。往復で約1か月ってところか。滞在期間にもよると思うが……頑張れば行けないこともないな」

「……待った。伝説上じゃ986年になってる。晴明(はるあき)は延喜21年、921年生まれだ。年代が本当なら……、66歳の頃だ。ここまで歩いてくる体力なんてもう残ってないだろ」


 当時の晴明の性格を熟知している保憲は、どうにかして晴明をフォローするが、なぜか晴朗は得意げに笑いながら、


「ふっ、甘いな。俺は当時の都で、赤痘瘡(あかもがさ)その他疫病が大流行した地獄の9世紀末を生き抜いたんだぞ。免疫力と体力には自信がある」

「ばか、威張るな」


 そんな晴朗を、保憲は冷静に突っ込んだ。


 平安当時の平均寿命が40歳という中、安倍晴明は85歳と大きく上回っていた。

 そして、そんな晴明が晩年を生きた995年から1000年には、疫病が大流行。

 貴族だけでも70名近くのの死者を出し、当時の天皇も罹患したと、平安末期に編纂された歴史書にも生々しく記されている。


「……で、どうするんだ?」

「正直……、ただの夢だと思いたいが……、こうして伝説と合致している部分が多いということは、何かしらの因果がついて回っているのは確かだ」


 晴朗はポケットから傷ひとつない、落ち着いたカーキ色の手帳型カバーのついたスマートフォンを取り出した。


 スマートフォンには昔旅行に行った時とある神社で買った、可愛いらしくデフォルメされた3本足の烏のストラップが静かに揺れている。

 カレンダーアプリを開くと9月29日金曜日17:00、仏滅と表示されている。

 さらに画面を横にスライドさせると、翌月の10月のカレンダーが表示され、10月の7,8,9日が3連休になっていた。


「……火のないところに煙は立たない。ちょうど来週末が3連休だし、実地に行って、この目で確かめてくる」

「言うと思った! よし! 俺もいこう」

「……別に、そこまでついてこなくても」

「車出してやる」

「頼んだ」


 晴朗はパソコンの電源を落とし、保憲は持ってきていた資料を本棚に戻すと、図書館を後にして帰路についた。



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