陰陽寮、その組織と実態
カフェの開放的な窓から見える都会の景色は、高層ビルが立ち並び、老若男女様々な人々が絶えず行き交っている。
公道の脇を規則的に並んでいる木々からは、落ち葉がひらひらと儚く舞い落ちている。
晴朗はそんな外の風景を一瞥し、かつての自分たちが働いていた大内裏の風景を思い出しながら、対面に座っている少年に視線を戻し、話を続けた。
「俺たちが所属していた頃……9世紀中頃から後半にかけての官人陰陽師の定員は、せいぜい20名前後……。上級貴族の平均にも満たない。その中で、大なり小なり何かしらなの異変があるたびに、逐一陰陽師を呼び出して占わせていれば……。自ずと人員不足は発生していく」
「……ん?もっと人数いなかったか?」
同じように当時のことを思い出していた保憲から、疑問の声が上がった。
「学生と得業生は数に入れてないぞ。彼らは研修生であって、まだ正式な陰陽師ではないからな」
「それ以外にも、途中で陰陽寮から別の部署に異動していったり辞めた奴らだって、上巳祓の時とか、時々バイト感覚で請け負ってただろ?」
上巳祓
毎年三月最初の巳の日に、水辺で行われる、現在のひな祭りの原型とされている祓である。100人を超える全ての貴族が同時に行っていたとされているため、陰陽寮に所属していた当時現役の陰陽師はもちろん、諸事情によって陰陽寮を異動となった者も、その日は陰陽師として貴族からの依頼を受けていた。
また官人陰陽師を雇えない下級・中級貴族は、やむをえず法師陰陽師を雇い、禊を行なっていたほど、貴族にとって上巳祓は重要な儀式だった。
「あれはグレーだろ……。いや……俺もお前も、陰陽寮を異動して以降も、占いとか各祭祀とかやってたしな……。グレーを加味するともう少しいくか?」
「ガ、ガクショー? トクゴーショー?」
2人にしか共有できない情報と思い出に、再び話についていけなくなった少年は、聞き慣れない単語を口にしながら首を傾げた。
そんな彼に気づいた保憲が「悪い悪い」と謝りながらタブレットを操作し始めた。
「陰陽寮にはな、それぞれ4つの部署があったんだ」
保憲が見せてくれたタブレットの画面には、先ほどとはまた違うより詳細な組織図が表示されていた。
「具注暦……、今でいうカレンダーを作成する『暦部門』。占いや祭祀を執行する『陰陽部門』。水時計を24時間監視し、時刻を計測する『漏刻部門』。星を観測し、今でいう流星や惑星の接近といった天変があれば、それを帝へ報告する『天文部門』。以上の4つだ」
「へ〜……、もう会社じゃん」
「確かに、陰陽寮は例えるのなら、朝廷という親会社に連なる子会社みたいなもんだな」
「慢性的な人員不足もあって、とんだブラック企業だったけどな」
「まぁ……そこはな……。ちなみに安倍晴明はこの4つの部署のうちの『天文』に所属していたんだ。な!」
保憲はニッコリと笑いながら、隣に座っている晴朗を見た。
「そういうどこぞのお師匠様は、『暦』と『天文』と『陰陽』をハシゴしてたな。ついでに『漏刻』もやっときゃよかったじゃないか。お前ならフルコンプ狙えただろ」
晴朗も仕返しをするかのように、意地悪そうな笑みを浮かべながら保憲を見たが、『漏刻』という単語がでてくると、途端に彼は興味を無くしたように息を吐きながら、ソファに背を預けて冷めたカフェラテを口にした。
「あそこは専門外だ。めんどくさい奴もいたしな」
8月21日追記 活動報告にて、陰陽師さんたちのお仕事内容をまとめた記事を公開ししました。




