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-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
二章 官人陰陽師と法師陰陽師

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陰陽師のおしごと

「でも、お国はどうしてそんな犯罪者集団を取り締まらなかったんだ?」


 少年はチーズケーキの最後の一口を食べ終えると、新たに浮かんだ質問を投げかけた。その表情には、素朴な疑問が満ちている。


「陰陽師に対する需要と、官人陰陽師の人数が比例していなかったからだ」

「……と、いうと?」


 今度は晴朗が答えたが、それだけでは理解するには至らなかったのか、少年はカップを両手で持ちながら首を傾げた。


「陰陽師の仕事は結構多忙というか……、多岐にわたっていてな……。大きなことから、ほんの些細なことまで、いつもの日常生活とは違うことが起こるたび、その吉凶(きっきょう)を陰陽師が占っていたんだ」

「ふ〜ん。どんなことを占ってたんだ? 毎朝の情報番組とかでよくやってる、今日の運勢とか?」

「それもあるな。他にも大きなことでいえば、(みかど)が外出する日時を占ったり、お寺を建立(こんりゅう)するための土地を占ったりとかだな」

「ほんの些細なことで言えば、『歯が痛い』とかな」

「ウッソだろ。それはさっさと病院行けよ」


 些細な占い内容を晴朗がしれっと答えると、少年は信じられないといった表情で声を上げた。しかし、晴朗は冗談など言っていないらしく、保憲は乾いた笑みを浮かべていた。


「確かに。でも、現代からすれば『さっさと病院行け』で済まされていたようなことでも、当時はまだ医療が発達していなかったせいもあって、いつもの日常と違う出来事や体の異変は、すべて『不幸の前兆』として扱われていたんだ」

「他にも家に蛇が出てきたとか、家にカラスが乱入してきたとか。これらも全て、当時は『不幸の前兆』だ」

「家に蛇はまぁまぁ分かるけど……家にカラスが乱入……? どういうシチュ……?」


 少年はその光景が全く想像できないのか、混乱したように眉をひそめた。


「まぁ……、そういった不幸の前兆の是非を占うのも、陰陽師の役目だったって訳だ。ここまでで不明点はあるか?」


 晴朗の問いかけに、少年は腕を組み、考え込むように天井を見上げた。


「そっかぁ……。昔はまだ医療技術も全然発達してなかったから……、陰陽師はお医者さん的な役割も担ってたってこと?」


 少年の言葉に、保憲が「その通りだ」とでも言うように微笑んだ。


「まぁ、それに近しいことはやってたな。陰陽師の仕事を今に例えるのなら……、占い師兼気象予報士兼医者兼カウンセラー……みたいな感じだな」

「いや詰め込みすぎでは」


 少年の素直なツッコミに、晴朗はクスリと笑った。


「それほど、当時の陰陽師に対する需要が高かったってことだ」


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