陰陽師のおしごと
「でも、お国はどうしてそんな犯罪者集団を取り締まらなかったんだ?」
少年はチーズケーキの最後の一口を食べ終えると、新たに浮かんだ質問を投げかけた。その表情には、素朴な疑問が満ちている。
「陰陽師に対する需要と、官人陰陽師の人数が比例していなかったからだ」
「……と、いうと?」
今度は晴朗が答えたが、それだけでは理解するには至らなかったのか、少年はカップを両手で持ちながら首を傾げた。
「陰陽師の仕事は結構多忙というか……、多岐にわたっていてな……。大きなことから、ほんの些細なことまで、いつもの日常生活とは違うことが起こるたび、その吉凶を陰陽師が占っていたんだ」
「ふ〜ん。どんなことを占ってたんだ? 毎朝の情報番組とかでよくやってる、今日の運勢とか?」
「それもあるな。他にも大きなことでいえば、帝が外出する日時を占ったり、お寺を建立するための土地を占ったりとかだな」
「ほんの些細なことで言えば、『歯が痛い』とかな」
「ウッソだろ。それはさっさと病院行けよ」
些細な占い内容を晴朗がしれっと答えると、少年は信じられないといった表情で声を上げた。しかし、晴朗は冗談など言っていないらしく、保憲は乾いた笑みを浮かべていた。
「確かに。でも、現代からすれば『さっさと病院行け』で済まされていたようなことでも、当時はまだ医療が発達していなかったせいもあって、いつもの日常と違う出来事や体の異変は、すべて『不幸の前兆』として扱われていたんだ」
「他にも家に蛇が出てきたとか、家にカラスが乱入してきたとか。これらも全て、当時は『不幸の前兆』だ」
「家に蛇はまぁまぁ分かるけど……家にカラスが乱入……? どういうシチュ……?」
少年はその光景が全く想像できないのか、混乱したように眉をひそめた。
「まぁ……、そういった不幸の前兆の是非を占うのも、陰陽師の役目だったって訳だ。ここまでで不明点はあるか?」
晴朗の問いかけに、少年は腕を組み、考え込むように天井を見上げた。
「そっかぁ……。昔はまだ医療技術も全然発達してなかったから……、陰陽師はお医者さん的な役割も担ってたってこと?」
少年の言葉に、保憲が「その通りだ」とでも言うように微笑んだ。
「まぁ、それに近しいことはやってたな。陰陽師の仕事を今に例えるのなら……、占い師兼気象予報士兼医者兼カウンセラー……みたいな感じだな」
「いや詰め込みすぎでは」
少年の素直なツッコミに、晴朗はクスリと笑った。
「それほど、当時の陰陽師に対する需要が高かったってことだ」




