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-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
九章 事故物件の怪

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構わん、やれ


「お邪魔するわよ〜」

「ただいま〜……は?」


 玄関から、二人の男女の声が聞こえてきたのだ。

 

「嘘っ……!?」

「げっ」


 若杉はもちろん、保憲と実資も驚きながら玄関方面を見た。


「夏帆! お前男呼んでんのか!」

「どうす……ぐぇっ!」


 どうするべきか狼狽える保憲に対して、咄嗟に実資は彼の首根っこを引っ掴むと、寝室に押し込んだ。

 

「おい夏帆!」


 扉を閉めたと同時にリビングにズカズカと入って来たのは、玄関に飾られていた写真に映っていた、金髪に長身細身の軽薄そうな男と、母親らしき50代頃の中年女性。


「お邪魔しています」

「お邪魔しております」


 晴朗と実資は怪しまれないように、営業用の笑顔をニッコリと浮かべて挨拶をした。


「なんだテメェ! おい夏帆! どういうことだ!」

「落ち着いて(まこと)、昨日言ったでしょ、幽霊がウチにいないか、見てくれる人が来るって」

「まだお前そんなこと言ってんのか! 幽霊なんかいねぇって言ってるだろうが!」

「でも勝手に照明が消えたり、水が流れたりするところ、あなたも見てるでしょ!」

「お前の蛇口の締めが甘かっただけだろ!?」

「家に幽霊がいるとかなんとかよく分からないことを言って……、今度はウチの(まこと)を差し置いて、堂々と昼間から他の男を連れ込むなんて……! あなた本当にサイテーね!」


 親子に詰められている若杉を尻目に、「なんかめんどくさいことになってきた……」とばかりにげっそりな顔をしながら、二人は聞こえないようにため息をついた。

 

「まさか他にも連れ込んでいるんじゃないでしょうねぇ!!?」

「あっ……!」


 すると激昂した彼氏の母親が、寝室の扉を開けようとズカズカと歩み寄った。

 中には保憲が息を潜めている。

 だが若杉の静止も虚しく、母親は荒々しくその扉を開けた。


「……あら?」


 だがそこには、誰もいなかった。

 母親は足を踏み入れると思い切り布団を捲ったり、バルコニーを覗いたり、クローゼットを開けたりしてみるも、人の姿は見当たらなかった。


「どうか落ち着いてください」

「な、何よ……!」


 すると実資がやんわりとした笑みを浮かべたまま、母親を宥めにかかった。

 

「彼氏さんの許諾なしに、勝手にお邪魔したことについてはお詫び申し上げます。ですが……、若杉さんの仰る通り、私たちは今日初めて会った間柄です。やましいものなど一つもございません」

「ふ〜ん……、その証拠は?」

「ご覧の通り、私にはすでに愛する妻と娘がいるので……」


 そう言うと、実資はすっと左手を持ち上げ、薬指に輝く指輪を見せた。

 だがそれを見た息子は、納得するどころか鼻で笑った。


「はっ、本当かよ。適当言って本当は不倫したいだけじゃね?」

「ちょっと! この人は私の友達の旦那さん! 変なこと言うのやめて!」

「全くですな。スマホの壁紙を妻と娘たちにしているこの私が、不倫をするとでも?」

「そんなんで誤魔化せるとでも思っているのかしら?」

「では聞きますか、私と妻の馴れ初め、娘たちの愛らしい成長エピソードを」

「はぁ? そんなもん興味ねぇ……」

「いいえ、あなたがたが抱いている疑惑を解消するまでは、いくらでも話をしましょうぞ」


 実資はまるで某時代劇で使用されている印籠のように、スマホに保存している写真を親子に見せつけながら、一方的に家族愛を語っていきつつ寝室から視線を逸らすよう誘導している実資と、彼の威圧感に思わずドン引きしている親子。

 

 そんな彼らを他所に、ベッドの下に身を隠していた保憲は、晴朗と若杉の助けを借り、音を立てないよう慎重に匍匐前進をしながら部屋を出て行った。


「……____とまぁ、そういった経緯で若杉さんが今回のご相談をされて、娘たちの子守りで来られない妻の代わりに、私と、そういった事象に詳しい隣の者が来たのです。……こちら、証明となる会話アプリの履歴です」


 保憲が無事外に脱出した所で、実資も家族愛語りを終わらせた。すると親子から、

 

「最初からそう言えよ!」

「最初からそう言いなさいよ!」


 と親子らしく声を被らせたツッコミが帰ってきた。

 

「ご理解いただけたようで何よりです」


 対して実資は、久々に気兼ねなく妻と娘自慢をできてスッキリしているのか、親子のツッコミなど気にも留めていない様子だった。


「……ちなみに僕も……」


 続いて晴朗も、誤解を解こうと口を開いたのだが、

 

「はいはい。ボクちゃんは大丈夫ですからね〜」

「……はい?」

「お前みてぇなお子ちゃまは論外だわ(笑)」


 母親はまるで子どもをあやすように晴朗の頭を撫で、真と呼ばれた男は、小馬鹿にしたように晴朗を見下ろしている。


「夏帆のタイプは俺みたいな、長身で大人っぽい顔をした男だもんな」

「お願いだから余計なこと言わないで」


 勘違いされるのも面倒だが、それ以上に腹立たしい対応をされてしまった晴朗は、爪が食い込むほど強く拳を握り締め、


「……よォ、蔵人頭(くろうどのとう)……、あのクソ野郎殴っていいか」

「構わん、やれ。……と、言いたいところだが、妻の顔がある。今は抑えろ」


 かつての上司である実資に、暴れる許可を求めた。

 だが実資は、心から不愉快極まりないといった表情を見せつつも、元上司らしく手綱を握った。




蔵人頭(くろうどのとう)についてはep.37をご参照あれ!

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