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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕っ子少女と私の下らない戦い

作者: 麗々鹿之助

「うぇ~ん! ゲーム壊れた~!」


ラフィの泣き声で私は目を覚ました。


すると起床時の脳波を検知して、カプセル型ベットロボット、シュレディンガーの蓋が開く。


眩しい。窓を閉め忘れたか?

ベット(シュレディンガー)の内面に目を向けると数字が浮かんでいる。3時間12分54秒32。


通話記録だ。昨日は電話中に寝落ちして窓を閉め忘れたらしい。

ここは三階だと言うのに、朝から飛んでいる車の音が寝不足の頭に響く。


「道空法位は守って欲しいもんだがね。シュレディンガー。窓を閉めて──」

──了解しました。


言葉が終わる前にベット(シュレディンガー)に搭載されるAIが機械音声と共にカーテンプログラムを一瞬で起動させ窓はグレーの壁紙に変わる。


「──ラフィに通話」

──了解しました。


ベット(シュレディンガー)がラフィへ電話を繋げると、一瞬の間も開けずにラフィに繋がる。

電話に出るまでの速度は当人の能力による。ラフィは相変わらず電話に出るのが速い。


私ではこの速度で電話に出るのは無理だろう。


「お父さん、あの、あのね。ゲームがね、その。壊れちゃって~……ぐすっ」

「どういう症状だい?」

「わかんない。ぐすっ、赤く点滅したらデータが無いって表示されて、でも何もやってないのに、壊れて……ぐすっ」


5分かけて聞き出したが、半泣きあるいは全泣きに移行したラフィから手に入る情報はこれ以上無さそうだった。


「今からそちらに向かうよ」


ベット(シュレディンガー)の内面をタップしてラフィの居場所をサーチする。ゲームをしているなら自室に居る筈だが念のためだ。


簡単な操作をいくらかすると、間取りの映像が立体的に飛び出した。1つだけある緑の光源はラフィの居場所を示している。

ラフィの自室で緑が点滅しているのを確認して、私はやっと動き出す事にした。


「シュレディンガー。ラフィの自室へ向かえ」

──了解しました。


1分程かけて到着し、私はゲームの調子を見る。

画面には【データが確認出来ません】と表示されていた。ラフィから聞いた通りだ。

もし赤い光源の点滅も事実とするならばもうデータは無いだろう。赤の点滅はデータ整理の為の消去を意味する200年前から国で定められたルールだ。間違いない。


「もう捨てるか?」

「やだ~、データ元に戻してよぉ~……」


テレビゲームなんてのはラフィにしてみれば数十世代前のおんぼろ機種だろうに。

だからこそボタン1つでデータが消えると思わなかったのかも知れないが。


「うーむ。仕方ないな、業者に電話してみるか」

「えっ、やったー!」


それなりに値がしたのだ、目の前の状況位なんとかして欲しい物である。

ベット(シュレディンガー)の内面をタップして、電話をかける。


──プルルル、ガチャリ。


古くさいコール音は私の趣味ではない。

耳障りなコール音だ。


私は電話が繋がると間を開けずに現状を事細かに説明し、これからどうして欲しいかを語った。


『ロボット修理センターです。はい、はい。解りました。それでしたら~、はい。遠隔サポートで直せます~。ご確認下さい~、はい。また何かあればお電話下さい』


相手がAIじゃなければクレーマーと思われたかも知れない。


通話を終えてラフィに目をやると、テレビ画面をじっと見ていた。


──【データが確認出来ません】


テレビは当然変化なし。ラフィも当然動かない。アップデートなんてそんな物だが、暇になった。

いや、1つ用意しておきたい物があったな。


ラフィの部屋をいくらか漁ると、奥から野球ボールが出てきた。


「うん、まだまだ使えそうだね」


電話から5分程するとラフィはやっと動いた。満面の笑みでラフィは振り替える。

アップデートが5分なら早い方だろう。


「ゲームについて、どう思う?」



──【データが確認出来ません】

テレビは直らない。


振り返ったラフィの目の奥で赤い光源が点滅する。



「え? 僕、ゲームには興味無いよ?」

「そうかい、良かったよ」


人形(ひとがた)ロボットKN-H2型(ラフィ)は直った。


「ラフィ。一緒にキャッチボールをしよう」


私の望みどうりに。



































私は期待を込めてラフィに野球ボールを見せた。


長い戦いだった。

人形(ひとがた)ロボットKN-H2型はやっと望んだ形に収まったのだ。きっと。さすがに。


「えー、でも僕本のが好きだなー?」

「……ん? ラフィ、ちょっと向こうで遊んでてくれるかな?」


分かったと言って素直に移動するラフィを見送り、一度怒りを鎮めるように大きく深呼吸した。

だが怒りは収まらない。


「何回目だ!」

──135回目です。

「うるさいよシュレディンガー!」


野球ボールを明後日の方角にぶん投げて私は再度電話した。


──プルルル、ガチャリ。

コール音も135回目となれば嫌いになる。


『ロボット修理センターで──』

「いいか! 私をお父さんと呼ぶ僕っ子までは褒めてやる! だが私は外でキャッチボールをしたいと言っただろう!」


私は怒鳴りつけた。


『あなた個人の性癖までは流石にカバーしかねます。それに前々回は結構良いできだと思いましたが』

「馬鹿を言うな、上目(ぶりっ子)と、伏し目(シャイ)の違い位把握してくれなきゃ困る。可愛いを好むか否か。神は細部に宿る! 分かるか」

『分かりません』

「何度目かな、まったく」


『135回目です』

──135回目です。


「きー! せめてキャッチボール位なんとかしてくれたまえよ!」


私は今日も理想の僕っ子を追い求める。

また寝落ちする事になりそうだ。

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