宜しく頼むよ
「ディオン………!」
「ああ、エクトール!久しぶりだな!」
「本当に、久しぶりだ!5年振りだろうか?」
一緒に来ているレオンと共にゆっくりと待っていると、慌しく走ってきたらしい青年の姿が。
薄茶色の短髪に焦茶の瞳の青年、この彼こそ、エルナール辺境伯家の嫡男、エクトールだ。
2年程前に、リーンダート伯爵令嬢と婚姻し、先月末に産まれたばかりの赤ん坊の息子がいる一児の父親でもある。
「今日は申し訳ない。家で出迎える予定が………仕事が長引いてしまって………」
「今日は大事な孤児院視察の日だったんだろう?仕事ならば、仕方ないさ。」
「うん、ありがとう。」
「今日から1ヶ月間、このエルナール辺境伯領に滞在する予定だから、宜しく頼むよ。」
「ああ、こちらこそ宜しく!」
「ディオン、明日は、どうするんだ?」
「明日は、時間さえあれば、一緒に街を見て回りたいんだが、今は、引き続きで、忙しいか?」
「残念ながら……ディオンが良ければ、代わりに義弟のユージに案内をお願いするけれど………」
「義弟の?ああ、リーンダート伯爵家の嫡男か?それじゃあ、そのユージに頼んでみて欲しい。」
「ああ、分かった! 聞いてみるよ!」
「は、初めまして。」
「ああ、こんにちは。初めまして。」
本日の案内人らしき黒髪の少年がやって来た。
お互いに初対面同士で、相手の少年は緊張しているかのようだった。
なんせ、肝心のエクトールは、仕事のために、国境警備部隊の様子を見に行っているからだ。
「えっと………貴方が、エクトール義兄上の親友ディオンさんなのでしょうか………?」
「ああ、そうだよ。エクトールは王立学園時代の学友なんだ。君が今日の案内人かな?」
「はい。今回の案内人を務めます、リーンダート伯爵家の嫡男、ユージと申します。」
「サラサ夫人の弟さんかな?」
「はい、そうです。」
確かに、サラサ夫人に面影が似ている。
サラサ夫人は、リーンダート伯爵閣下の長女にあたる聡明な美しい女性だ。
あまりにも美しい彼女の婚約者になりたい男が沢山いたはずなのだが、彼女は、自分の生まれ育ったエルナール辺境伯領に残りたいと希望を出して、辺境伯家の嫡男エクトールに嫁いだ。
エクトールは、昔から、純粋に、初恋が彼女であった為に、仲睦まじい夫婦となっている。
そんなサラサ夫人の弟、ユージもまた美形だなと、ディオンも、レオンも、そう思った。
「今日は、宜しく頼むよ、ユージくん。」
「は、はい!宜しくお願い致します!」