やっと着いた!
「ああああ………」
「や、やっと………」
「うん、やっと着いた………」
「ええ………
やっと、ですね………」
ここは、王都から離れた辺境の地。
スーウィル王国の東北部に位置する国防の街、エルナール辺境伯領の入り口。
明らかに、遠方から長旅をして来たのだろう。
旅人の姿をしたふたりの青年達が、エルナール辺境伯領特有の、白亜の美しい街並みを見て、心の底から、安堵の表情をした。
「ディオン様
お疲れ様でございます。」
「ああ、レオン、お疲れさま。今回は、この旅に着いてきてくれて、本当に、有難う。」
「はい。 こちらこそ、ありがとう存じます。」
ふたりの青年達は、馬車から荷物を下ろした。
この二人が乗って来た馬車は、古そうに見える割に、しっかりと頑丈で、安全に野宿が出来るような仕組みになっているものだ。
彼らは、この馬車に乗って、5日間も掛けて、この辺境の地に辿り着いたばかりだ。
「王都から、思ったより、長旅でしたね。」
「ああ、そうだな。辺境伯家の者たちは、こんな遠い街から、わざわざ王都まで?凄いな。」
「ええ。ですね。ディオン様、今夜は、いったん目的地の宿で、休憩に致しませんか?」
「ああ、うん、さすがに、今日は、疲れたなぁ。さっそく、宿屋に向かうとしよう。」
「はい、かしこまりました。
行きましょう。」
一人は、この国内の中では珍しい赤髪の青年、彼は、商人見習いのような服装をしているが、高貴な雰囲気を隠せていない。
もう一人は、肩まで長く伸ばした黒髪を結っている騎士のような雰囲気の青年。
青年は、2人とも、高貴な雰囲気を宿しているため、入り口付近にいる領民たちは、いったい何事か? と、興味津々で見ている。
彼らは、視線に気付かずに、入り口近くにある安めの宿屋に素泊まりする事にしたようだ。
「ところで、レオン」
「はい、何でしょうか?」
「エルナール辺境伯閣下の屋敷は何処にある?」
「ディオン様、あちらの白亜の街並みの中心部にある薄茶色の大きな屋敷がありますでしょう?あちらが、エルナール辺境伯邸だそうですよ。」
「なるほど………
あの建物が、明日行く予定の………」
確かに、レオンが示した場所を見ると、白亜の街並みの中心部に、唯一、目立つ建物がある。
その薄茶色の大きな洋館こそ、この街を治めるエルナール辺境伯閣下の住まう屋敷だ。
目立つが、要塞のような造りになっている為、敵からは攻撃しにくい、侵入もしにくい頑丈な洋館となっているらしい。
「この宿屋からは、近くて、行きやすいな。」
「はい、エルナール辺境伯閣下が、近場の中で、目立たない宿屋を選んで下さいました。」
「そうなのか、それは、明日、お礼を伝えよう。まあ、この髪色からして、すでに目立っているような気がするのだが………」
「そのようですね。
周囲から視線を感じます。」
「まあ、うん、仕方がないか。」
赤髪は、この髪色は、非常に珍しい色彩だ。
この王国内だと、ディオンの母とディオンしかいないのではないかと思う。
エルモ兄上は、父に似て、普通によくいる黒の短髪なのだから。
「レオン、明日は昼からの予定だ。それまでは、しっかりと、心身共に、休憩するとしよう。」
「明日は昼からなのですね、かしこまりました。ディオン様、ゆっくり、お休み下さいませ。」
「ああ。 レオンも、しっかりと休めよ?」
「はい。ゆっくりお休みいたします。」