若いもんが来たでなあ
「おんやまあ
めじゅらしゅう
若いもんが来たでなあ」
「ああ。温泉旅行に来たんだ。
爺さんは、このセーテ村の村民か?」
「んだんだ、ちいせい時から村民よ!」
80代くらいのお爺さんが声を掛けてきた。
正直に言うと、お爺さんの口調自体は、方言の訛りが凄くて、うまく聞きとれないが…
おそらく、お爺さんの後ろにあるサパティール商店の関係者か、お客さんなんだろう。
「あんたたち
これから、どこに向かうたべ?」
「俺たち、いまは、この村を探索中でー」
「おおー、んだは!
楽しんでいけろー」
普通ならば、気にせず、場所も言うんだろう。
しかし、初対面のお爺さんに泊まる旅館やら、向かう場所やら、言うわけにはいかない。
でも、お爺さんは、何も深く聞かず、ニコニコと楽しんで行って来いよーと言ってくれた。
その気遣いは、その優しげな瞳から感じる。
「おーん、そんならさねー
若いもんたちにおすすめするとー
これさ、食べていきなはれ。」
「この丸いのは、卵か?」
「んだは、温泉卵っていうんだべ」
「温泉卵………?」
「これ、温泉で、茹でたもんぞー
このつゆかけっとー 美味しいぞえー」
「そうなのか、ありがとう。
そのつゆかけの温泉卵を4つ分
お願いしても良いかな?」
「んだな!!
ありがとの、にいちゃん!」
ディオンは、下町や村民の言葉を知らない。
ギクシャクとした会話になったのだが、彼は、気にせず、温泉卵を4つ、手に取った。
「アンナさんやーい
珍しゅー若いもん来たでー
温泉卵、よっつやってー
お会計さん、頼むでー」
「はーい!」
お爺さんの孫娘らしき少女がやって来た。
彼女は、ここの店員として、祖父のお手伝いをしているのだろうか?
テキパキと、慣れた手付きで梱包してくれた。
「まあ! 若い男子が、たくさんね!
いらっしゃいませー!」
「んだろ? んだろ?
アンナ、挨拶してくれな」
「かっこいいお兄さん方、初めまして!
私、このセーテ村のサパティール商店の孫娘、アンナ・リサ・サパティールです。
そちらは、ギオルギーお祖父ちゃんですよ。」
「んだ、ギオルギーだべ。
大層な名ーを、親から頂いちまったもんで。
儂ゃ、ふつーに、ギオで良いべ」
「もし良ければ、お話しませんかー?
この村には、私しか20代の子いないの!」
「うーん、すまないが
私は、既婚者で、妻子がいるんだ。
そちらの三人はいないけれど、今のところは、婚活自体していないと思うよ。」
「そっか、残念!
いきなりの提案なのにー
ありがとうございますー!」




