はあ?何だって?
「エルモ兄上」
「ああ、ディオンか」
「今、お時間は宜しいですか?」
「ああ、良いぞ。 ちょうど、休憩中だ。」
ハリウィム公爵家の嫡男、エルモ・ティウン・フォン・セイレン・ハリウィム。30歳。
ディオンの、5歳年上の実兄にあたる青年だ。
侯爵令嬢の妻との間に跡取りの息子がいる。
次期宰相候補として頭角を現した兄上は、大変忙しいため、急な訪問は避けていたのだが………
さすがに、この件は、兄上に早めに伝えておく必要があると判断したのだ。
「珍しいな、何かあったのか、ディオン?」
「実は、先程、キャンベル伯爵令嬢から婚約破棄いたしましょう、と言われました。」
「………はあ? 何だって?」
これは、普通ならば、あり得ない話だ。
普段から冷静なエルモ兄上が、分かりやすく、眉を顰めて、怪訝な表情を浮かべた。
弟の話によれば、伯爵令嬢から、公爵子息に、一方的な婚約破棄をしたのだから。
逆なら、あり得るが、公爵子息から伯爵令嬢にでも、一方的な婚約破棄は、失礼にあたる。
婚約破棄したいのなら、まずは、両親か兄姉に相談して、家族会議してから、お互いの両家の者達で集まり、正式に、婚約破棄をする。
政略結婚の為、婚約破棄しましたという書類を両家から役所に提出する必要があるからだ。
「婚約破棄の理由は、なんて言っているんだ?」
「どうやら、ガストンに嫁入りしたいそうです。」
「はあああ!?まだ表向き公表はしていないが、ガストンは、アンドレア姫と恋仲で、来年には婚姻を結ぶ予定なんだぞ!?」
「アンドレア姫と?
そうなのですか………?」
スーウィル王国、第三王女、アンドレア姫。
見目麗しい金髪碧眼の姫君の一人だ。
アンドレア姫の婚約者は、いったい誰なのか、今まで、ずっと極秘のままだったが、まさか、ガストンが相手だとは………!
「第三王女であられるアンドレア姫の夫ならば、ガストンは、新しい公爵家の当主となれる程の存在だと認められたということになる。まあ、ガストンは、あまり目立ちたくないと言う気質だから、次期侯爵位のままの可能性が高いが。」
「ガストンは、謙虚な方なのですね。」
「ああ。ガストンの周りの交友関係すべて王家の諜報員達に寄って調べられているだろうから、浮気は、一切出来ない。キャンベル伯爵令嬢と婚約するとは、到底、思えないぞ?」
「では、キャンベル伯爵令嬢の、盛大な勘違いということなんですかね………?」
「だろうな。王家とガストンに、キャンベル伯爵令嬢に注意するよう、伝えておこう。」
「はい、そのように、お願いいたします。」
「ディオン」
「はい、何でしょう?」
「お前は、これから、どうしたい?」
「そうですね………いったん、休憩しましたら、レオンを連れて、旅にでも出たいですね。」
「そうか、旅か。
お忍びならば、構わないぞ。」
「宜しいのですか………?」
「ああ、もちろん、ディオンが信用できる者には本名を明かすと良いが、それ以外の信用できぬ者には、なるべく、名を明かさぬように。」
「はい。もちろんです。
ありがとうございます。」