婚約破棄いたしましょう?
「ディオン様
婚約破棄いたしましょう?」
「………………そうか、分かった。」
ふたりは、完全なる政略結婚の婚約者だ。
最初の頃から、冷め切った関係性だからこそ、青年は、その言葉に、すんなりとうなづいた。
彼女は、ステイシー・メベル・フォン・ケヌ・マイデン・キャンベル嬢。18歳。キャンベル伯爵家の長女として生まれ育った少女だ。
「キャンベル伯爵に叱られるのではないか?」
「ええ、そうですわね。困った事に、お父様は、何がなんでも、公爵子息のディオン様に嫁入りして欲しいみたいですけれど………」
「ああ、そのようだな。」
野心家な父親を持って、苦労しているようだ。
彼女は、夢見がちな所はあるが、彼女の父親のように人を蹴落とすような気質ではない。
なので、まあ、父親は厄介だが、ちょうど良い相手だとは思っていたのだが………
「これから、どうするつもりなんだ?」
「わたくし、この度、ガリアルーズ次期侯爵様と婚約を結ぶ予定ですの!」
「ガリアルーズ次期侯爵?
ガストンのことか?」
「ええ、もちろん、ガストン様ですわ!」
そのガストン様は、ハリウィム次期公爵であるエルモ兄上の補佐官を目指している見習いだ。
だから、王城のハリウィム公爵家専用の執務室辺りで出会ったのかもしれないが………
弟と婚約破棄している令嬢が、自分の部下と?
さすがに、兄上は、不信感を抱かれるはずだ。
「ディオン様は、公爵家の次男だから、伯爵位になるご予定なのですわよね?」
「ああ、我が家には跡継ぎの兄上がいるからな。」
「でしたら、伯爵位のディオン様より、次期侯爵であられるガストン様に、お相手を変更しても良いのではないかしら?むしろ、お父様なら、でかしたと喜びそうだわ!良い考えね!」
「…………ああ、そうかもしれないな。」
そのキャンベル伯爵は、王族であるハリウィム公爵子息ディオンと繋がりたいと考えている。
その提案は、かなり叱られることだろう。
もしかしたら、ガストンは、弟の婚約者であるステイシー嬢と婚約することで、兄上の補佐官見習いから、外されるかもしれない………。
その選択肢は、これから先、肩身が狭いことになるのだが、気付いていないのだろうか?
どうやら、ステイシー嬢の夢見がちな所が悪い方向に向かってしまったようだ。
「今まで、有難う。
キャンベル伯爵令嬢。」
「ふふ。では、またご機嫌よう。
ディオン様。」