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07話 胎動

誤字・脱字・文法があった時は、「作者またかよ~www」ってな感じで流していただけると嬉しいですwww

「殺しあった?」

「それはまた、なんとも」

 最初のセリフは俺――緋宮慧のもの、次のセリフは咲耶のものである。

 皆で、今日行う仕事の話をしていたのだが。

「原因は?」

「それが、わからなくて……」

 唯衣が答える。

 ……ふむ。


 今回の仕事は、美術館の警備員である。

 今現在、都市圏に国の主催で大規模な美術展が開かれているのだが、その警備員だ。

 警備員の仕事を一般の警備会社ではなく、十三家に依頼したのにも、それなりの理由があったりする。

 殺人事件である。

 それも尋常なものではない。

 どれくらい尋常ではないかというと、……先ほどの言葉通り「殺し合い」である。

 警備員同士がお互いに殺しあったのだ。


 どうにも気になる。

「生き残った人はなんて言ってる?」

「それが……」

 俺の問いに唯衣が言いにくそうにするが、迷った末に答えてくれる。

「精神に異常をきたしているらしく、お医者様がまともな会話は不可能だって」

 ……精神に異常?

「ただ……」

 少々疑問を感じるが、今は続きを聞こう。

「何度も『血が!』とか『殺される!』って叫んでいるそうだよ」

 血?

 ……。

 どうにも考えがまとまらない。

 と。

「曰く、百聞は一見にしかず、じゃ」

 咲耶が面白そうに言う。

「どれ、その美術館とやらに行ってみようではないか!」


「どうにも普通の絵しかないような気がするけど……」

「確かにのう」

 女性二人の会話である。最初はある程度警戒して見て回っていたのだが。

 ……。

「あっ、この絵いいかも!」

「わらわとしては、そんなものよりこちらのほうがいいのう」

 ……。

 そろそろ、制裁を加えても許されるだろうか?

 ……さて。

 拳を握りしめ、二人の下へ向かう。

「二人とも……」

 !

 突然、視界の端に映ったものに強烈な違和感を感じた。

 なんだ?

 何がおかしい?

 こういうときの自分の勘は信じることにしている。

 ……。

 注意深く、視界の中にあるものを観察する。

 ……。

 ………。

 …………!

 あった!

 あれだ、あの絵だ!


 俺が注目したのは、ワイングラスを傾けている老紳士の絵だ。

 ……やはり。

 ワイングラスの中身。

 色からして、これは赤ワインだろう。

 だが。

 ……。

 色が少々、生々しすぎる。

 ……(タイトル)は?

「命の雫?」

 命の雫、連想されるのは……。

 ……血。

 確か、発狂した生き残りも、血、と連呼していたな……。

「どうしたの慧?」

「そうじゃ、ぼんやりして」

 少々の考えごとだ。と答えながら、頭の中で風の精霊に語りかける。

 すると。

 ィィィィィィン。

 わずかに、硝子の鈴が鳴るような音が響き渡った気がする。

 人間の可聴域を超えているため、普通の人間には聞こえない。

 最も。

「ほう……」

 楽しそうな表情をしている。

 目の前の天狐様には聞かれたようだ。

 目で、黙っているように伝えると。

「行くぞ、他も見て回りたい」

 声をかけ歩き出した。


「あれは何をしたのじゃ?」

 咲耶が尋ねてくる。

 美術館の休憩所での会話だ。

 唯衣は所用で席を外しているため会話には参加していない。

「監視と、……保険だ」

 最も俺の予感が外れてくれることを願っているがな、と付け足す。

 俺の答えに何かを感じたのか。

「……なるほどのう」

「?」

「ふむ、おそらくお主の予感はそれほど外れておらぬよ」

 !

「相当古いが、……あの絵、濃い血の臭いがしておった。それに、どうにも禍々しいものを感じたのう」

 最も、わらわほどの者でなければ気づかないがのう、と笑う。

「勘とはいえ、あの絵に違和感を感じたお主は見事じゃ!やはりお主は面白いのう」

 ……やはりか。

 天狐の保証が、俺の予感をいよいよ現実的なものにした。


 夜。

 これから美術館に向かおう、そう準備していた時である。

 監視につけといた風の精霊から緊急の連絡が入ったのだ。

 異変あり、急がれよ!

 訳すとこんな感じである。

「チッ!いやな予感ほどよく当たる!」


「これは!」

 例の絵がある部屋に入ったときだ。

 赤、赤、赤、赤、赤。

 視界の全てが真っ赤に染まった。

 落ち着け!

 冷静になれ!

 目を瞑り、思考をクリアにする。

 ……。

 もう一度目を開ける。

 ……なるほど。

 視界に写った赤は、床一面に広がった赤い液体が原因である。

 赤い液体の元は、……例の絵だ。

 絵の赤ワインが描かれていた部分から、赤い液体が流れ落ちているのだ。

 ……ふむ。

「まずは、とりあえず元の処理だ」

 この状況、どう見ても例の絵が原因だ。封印術でも施しておこう。

 幸い、自分の習得した魔術の中には封印術も存在する。

 一度封印を施し、後日浄化か祓魔をすればいい。

 そう考え絵に近づいた。

 その瞬間。

 ――殺せ!

 頭の中に声が響き渡った。

 ――殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!

 なんだ、これは!

 ――殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!

 頭が!

 凄まじい頭痛が襲う。

 同時に心の中に殺戮衝動が湧き上がった。

 精神を集中し、自らの感情と思考を制御しようと試みる。

 しかし。

 感情は異常な衝動に駆られ、思考は乱れる。

「まずい!」

 ここで、意識を手放したりしては駄目だ。

 取り返しの付かないことになってしまう、そんな気がする。

 ドシュッ!

 愛用の短剣(ゼビュロス)で自分の手を貫く。

 ぐっ!

 激痛が走るが、僅かに思考が戻る。

 ……くそっ、これはいったい?

 僅かに残った思考を高速で回転させながら、状況を分析する。

 今までの経験、自らが学んだ知識、現在の状況、自分の状態。

 それら全てを総括し、分析し、結論をだす。

 ……。

 結論は。

 なるほど、精神干渉か……。

 今まで精神に干渉を行ってくる相手と戦ったことがないわけでは、ない。

 外国にいるときに何度か経験している。

 しかし、ここまで強烈な精神干渉は初めてだ。

 ……だが!

 驚きはしたが、対処法がないわけではない。

 虹色の光の粒子が舞う。

 自らの存在確率を引き下げたのだ。

 おれ自身がこの世界に存在しなくなるため、精神干渉自体が不発になる。

「よし」

 これで、大丈夫。

 そんな事を考え、……油断した。

 ――殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!

 精神干渉が突然増大したのだ。

 完全に存在を消す前だった。

 もとより、思考と感情の半分以上が奪われている。

 結果は明白で。

 あ……。

 思考の全てが、感情の全てが殺戮衝動に染められていく。

 ……。

 ――殺せ!

 殺す相手がいない……。

 ――殺せ!殺せ!殺せ!

 相手がいない……なら、……………………自分を殺そう。

 ゼビュロスを自分の首に添える。

 さあ、後はこの刃を引くだけ……。

 さあ。

 この刃を……。


 ズバァンッ!

 !

 唐突に響いた音と同時に、意識が覚醒した。

 思考と感情を染めていた殺戮衝動が消える。

「くそ!」

 自分の未熟さに腹が立つ!

 ハァハァッ。

 息が荒い。

 体中が汗でぐっしょりと濡れている。

 ……ふう。

 落ち着いて辺りを見渡すと、床一面に広がっていた赤い液体が消えていた。

 視線を上げると、例の絵が……。

「備えあれば憂いなし、昔の人はいいことを言った」

 絵が綺麗に、まっぷたつになっていた。

 俺が、昼間来たときにかけておいた保険だ。

 風の精霊に「俺に何かあったらこの絵を破壊してくれ」と頼んでおいたのだ。

 ……。

「やべっ」

 ……流石に絵を破壊したのはまずかったな。


 後日。

「どうも、あの絵の赤い部分は、人間の血から作られた絵の具で描かれていたそうだよ」

 唯衣が例の絵について調べてくれたらしい。

 どうもあの絵は、昔とある貴族が道楽で描かせたものらしいのだが。

 その際に、赤い色に意味を持たせたいと、殺した奴隷の血を使ったらしい。

 それが時を経て呪物になった、というのが今回の原因だ。

「人間とは、いつの時代にも愚か者が存在するものだのう」

 咲耶が感心したように呟く。

 俺といえば。

「そんな貴族は殺しとけ」

 少々酷い目にあったためか、発言が過激だ。

「あっ、でもその貴族は後に、市民に反乱をおこされ処刑されたっぽいよ」

 はっ、いい気味。

「ところで、慧。壊しちゃった絵の代金が請求されているんだけど」

 !

 なんだと!

「約三千万だって。ちゃんと払ってね♪」

 ……。

 咲耶が後ろで笑い転げている。

 納得いかん!

 …………。

 結局、絵の代金は形瀬家が、仕事中の事故ということで払ってくれた。



 ~緋宮聡~

「兄さんが帰ってきている?」

 言葉にこもった感情の九割が軽蔑のものだ、残りの一割は警戒である。

「ああ、間違いない。今は形瀬の屋敷に住み着いているらしい」

 父の言葉だ。

 父の言葉は十割が軽蔑のものだ。

「あの恥さらしが今さらなんのつもりでこの国に戻ってきたんだか。そのまま外国でのたれ死ねば良いのに……」

 そんな辛らつな言葉に苦笑を返す。

「確かに」

 ……。

 しかし、形瀬の家に住んでいる、か。

 ……ゴミめ。

「父上、例の縁談ですが、先方はなんと言っていますか?」

「どうにも、色よい返事ではないな」

 形瀬美織め!

「緋宮家の圧力を持ってでもですか?」

「同じ十三家だ、強引はできんさ……。もっとも別の手段はあるがな」

 ?

「強引な手段、ですか?」

 父上はニヤリと笑うと。

「親権者はもう一人いるだろう」

 !

「流石は父上!」

 そうだ、親はひとりじゃない、もう一人いるじゃないか。

 思わず笑いがこみ上げる。

 ハハハハ!

 あの方は兄さんには相応しくない、あの方は僕にこそ相応しい!

 ああ、待っててよ。

 直ぐに迎えに行くから!


「唯衣さんは僕の物だ!」

いよいよ、緋宮本家が動き出しました。

つーより、弟がヒロイン狙ってるってどんな厨二だよwww

でも、作者は厨二なので、こんな展開大好きです。


次話は、ストーリーの流れがいよいよ加速し始めます。


では、では~

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