06話 妖恋談
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい
俺――緋宮慧は、唯衣を睨み付ける。
わずかな殺気がこもったような気もしたが、気にしない。
「言い訳があるなら、聞こう」
先ほどからあらぬ方向をむいて、顔を合わせようとしない幼馴染――形瀬唯衣に声をかける。
「俺に一切の非はなかったはずだ」
当然だ。
俺はただ寝ていただけなのだから。
「胸部の粉砕骨折、内臓損傷が多数。……高位の治癒術者の力を持っても、全治一週間だそうだ」
そう。
現在、俺は重病人として布団の中で倒れていた。
「……」
唯衣は黙ったままだ。
「鉄槌が当たる直前で、風の精霊が威力の八割を肩代わりしてくれた。……それでもこれだ」
俺は、黙り込んだ唯衣を糾弾する。
当然だ!
鉄槌が素の威力で直撃していれば、体が千切れていたかもしないのだ。
と、そこで。
「最近の若者は過激だのう」
俺と唯衣以外の第三者の声が割り込む。
信じられない程の美女だ。
鮮やかな金髪、紅玉のような瞳、雪のように白い肌、花魁のような艶やかな衣装。
本人自体も華やかな雰囲気を纏っている。
「しかし、流石にやりすぎではないか、娘?」
その声に対して。
「そもそも、あなたがいなければこんなこともしませんでした!」
黙りこんでいた、唯衣が叫ぶ。
……唯衣よ、それは流石に責任転嫁の気が……。
……。
事の顛末を簡単に説明すると。
つい二日程前に、俺と唯衣は神隠し事件を解決した。
神隠し事件の概要は、天狐が「暇つぶし」というとんでもない理由で、町中の人間を異界に引きずりこんだのが発端だ。
俺と唯衣はそこで、天狐を相手に死闘を演じることになり、九死に一生を得たのだ。
その後、疲れて帰ってきた俺は倒れるようにして、夢の世界に旅立ったのだ。
……が。
なぜか知らんが寝ている間に、件の天狐が俺の布団の中に潜り込んできたのだ。
………………………………………………………………全裸で。
男と女のような色事はなにもなかったが。
それを目撃した唯衣が激怒して、おれに容赦の欠片もない一撃を叩き込んだのだ。
……怒髪、天を衝く。
俺はこの時、その意味を真に理解した。
唯衣本人の談によると、「ついカッとなってやった。後悔はしていない」だ、そうだ。
……おいおい。
「で、天狐。お前はなんでこんなところにいるんだ?」
先日、死闘を演じたばかりの相手だ、多少の警戒があっても無駄ということはないだろう。
「『お前』ではない、わらわには咲耶という名前がある」
天狐――咲耶が答える。
「風の女王が気に入るほどの人間だ、わらわも気になってのう。来てみたのだ」
わらわも気に入ったぞ、と楽しげに笑う。
「来てみたって。……あれだけの事件を起こしたんだから賞金首リスト入りしただろうに、よくもまぁ十三家の一家に堂々と侵入したもんだな」
呆れてものが言えん。
「……この家には侵入者対策の結界が張ってあるし、無理に侵入したら防衛用の人形が襲ってくるはずなんだけど……」
唯衣も首をひねる。
……ふむ。
いろいろと考えていると。
「唯衣、咲耶!昼飯だよ!」
美織さんの、声が聞こえる。
……。
というか、今、咲耶の名前を呼ばなかったか?
「え?」
唯衣も戸惑っている。
二人して咲耶に視線を向ける。
「娘の母上殿には、ここに来たときに挨拶したのだ」
俺たちの疑問に答えてくれる。
「わらわは緋宮慧の知人で、しばらくの間世話になりたい、と」
!
「母上殿は笑顔で了解してくれたぞ」
なんだって!
……。
……今度こそ呆れてものが言えん。
~形瀬唯衣~
「美味じゃ!母上殿、いい腕をしとるのう」
咲耶が感嘆の声を上げる。
目の前の食卓には私とお母さん、それに咲耶と名乗った天狐の三人がいる。
慧は内臓の調子が悪いし、動けないから一人点滴だ。
「とくに、この漬物!実にいいのう」
目の前で咲耶がパリポリと漬物は一心不乱にかじっている。
……狐は漬物が好物なのだろうか?
あまりのことに唯衣の脳が半ばフリーズ状態である。
「お!わかってくれるかい狐ちゃん。嬉しいね!漬物作りはあたしの趣味なんだ」
お母さんもなんか受け入れてるし……。
昼食後。
食後の一服の最中だ。
「慧が動けないから、慧が受け持つはずだった仕事はあんたがやりな」
お母さんが声をかけてくる。
「今は、『街中に出没する妖魔の退治』と『呪詛で汚染された土地の浄化』の二つだね」
うぐっ。
慧を動けなくしたのは自分なだけに、どうにも断りづらい。
「えと、私には自分の仕事が……、それに学校もあるし……」
ギンッ!
母の一睨みで語尾が消えてしまう。
ううう……。
すると、今まで優雅に茶を啜っていた咲耶が。
「母上殿。迷惑で無ければその仕事、わらわがやってもよい」
なんてことを言い出した。
「いいのかい、お客さんに仕事をやらせるのも気が引けるんだが……」
「かまわぬ。わらわとてこの度は迷惑をかけたという自覚があるのだ。少々の償いくらいさせてくれ」
さらに、こちらを意味ありげな目で見て。
「どこかの横暴娘が、慧を行動不能にしてしまったようだしのぅ」
!
この狐、鍋にしてやりたい!
「キツネ鍋はあまり美味くないぞ」
人の考えを読まないで下さい!
~緋宮慧~
「助かる」
体内に温かいものが広がり、自身を蝕んでいた苦痛が治まっていく。
今、俺の目の前には翠色の半透明の女性が浮かんでいる。
これまた、咲耶にも劣らないほどの美女である。
精霊王シルフィードだ。シルフィードが俺に対して回復系の力を使ったのだ。
「悪いな……」
……。
唯衣と咲耶が去った後、いきなり現れ。
〝傷つらそうね、大丈夫。〟
と、話しかけられたのだ。
正確には、頭の中に思念波が届いたのだが。
「しかし……、前回のこともあるが、おまえには世話になりっぱなしだな」
本当に、そう思う。
目の前の精霊がいなければ、俺も唯衣も助からなかったのだ。
と、突然。
〝あなたの持つ感情の波は心地いい。私は、……あなたがあなたであってくれれば、それでいい〟
!
……。
……俺が俺であればいい、か。
「ありがとう」
思わず、感謝の言葉が口をついてでる。
ここまで、素直に感謝の意を示したのは久しぶりだ。
……。
――あなたがあなたであればいい。
つまり、この優しい風の精霊は俺を認めてくれているのだ。
「出来損ない」や「失敗作」と罵られ、故郷を逃げ出すしかなかった、この俺を。
……。
「……」
思わず、涙がこぼれる。
両親にもついに、言われたことのない言葉。
最も身近な存在である、肉親にすらかけて貰えなかった言葉。
――あなたがあなたであればいい。
こんなに嬉しいことはない。
心の中にあった、氷塊がとけていく。
〝あなたは、弱くなんかない。大切なもののために、命をかけられるのだから〟
風の精霊は続ける。
〝大切なもののために命をかけられる。それは強さ〟
優しい風の精霊が正面から抱きしめてくれる。
〝私が、保証してあげる。あなたは決して弱くなんか無いわ〟
「……ありがとう、…………ありがとう」
シルフィードに抱きしめられている。
……ここまで、心穏やかなのは何年ぶりだろうか……。
このままの時間が続けばいいのに、そう思う。
が。
そうは、問屋がおろさない。
どうやら、慧は運命の女神にとことんまで嫌われているらしい。
!
ゾクッ!
全身を、今までに無いほどの殺気が包みこんだ。
「へぇ~、慧って女の人なら誰でもいいんだぁ……」
「ふむ、少々きついお仕置きが必要かもしれないのう……」
唯衣と咲耶だ。
唯衣の後ろには四神が戦闘起動している。
咲耶の両手にはサッカーボール大の雷球が生成されている。
……。
「……いつの間に?」
既に釈明するのは諦めた。
……自分は、何も悪いことはしてないし、釈明の必要もないのだが。……そんな考えも、死の恐怖の前にはなんの意味もない。
体は既に戦闘体勢だ、存在確立の変動も始めている。
「……(にこ!)」
無言の笑顔が非常に怖い。
次の瞬間。
ドガン!
形瀬家の客間が木っ端微塵になった。
その後、一週間ほど、慧は行方をくらませた。
~形瀬美織~
慧が行方をくらませて、三日たった日の晩のこと。
「母上殿、約束の物だ」
自分の部屋に狐ちゃんが尋ねてきた。
「しかし、自分で言うのもなんだが、よいのか?十三家は、わらわの存在を血眼になって探していると思うのだが」
「いいの、いいの」
「そうかのう?」
なんて会話をしながら狐ちゃんが小瓶を渡してくる。
「ようやく手に入れた!『若返りの仙丹』」
この薬が欲しかったから、十三家の決まりを無視してまで、この天狐を匿ったのだ。
他家には「天狐は逃げたため、形瀬家では関知していない」といってある。
……。
狐ちゃんが、なんとも納得しがたい目でみてくる。
「いいかい、人間ってのは寿命があるのさ。ついでに言うなら花の命は短い!」
私だって実年齢より若く見られているが、実際は○歳だ。
しかも、最近はしわが増えたりと肌の衰えが感じられる。
「女はいつだって自分を美しく見せたいものなんだよ!」
「いや、それはわかるのだがのう」
……こいつ、わかっちゃいない!
目の前で不思議な顔をしている狐ちゃんの獣耳を引っ張る。
「年とっても変わらんやつにはわからん悩みだよ!」
「いい、いたい。いたいのじゃ!」
まぁいい、これでまた海に行ったり、プールに行ったと水着が着れる!
露出のある服も着れる!
肌の張りも戻る!
フフフッ!
カムバック・マイ・青春!
「げに、恐ろしきは女の業よのう」
狐ちゃんの頭をどついておいた。
ラストに母がめっちゃ暴走しましたwww
実は、要望があり次第、なぜ慧の下に天狐が来たのか、天狐サイドから書こうかな?とか考えております。
もっともこれは要望など来るか来ないか分からないので、作者の頭の中のプランの一つでしかないわけですがwww
次話はついに主人公の実家が動き出します。
では、では~