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05話 風の寵愛

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

「破ッ!」

 ザンッ!

 風の塊を両断する。

 こちらには風の精霊王(シルフィード)の助力があるのだ。現時点のみで言えば、世界中で俺以上の風使いは存在しないと思う。

 ……。

 なぜかしらんが、シルフィードが非常に協力的だ。

 前々から協力してくれることはあったが、今回は以前の比ではない。

 なにか、好かれるようなことでもしたか?

 記憶にないが……。

 まぁ、いい。今は助かる。

 俺は辺り一帯の風を強引に支配下に置く。これで、ここらの風が俺や唯衣を傷つけることはないだろう。

「何者じゃ!」

 唯衣に攻撃を仕掛けていた女性が驚愕の声を上げる。

 随分きれいな女性だ。

 鮮やかな金色の髪を膝下あたりまで伸ばしている。

 紅玉のような瞳、雪のような肌。花魁(おいらん)のような艶やかな衣、一見高級品とわかる扇子、そして頭の上にある獣耳……。

 ん?

 獣耳!

 ……なるほど、あいつが今回の下手人か。

 天狐の問いを無視し、唯衣の傍に降りる。

「迎えに来たぜ」

 信じられない!という感じでこちらを見上げる唯衣に声をかける。

 目が涙で濡れている。

 くそっ、あの狐め!

「え、ええと。どうやってここまで来たの?今、この世界は完全に閉じているはず……」

 唯衣が疑問を口にする。

 それは、そうだろう。

 完全に閉じている異界に入り込むなど人間の力では不可能だ。

 しかし。

「当たり一帯の風の精霊を総動員して、強引に異界の入り口をこじ開けた」

 俺の答えが、あまりにもぶっ飛んでいたのだろう、両目と口を丸くして。

「何、その無茶苦茶!」

 ……だろうな。

 思わず、苦笑いを浮かべそうになる。

 普通の人間からしてみれば信じられないだろう。

「なぜかシルフィードが協力的でな。風の精霊を操る権限を与えてくれたんだ」

「は?」

 と。

 唯衣とそんなやり取りをしていると。

 金色の光とともに。

 ゴウッ!

 巨大な雷撃が飛んできた。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!

 俺の周囲に展開された風の結界が雷を防ぐ。

「助かった、ありがとう」

 俺は、横に浮かんでいたシルフィードに礼を言う。

 同時に天狐が感心したように言う

「随分と面白い人間じゃのう。風に愛されておるわ」

 風?

 愛?

「風の女王を使役するとはのう、わらわも長く生きているがここまで面白い人間ははじめてじゃ」

 随分楽しそうに言う。

 まぁ、シルフィードについては後で考えるとしよう。

 思考を切り替える。

「唯衣が世話になったな」

 殺意を込め宣言する。

「毛皮にしてやるよ、狐!」


 ドォォォォォォォォォォォン!

 頭上で、ある意味、頂上決戦が勃発していた。

 精霊王 対 天狐。

 天を衝くような巨大な竜巻が何本もたっている。

 竜巻に触れた物は削られ、平地だった地形も完全に変わっている。

 シルフィードだ。

 一方。

 空は薄暗く、所々で雷光が煌いている。

 天狐だ。

 ドォォォォォォォォォォォン!

 再び爆音が聞こえ、竜巻と雷光が空間を埋め尽くす。

 既に二体の戦闘は、人間の領域を大きく超えていた。


 一方で俺は。

 どこだ……?

 一帯の空間の存在確率の分布を調べる。

「そこ!」

 何もない空間に向かって、ゼビュロスを振るう。

 姿は見えない、気配も感じない。

 しかし、いる!

 刃の軌跡をなぞるかのように風の刃が放たれる。

 ヒュゴッ!

 ザンッ!

 空間が揺らめいたかと思うと、仙狐が血を吹き上げ倒れ付す。

 姿が見えないというのは辛い。

 俺は、天狐が放った仙狐(てした)の相手をしていた。

「くそっ、めんどくさい!」

 仙狐一体一体の力はそんなに強くは無いが、なんせ数が多い。

 しかも、こちらは、倒れて動けない唯衣を庇いながらだ。

 その上、時たま落雷が飛んでくる。

 シルフィードが護ってくれているが、心臓に悪い。

 ……チッ!

 ゼビュロスを振るう。

 仙狐が倒れる。

 何度同じことを繰り返したか。

 ここに来る前に、美織(みおり)さん経由で十三家に救援を入れといたが、この様子ではそう長くは持たないかもしれない。

「破ッ!」

 ザンッ!

 今ので、斬った仙狐も四十匹を越える。

「くそ!一匹見れば何とやらのようだな!」

 頭の中に黒い虫が思い浮かぶ。

 ……うげッ。

 頭の中からゴキ○リの映像を追い出す。

 仕方ない!負担がかかるが、背に腹は代えられまい。


 意識の網を周囲に伸ばす。ついでに存在確率の分布も広範囲にわたって調べる。

 ……。

 ………。

 …………!

 なんだ、これは!

 仙狐の、あまりの予想外の数に愕然とする。

 自分が認識できる範囲だけでも三千匹は越えている。

 !

 突然、周囲に大量の炎の気配を感じた。

 狐火!

 ゼビュロスを振りかぶり、叫ぶ!

解放(リリース)!」

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!

 解放された高密度の魔力と暴風が狐火ごと仙狐を引き裂き消滅させる。

 くそ、埒が空きやしない!

 次々と仙狐が襲い来る。

 ザンッ!

 斬り捨てながら考える。

 ……。

 唯衣を見た。

 泣きそうな目で俺をみている。

 唯衣のことだ。自分のせいで俺が危険な目にあっているのが辛いのだろう。

 ……。

 仕方ない。

 これは、……決して使いたくなかった。

 ……だが!

 俺は、叫ぶ!

「シルフィード!頼む唯衣を護ってくれ!」

 頭上で天狐と戦っていたシルフィードが不思議な顔をする。

「今から、俺が持つ最強の力を振るう!唯衣を巻き込みたくない!」

 少しの間、逡巡するがうなずき、唯衣の元に移動してくれた。

 ありがたい!

 これで唯衣を巻き込まず済む。

「最強の力とな!面白いことをいうのぉ、人間」

 空にいる天狐が嗤う。

 今のうちに嗤っていろ!


 カッ!!

 俺の体から紅蓮の魔力が立ち昇る。

 それだけで、周囲の仙狐が塵になった。

「なんと!」

 天狐が驚きの声を上げる。

 唯衣やシルフィードも目を丸くしている。

「仙狐が何匹いようが、いくらお前が強かろうが関係ない!この世界ごと焼き尽くして(・・・・・・)やる!」


 鍵の数は全部で九つ。

 俺は鍵を確かめ、注意深く開錠する。

 俺の中にいるこいつ(・・・)は非常に気まぐれだ。

 言うことを聞くときもあれば、聞かないときもある。

 でも、この現状を打破するにはこいつ(・・・)に頼るしかない。

 一つ解き。

 二つ解き。

 鍵を解くごとに俺の体の奥底から、俺のものではない魔力が湧き上がる。

 全てを解く必要はない、せいぜい二つ解けば、……十分だ。

 言葉に魔力を込める。

 これは、一つの儀式。

 ミスるわけにはいかない。

 ここで、こいつ(・・・)が暴走すればこの国が……、いやこの星が焦土になる。

「我は鍵の守り手にして、担い手なり!我は汝の封印を……、解放する!」

 ドクンッ!

 !

 体内で魔力が荒れ狂う。

 ……。

 意識が遠のいていく。

 ……。

 視界が白く染まる。

 ……。

 全ての感覚が消えていく。

 ……。

「……け…………い…………慧!」

 !

 ああ、……聞こえる。

 唯衣の声だ。

 ……。

 ……頼む。

 頼む。

 頼む!

 今だけでもいい!力を、力を貸してくれ!!


 ――――うん、いいよ。ちからをかしてあげる。


 !

 意識が覚醒する!

 先ほどまで体内で暴れていた魔力が静かだ。

 完全に、支配できている。

 ……これなら、……行ける!

「封印より解き放たれし真なる火よ!」

 体の奥底から湧き上がる紅蓮の魔力を左手に集める。

「天を焦がし、地を支配する焔よ!」

 左手の中に真紅の炎が現れる。

「森羅万象、一切を灰燼とする炎よ!」

 炎が形を造り始める。

「顕現せよ!」

 莫大な魔力と熱量を放ちながら真紅の大剣が手の中に現れる。

「我は解放する、汝『炎の(レー)――……。



 ~形瀬唯衣~

「我は解放する、汝『炎の(レー)――……。

 唯衣の記憶があるのはそこまでだった。

 次の瞬間、視界の全てを真紅の光が包み込んだのだ。


「起きたか?」

 目の前に慧がいる。

「うん、……ここは?」

 あっ、ここは……。

 私の記憶を裏付けるかのように慧が教えてくれる。

「異界の入り口があった山寺だ」

 そう、ここは山寺だ。

 あ!

「慧、神隠しにあった人たちは?」

「焦るなって、今は公安が来て神隠しの被害者たちを病院に運ぶ作業を行っているよ。唯衣の友人も大丈夫だ」

 苦笑しながら答えてくれる。

 よかったー……。

 一瞬の安心の後、ふと気づいて尋ねる。

「ねぇ、あれからどうなったの?天狐は?」

「天狐はわからん、死んでないとは思うが無事ではないだろうな」

 なるほど……。

「もう一つ。……最後のあれ(・・)、なに?」

 私を軽くあしらって、精霊王たるシルフィードとも互角に渡り合った天狐だ。

 そんな天狐が一瞬で、敗北したのだ。

 気にならないはずがない。

 慧が何度か迷うようなそぶりを見せたが、結局「内緒だ」と言って教えてくれなかった。

 慧のいじわる!



 ~緋宮慧~

「内緒だ」

 そう答える。

 流石にあんな物騒な物は、そうそう教えるわけにはいかないだろう。

 ……おいおい。

 目の前の唯衣が膨れっ面になる。

 本当だったら、一人独断先行ってことで私刑にしてやりたいところなんだが。

 まぁ、お互いの無事を祝って後日にしてやる。

 ……。

 後は、シルフィードに感謝だな。

 あれ(・・)のせいで異界が消滅して次元の狭間に放り出された俺と唯衣を現実世界に連れ戻してくれたのは、彼女だ。

 俺をここまで運んでくれたことといい。

 ……やれやれ、当分頭があがらないな。


 後日。

 ドゴォン!

 爽やかな朝の一日が始まるにしては、危険極まりない音が形瀬家に響きわたる。

 唯衣だ。

 なんの警告もなしに、唯衣が玄武の鉄槌を打ち込んできたのだ。

 ……俺を狙って。

 照れた幼馴染ボイスも無ければ、体を揺さぶることもしない。

 問答無用の一撃だった。

 殺気を感じて、存在確率を下げなければ、……内臓破裂ぐらいは起きていたかもしれない。

「何をする!」

 眠気など、とうに消し飛んでいる。

 怒鳴り声と視線を、我が幼馴染に向ける。

 !

 俺の周囲を、先日修理したばかりの四神が囲んでいた。

「あの……、唯衣さんや。これはいったい?」

 スッ。

 唯衣が無言で俺の布団を指差す。

 正確には布団の中の、俺が寝ていた場所の隣、である。

 スー、スー。

 可愛らしい寝息が聞こえる。

 美女だ。

 信じられないほどの美女が、寝ていた。

 ………………………………………………………………全裸で。

 膝下まで届くかのような金髪。

 傷はおろかシミ一つない肌。

 男の願望を具現化したような、ボン・キュッ・ボンなスタイル。

 そして頭の上にある獣耳……。

 ……獣耳?

 ……。

 激しい既視感!

 まさか!

「おまえ!天狐!」

 そう。

 先日、壮絶な死闘を繰り広げた天狐だ。

 俺の叫びに反応したのか。

「ん?」

 半眼を開け。

「朝かの……」

 けだるいしぐさで上半身を起こし。

 伸びをした。

 ……。

「ほう、……これは」

 いくら相手が、哺乳綱ネコ目イヌ科の動物であるとしても、今は絶世の美女である。

 そんなものの裸を真正面から見れば、男なら……。

 ドゴン!

 玄武の鉄槌が俺を吹き飛ばす。

 天狐の裸に気をとられ、存在確率の引き下げをもとに戻してしまったらしい。

 壁を三枚ほど突き破り庭に放り出される。

 ……。

 中から。

「な、なんでこんなとこに居るんですか!」

「くぁー」

「欠伸なんか後でしてください!」

「騒がしい娘じゃのぉ」

 唯衣と天狐の会話が聞こえる。

「もう一度、聞きます!なんであなたが、形瀬家の客間(こんなところ)にいるんですか!」

「『あなた』ではない、わらわには咲耶という名前がある」

「名前をきいているんじゃありません!」

「ところで、娘。朝餉はまだかのう」

「うにゃーーーーーーー!」

 ……究極的に会話がかみ合ってねぇし。

「やかましい娘じゃのう、石にでもしてやろうか?」

「だから!なんで!あなたが!ここに!居るんですか!」

 ……かみ合ってないなぁ。

 ……。

 どうでもいいけど、そろそろ助けて欲しい。

 玄武にやられたダメージが……。

 意識が、……とおく…………なる。

「この胸が羨ましいのか?フフッ、お主は小さいのう」

「世間一般からみれば私のは十分なサイズです!それにDは小さくありません!」

「わらわのよりは見劣りするぞ」

「あなたのが大きすぎるんです!」

 ……。

 ………。

 …………、ガクッ。

これを読んで皆さんの頭の中に「厨二!!」と思った人は何人いることでしょうかwwww

すいません!作者も流石に、厨二過ぎたか?とか思いましたwww


今回は、歴代の中で一番文章量が多かったです。

ついにタイトルにもあった「炎の剣」が登場しました。九つの鍵って時点でバレバレですが……。

さて、次話は今までと違い少し軽めの話になる予定です。お楽しみ(?)に

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