03話 神隠し
最初に謝罪します。前回の後書きで次話は前編・後編になると言いました。
ごめんなさい!量が増えに増えて、前編・中編・後編になりましたwww
「起きて!ねぇ、起きて!」
布団越しに体を揺さぶられる。ついでに幼馴染の照れボイスも聞こえる。
「後、一年は寝かしてくれ……」
「一年も無理だよ」
「じゃあ、あと五分だけでも……」
「しょうがないなぁ」
ため息が聞こえる。
……やれやれ。
……唯衣も、毎朝よく飽きない。
そんな思考も次に聞こえてきた言葉で銀河の彼方まで吹き飛ぶ。
「『玄武』、準戦闘起動。右腕部鉄槌機巧・装填」
……玄武?
ふむ、たしか形瀬の家に伝わる戦闘用の人形にそんな名前の人形が……。
……。
………。
…………!
ドゴォンッ!
玄武の腕から発射された鉄槌は床板を打ち抜くほどの威力があり、屋敷中に冗談じゃすまない衝撃が発生する。
「あはは、ようやくおきたよぉ」
かわいい顔とかわいい声で、欠片もかわいくない事を実行したのは我が幼馴染だ。
鉄槌は俺――緋宮慧を狙ったわけではないが。……正直、余波の衝撃だけで局地的な震度四オーバーの地震が発生したと思う。
ちなみに俺は、鉄槌が発射される直前に自身の存在確率を引き下げたことで、衝撃やその他もろもろの被害をかわした。
「唯衣よ。人を起こすならもう少し穏便な方法にしたほうが良いと思うが……」
「神隠し?」
「うん。半年前から町の各地で人がいなくなる、という事件が多発しているんだ」
これは、朝食での会話である。
現在、俺は形瀬家に居候している身である。せめて滞在中の食費ぐらい払おうと思ったのだが。
「大丈夫、こう見えても形瀬家は割とお金持ちなんだよ」
と、笑顔で断られてしまった。
……そりゃぁ、十三家の一角。金に困ることなんてないのだろう。
しかし、流石の俺ものうのうと居候になれるほど厚顔無恥ではないつもりだ。
なので、形瀬家に持ち込まれる依頼をいくつか受け持つことで妥協した。
そのうちのひとつが「神隠し」である。
「しかし、このご時勢で神隠しとは……、また古風だな」
パリッ!
……うむ、この漬物は素晴らしい。いい仕事をする。
「警察に被害届は?」
「一応出ているけど、失踪した人は一人も見つかっていないのが現状かな」
ふむ……、神隠しか。
神隠しの原因は大きく分けて二つある
一つが迷い込みである。いわゆる神域や異界などに誤って入ってしまうことだ。
これは次元の裂け目や、異界への入り口が開くことで発生する。迷い込むのが術者やそれに類する者、そういった事態に対して知識があるものであれば問題はない。また一般人が迷い込んでも救出は比較的容易である。
「門や裂け目が出来た跡は?」
「……それが、その……見つからなくて」
唯衣がいいにくそうに答える。
……なるほど。
「それは、つまり……」
つまり……。
パシンッ!
頭を叩かれる。
「食事中に仕事の話をするもんじゃないよ!ご飯のときははちゃんの飯を食う!」
!
「ご、ごめんなさい!お母さん」
「す、すいません。おば……」
ギラリッ!
「美人のお姉さん!」
怒られてしまった。……確かに飯時にする会話ではなかったな。
「ったく」
たった今、俺と唯衣を叱ったのは唯衣の母である、形瀬美織さんだ。
十三家、形瀬家の頂点である。
若いときは凄腕の人形師として有名だったらしい。
俺との間柄といえば。
緋宮家でのけ者にされていた俺の面倒を見てくれた良い人だ。
そんな事もあって、今でも頭が上がらない。
容姿については、流石に唯衣の母だけあってなかなかに美人だ。とても一児の母とは思えない。艶やかな黒髪を頭の後ろで束ねている姿も、活動的でなんとも似合っている。
ちなみに「おばさん」と呼ぶと『黄龍』で吹っ飛ばされる。俺も吹っ飛ばされて一週間近く寝込んだ記憶がある。
……朝の玄武の一件といい、形瀬の血には暴力的ななにかがあるのだろうか?
その後、美織さんに睨まれたため仕事に関しての話はできず、朝はそれでお開きになった。
「……しかし、門が開いた跡も、次元の裂け目が出来た跡もなし、か」
俺が借りている客間である。
先ほどの続きになるが、神隠しの原因のもう一つ。
それは、人ならざる者の手によるもの、である。
この場合、痕跡が消されることがあり、跡をたどるのが難しいのだ。
……十中八九、こちらが原因だろうな。
思わず、ため息が漏れそうになる。
こちらだった場合、迷い込みに比べて危険度が格段に高くなるのだ。
迷い込みは、ある意味自然現象だ。そこに第三者の意思は存在しない。しかし、人外の者が原因だとするとそこには「人間を攫った」者の意思が存在する。
想像したくはないが、喰われている可能性とてあるのだ。
以前、外国で似たような仕事をした覚えがある。
イギリスの町で何十人もの人間が失踪して、急遽俺が担当することになったのだが。
結論から言えば、妖魔の仕業だった。下水道に巣くったスライム状の妖魔が人間を引きずりこんでは、……喰っていたのだ。そいつの足元に、おびただしい数の白骨があったのを覚えている。
頭を振って、その記憶を追い出す。
……さて、どうしたもんか?
トントン!
扉を叩く音が聞こえる。
「慧、頼まれた物だよ」
「おう、来たか」
いいタイミングだ。
実は、唯衣に頼んで、失踪者の名簿を警察から借りたのだ。
「はい」
「助かる」
パラパラパラパラパラ……。
……。
……チッ。そう、うまくはいかないか。
「どう?」
「無理だな。星座、血液型、生まれの地、男女、年齢、住所、失踪前の足取り、失踪したであろう日付・時間。なにか共通点があるかもしれないかと考えたのだが……」
何もない。
どういうことだ?
迷い込みではない。しかし、これだけの人数が半年の間にいなくなるのだ。何か共通点くらいあってもいいはず。
なのに、なにもわからない。
しかし……。
………………ん、これは?
依頼書の詳細をみて疑問が浮かぶ。
「唯衣」
「ん、なに?」
「この、依頼だが。発注されたのは随分と前だな」
三桁に近い数の人間がいなくなったのだ、普通ならすぐに解決に乗り出すはず。
「発注されてから今まで、誰も手をつけなかったのか」
「あー、それは……」
「それは?」
唯衣が何度か迷うようなそぶりを見せたが。
「その依頼、最初は櫻森家に届いた依頼なんだ。……でも結局解決できなくて、」
!
櫻森家が解決できなかった、だと?
櫻森家は宿曜道の大家だ。
占いなど、探し物は得意のはず。神隠しの解決なら確かに適任のはずだ。
それが……。
唯衣が続ける。
「櫻森家が根をあげた後、円條家、庚仙家、巫家にもいったんだけど、……どこも解決できなくて。最終的にたらい回しにされて形瀬家に来たんだよ」
!
円條、庚仙、巫も解決できなかったのか。
……。
いよいよ、気になるな。
……よし!
「少し、裏技になるが。調べてみるか」
「ええ?なんか方法でもあるの?」
軽く驚きを見せる唯衣に、にやりと笑い顔を見せ。
「言っただろ。裏技だよ、裏技」
庭に出る。
母屋から離れたことを確認し。
「よーし、ここらなら問題ないだろう。唯衣、離れてろ」
懐から愛用の短剣を取り出し、構える。
息を大きく吸い、叫ぶ!
「応じよ!」
一度目の呼び声で、柄の宝石が輝く。
相変わらず綺麗な緑色だ。
「応じよ!」
二度目の呼び声で、周囲に風が巻き起こる。
まだだ。
「応じよ!」
三度目の呼び声で、風がさらに勢いを増す。
既に暴風といっても過言ではない。
だが、まだだ!
「応じよ!」
四度目の呼び声で、……来た!
「うわぁ」
唯衣が感嘆の声を上げる。
今、俺の目の前には、半透明の翠色をした女性が浮かんでいる。
美しい女性だ。
しかし、その美しさは生きているものが持つ美しさではない。例えるなら、ガラス細工や芸術品、雄大な光景が持つ美しさに似ている。
「少し、調べて欲しいことがあるんだ。頼まれてくれないか」
言葉に魔力を込め、意味を伝える。
少しの間が空いた後、うなずいてくれる。
スッ。
女性の両腕が俺の顔に触れる。
しばらくして、離れると。
―――――♪
女性の口から、鮮やかな旋律が流れ出す。
同時に。
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!
渦巻いていた風がさらに勢いを増す。
……。
………。
…………。
何秒たったのだろうか?
十秒か、それとも二十秒か。
やがて渦巻いていた風が収まると、女性は俺の顔に再び触れた。
頭の中に様々な情報が流れ込んでくる。
!
これは!
情報を伝え終えたのだろう。
女性は離れると、艶やかな笑みを浮かべ。
溶けるように消えた。
「慧!」
離れていた唯衣が駆け寄ってくる。
「何?あの人は何だったの?」
俺はどうにか答える。
「人じゃない、精霊だ。正確には風の精霊王『シルフィード』、ゼビュロスを祭具代わりにして、召喚したんだ」
唯衣が驚嘆したように言う。
「精霊王の召喚!すごい、すごいよ!普通だったら最上位の召喚師でも呼び出すのは至難の業なのに!」
だが、俺の心中は焦燥に満ちている。
唯衣の賞賛にも反応できない。
「唯衣」
「え?」
あまりに俺の様子がおかしかったのだろう。笑みが消える。
「現在、皇家で動ける人間はいるか?」
「皇家?……無理だと思うよ。若様も姫様も、依頼で外国に行ってるから。二週間は帰って来ないんじゃないかな?」
なんだと、こんなときに!
「慧、本当にどうしたの?」
俺の様子が尋常じゃないのか唯衣が尋ねてくる。
……。
隠しても、意味がない。
俺は正直に答えることにした。
「神隠しの黒幕がわかった」
「…………天狐だ」
たくさんの家名が出てきました。用語紹介でもしようかなと悩んでますwww
ついでに、主人公のチート属性がいよいよ本領発揮です。
次話は中編ですね。
では、では~