02話 亡霊綺譚
白状しますと、プロローグを投稿した時点でこの話まではできてました。ただ、改稿と修正に時間がwww
まぁ、みなさん、誤字・脱字・文法の誤りは空のように広い心で許して下さいww
泣き声が聞こえる。
……えーん、えーん。
幼子が親を求めて上げる声のようだ。
……えーん、えーん。
……。
「チッ」
俺――緋宮慧は閉じていた目を開ける。
視界に移ったのは駅舎の屋根と、……半透明の幼子の姿だ。
幼馴染の唯衣の家に向かっていたのだが、電車の接続を間違え無人駅のベンチで一晩明かすことになったのだ。
ここはN県の田舎、その上自分が乗ったのはローカル線だ。ひとつ接続をミスれば一時間、二時間待ちなど珍しくも無い。
……とはいえ、一晩待ちはないわ。
自分の運のなさを恨みたくなる。
そのうえ、これだ。
先ほどから頭の上で幼子の亡霊が泣き叫んでいる。
悪霊化はしていない、おそらく霊を認識できる自分に訴えたいことがあるのだろう。害意が無いため展開した結界も意味がない。
三十分前か延々と泣かれている。安眠妨害も甚だしい。運命の女神は俺に試練でも与えたいのだろうか?
俺は自身の安眠と精神の安寧のため、幼子の亡霊の訴えを聞くことにした。
「話せ、俺に何をして欲しい」
言葉に魔力を込めて、この世ならざるものにも意味が伝わるようにする。
すると、今までただ泣くだけだった亡霊は拙いながらも意味のある言葉を紡ぐ。
「あのね、おかあさんをたすけて」
「わるいひとにつかまってるの」
……。
ふむ。
「悪いな、お前の記憶を読むぞ」
亡霊の体に触れ、霊体の内部に意識の網を投げる。
正確には幼子の霊体を構成する霊子に接触して、その記憶を自らの内に取り込むのだ。
この亡霊が体験したことを、自らが追体験するようなものだ。
……。
正直、今度こそ運命の女神を呪いたくなった。
目の前の幼子が体験したものは俺の想像の遥か上をいったのだ。
四肢を潰され、腹を裂かれながら死んだ自分。
死んだ自分の見ている前で、母親は狂った男の慰み者になり、果てに首を絞められ殺された。
そして、死してなお男の生霊に囚われ続ける母の亡霊。
「たすけて、たすけて、たすけて」
死してなお母を想いただ一人助けを求める幼子。
……。
俺は正直、自分はけして良い人間ではないと思っている。
ただ働きはゴメンだ。俺を雇いたいのなら報酬を寄越せ!
しかし。
「…………。お前のために動くんじゃない。これは、俺が俺の精神衛生上のために動くんだ。……ただ、その過程でお前の母親を助けてやる」
今回は例外だ!
「教えろ。場所はどこだ」
「けえ?けえ?」
「慧だ!け・い!」
そんなやり取りをしながらたどり着いたのは集合住宅の一室だ。
俺は、自らの存在確立を引き下げることにより、この世界に存在するあらゆる物質の透過が可能になる。
それはつまり。
「どろぼー、どろぼー」
「うっさい!帰るぞ!」
鍵が無くてもドアをすり抜け、建物の中に進入可能ということだ。
……どこだ?
この子から得た情報では、この部屋に母親の亡霊が囚われているはず。
……。
………。
…………!
そこか!
台所だった。
正確には台所にその入り口があった。
「まさか、異界になっていたとはな」
苦笑しながら、懐から愛用の短剣を引き抜く。
かれこれ三年以上の付き合いになる相棒だ。
銘は『豊穣の風』。精霊銀の刀身に、柄に緑色の精霊石をはめ込んだ一品だ。
「おまえはどうする?」
幼子の亡霊に話しかける。
「ここで待っていても構わないぜ」
「いく、いく。おかあさんたすける」
「そうか。なら、根性見せろよ!」
ゴウッ!
ゼビュロスで一気に異界の入り口を広げた。
「気持ち悪いな。まるで内臓の中にいるようだ」
正直な感想だが、間違ってはいないと思う。
周囲は脈動しながら、赤になったり黒になったりと変化を続けている。
「きもちわるい?」
勘違いしたのか、亡霊が聞いてくる。
「周囲のことだ」
苦笑いで返す。
……。
!
居た!
一際広い場所に出たかと思ったら、……そいつは、いた。
こちらに気づくといやな笑いを浮かべながら口を開く。
……。
「ヒヒヒッ!誰かと思えばあのときの餓鬼じゃねぇか!ママの恋しさに、また殺されにきたのかい」
ボサボサの髪にギラギラの目、だが、……その姿はどこまでも人間だった。
「お前のママは美味かったぜ、極上の味さぁ!」
先日やりあった、妖魔とは比べ物にならないくらいに、……人間だった。
「今も、俺の腹の中で叫んでいるよ!」
……だから!
「早く逃げてってなぁ!」
……こそ!
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」
許しがたい!
ザンッ!
「あ?」
気づいたときには男の生霊を切り刻んでいた。
「貴様には、懺悔の時間も、後悔する時間も与えない。ただ、消えろ!」
男から解放された母親の亡霊も伴って外にでる。
「けえ、けえ。ありがと、ありがと」
幼子の亡霊が自分に感謝の言葉を贈ってくる。
他人から感謝されるのはどうにもなれない。
「ここでお別れだ。母親も助けたし、あの生霊も消滅させた。さっさと成仏しろ」
もうちょっと、言い方もあるだろうに……。
思わず自分で突っ込みを入れてしまう。
「本当にありがとうございました。何かお礼をさせて下さい」
母親の方も感謝の言葉を送ってくる。
「ただの気まぐれだ。礼などいらん」
横を向く。
「気持ちだけでも」
いらないというに……。
「このまま駅に向かう途中に小川があります。それを、上流に向かって歩いていってください。十分ほど歩けば、……お礼ができます。」
「礼といいつつ、恩人を歩かせるのかよ。まぁ、気が向いたら行ってやる」
――けえ、ばいばい。
笑い声がして……、……正面を向いた時には亡霊の親子はいなくなっていた。
ここか。
駅まで戻る途中に確かにあった。
小さな小川だ。
どうせ始発まで暇だったので、母親の亡霊が示した場所まで着てみた。
……なにも、ないじゃないか。
担がれたか?
しょせん、暇つぶしだ。
そう考え、帰ろうとした瞬間だった。
!
これは!
俺の周りには鮮やかな光の粒が舞っている。
蛍だ。
……なるほど。これは素晴らしい光景だ。
蛍の淡い光に照らされて幻想的な光景が浮かび上がっている。
「はは、意外にただ働きも悪くないじゃないか。これは十分な報酬だよ。」
こんど唯衣でも連れてきてやろう。
天を仰いでつぶやく
「ああ……、ばいばい、だ」
後日。
「やばい!非常にヤヴァイ!」
蛍を見ていたからか、電車の中で眠ってしまった。
車掌に起こされ気づいたのが終点、とかいうありさま。
一瞬、脳内で頭から角をはやした唯衣の顔が浮かぶ。
「ただでさえ一日遅れてるのに!」
……。
結局、形瀬家に到着したのはその日の夕方で……、慧はさんざん唯衣に絞られたのだった。
慧君の持っている短剣「ゼビュロス」ですが、元ネタはギリシャ神話の風の神様の名前です。><b
実はこの短剣、すんごい力があるんです。次の話しで公開します。
……?、アレ?一つ前の話でも猛威をふるってなかったっけ?……キニシナーイ!
さてさて、次回予告ですが、次の話しは作者初の前編・後編になる予定です。
では、では~