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14話 時計塔

「私用だ。この後、出かける」

 俺――緋宮慧は、食卓にいる皆に言った。


 工房で唯衣が四神を召喚した五日後の朝のことである。

「時計塔まで行ってくる」

 続けて言う。

 ……。

「時計塔ですか、ご一緒しましょうか?」

 これは、厨房から朝食を運んできたティアだ。

「やめておけ。お前が来たなんて知ったら、錬金科の連中が喜び勇んで解体(ばら)しにくるぞ」

「うぅ」

 ひるんだティアに苦笑しながら朝食を食卓の上に並べていく。

「時計塔?」

 こちらは皆のカップに茶を注ぎながらの唯衣だ。

「ああ、イギリスの時計塔。世界有数の魔術師育成機関だ」

「へぇー」

 日本の呪術は血族内での継承が主だ。

 集まって術を学ぶ、というのが珍しいのだろう。

「しかし、そんなところに何をしに行くのじゃ?」

 これは、最初から座って欠片も手伝う気配を見せない咲耶だ。

「お前も少しは手伝え」

「いやじゃ、めんどくさい」

 即答かよ。

 ……はぁ。

 最近、めっきり多くなったため息を一つして説明する。

「ああ、もういいよ。ったく。時計塔には俺の知り合いがいるんだが、そいつに俺らの入国に関してのことと、唯衣のパスポート類の入手を頼んだんだ。後、咲耶の保護指定も」

 ついでに、国のお偉いさんに顔が効くやつでな、と付け足しておく。

 と。

「これで最後です」

 ティアが再度、厨房から朝食を運んできた。

 うむ。

「とりあえず、朝食(めし)だ」

 ……。


 ……。

 今は朝食後の一服の最中だ。

「入国のこととパスポート類?」

「保護指定?」

 最初の疑問は唯衣、次が咲耶だ。

 ……やれやれ。

 とりあえず、最初の疑問から答えてやることにするか。


「外国に行くのにはパスポートとビザという物が必要だ。ついでに言うなら本来国から国に渡るには出国審査と入国審査がある。だが、今回俺たちはそれら全てを無視してここにいる。つまり今の俺たちは立派な密出国と密入国。分かりやすく言うなら、バリバリの犯罪者だ」

 そう、俺たちは咲耶の背に乗って日本を出てこのイギリスにいる。

 道中に出国審査や入国審査などあるわけがない。

「ええ!じゃあ私たちどうなるの?」

 ……なんか、むっちゃ驚ろかれた。

「そうならないために、俺が裏から手を回してたんだろう……」

「あ、だからなのか!」

 今更の納得。

 ……おいおい。

 ……。

 次の質問に答える。

「保護指定っていうのは、魔術師やそれらに類するもののターゲットから外すための制度だ。咲耶なら欠片も問題ないだろうが、街中に出会いがしら喧嘩を売られたら厄介だろう」

 最も、この天狐が不覚をとる姿など文字通り欠片も想像できないが。

「なるほどのう。わらわにたいする一種の入国許可みたいなものか……」

 まぁ、厳密には違うが、似たようなものだ。

「そういうことだ」

 ……。

 と、唯衣が聞いてくる。

「それらを、時計塔にいる慧の知り合いがなんとかしてくれるの?」

「そうだ。それくらいの事はさせても罰はあたらん」

 簡潔に返事を返す。

 しかし、唯衣が重ねて聞いてくる。

「でも、外国人のパスポートやビザなんて手に入れるの大変なんじゃない?」

「大変だろうな。だが、その苦労は俺が背負う物じゃない」

 ……。

「……慧、その人になんか恨みでもあるの?」

 俺の言動に、不穏当なものを感じたのか唯衣が改めて聞いてくる。

「知らん」

 ……。

 はぐらかしたが、全てを知っているティアが横で苦笑していた。


「では、行ってくる。二泊して明後日の夜には戻る予定だ」

 いつも通りに黒い上着を羽織る。

 見送りには唯衣と昨夜が来てくれた。

 ん?

 こういう時は、真っ先に来るはずのメイドがいない。

 ……ふむ、まぁいいか。

「じゃあ」

 な、とは続かなかった。

「マスター、やはり私もご一緒します」

 ティアがメイド服の上にコートを羽織って現れたのだ。


 唯衣や咲耶が自分も付いていく、だの食事はどうする、だのと騒いだが。

 ティアが笑って。

「これから食事をすべてパンと水だけにしますよ」

 と微笑んだら見事に沈黙した。

 ……。

「マスターは怒っていますか?」

 道中の列車内での会話だ。

「いや……」

 思わず、苦笑する。

「俺がイギリスにいるときは、いつもお前と一緒に行動していたからな。今回もこうなるんじゃないかという気はしていたよ」

 そう。

 俺がティアを修理・改修してからは、常にティアは俺と行動をともにしていた。

 おそらく、今回もなんだかんだ言って付いてくるのではないかと予想はしていたのだ。

「最近、唯衣様と咲耶様が一緒で騒がしかったですから。……たまには二人で静かに過ごすのもいいかなと……、その、思いまして……」

 苦笑する。

「帰ったら、唯衣と咲耶にしばかれるな」

 ……だが。

「……そうだな、たまには静かなのもいいものだ」

 そうして、俺とティアは久々に二人で行動し、ロンドンまでの行程を消化した。


 ちなみに、その頃。

「とりあえず、帰ってきたら死刑じゃ♪」

「同感、四神もあるしね♪一応、お土産次第で手心を加えてあげるよ、慧♪」

 ……。

 のどかなカントリーハウスを強烈な怒気が包んでいた。




「あいかわらずだな、霧の街ロンドンとはよく言ったものだ」

 夜行列車で一晩明かして、早朝にロンドン郊外に到着した。

 辺りは、深いとまでは行かないが、濃い霧に包まれている。

「そうですね。でも、私たちには好都合ですよ」

「ちがいない」

 苦笑しながら、ティアに返事を返す。

 ……。

 実のところ、時計塔はこの世界とは異なる大規模な異相空間に作られていたりする。

 そして時計塔への入り方は主に二つ。

 一つ目は、正規の手順を踏んで、この世界に設置されている(ゲート)からはいる。

 二つ目は、専用の魔道具用いて、直接入る。

 である。

 俺たちが行うのは一つ目だ。

 ……。

「着いたか」

 目の前には古びた大きな鉄扉があった。


 鉄扉に掌を当てて、魔力を流し込む。

 ィィィィィンッ!

 僅かに、音が鳴り。

 ボゥッ!

 鉄扉の表面の彫刻に光が走る。

 次の瞬間。

 ブゥゥゥンッ!

 周囲の空間が歪み、色彩を失う。

 ……。

 ……何時見ても3D酔いしそうだな、これは。

 ……。

 暫くして徐々に歪みが晴れ、色彩が戻ってくる。

 やがて、周囲の歪みが薄れていき、全てが戻ったときには全く知らない場所に立っていた。


 周囲は草原と海がある。

 後には、先程の鉄扉。

 そして、目の前には、……巨大な城があった。

「いつみても、エディンバラ城だろう、これは……」

 一応、時計塔らきし物は存在するが……。

 ティアが後でどう答えたものかと、悩んでいる風だ。

 ……。

 まぁ、いい。

「行くか……、俺は待つのも待たせるのも嫌いだ」

 ティアを伴って歩き出した。

 ……。


「よく来たわねー、慧♪」

 ここは欧州魔術師連盟・魔術師育成機関『学院』、通称・時計塔、の学長室だ。

 目の前で、ニコニコしている見た目(・・・)が若い女が学長のリーラセレーナ。

「無駄話をする気はない、さっさと頼んでいた物を渡せ」

 ……。

 この女と関わるとろくな目にあわない。

 そもそも、出会いからして最悪だった。

 ……。

 だが、この女の持つ人脈は本物であり、その影響力は国の頂点である女王にすら届く。

 それ以外にも、欧州ではこの女の一言で国が動くというのだから恐ろしい。

 できるだけ係わり合いになりたくはない。

 だが。

 現状を俺がどうにかするにはこの女の人脈を頼るしかないのだ。

 ……。

「はいはい、慌てないの。……はい、これよ。貴方のお姫様のポスポートとビザ、貴方の分もあるわ。あとこちらが、貴方の連れ込んだ狐さんの分」

 ……ふん。

 パラパラパラパラパラッ。

「……確かに」

 中身を見て、その書類が正規なものだと確認する。

 貰う物を貰えば、さっさと帰るにこしたことはない。

 後で控えていたティアに声をかける。

「行く」

 ぞ。とは言えなかった。

 リーラセレーナがニコニコ顔で、割り込んできたのだ。


「最近、学院に届けられた依頼の中にめんどくさい物があってねぇ。依頼を受注した学院の生徒三人と教授職が一人行方不明になったのよぉ~」

 ……。

「さて。ティアよ、帰るぞ。俺はもう全力で帰りたい」

 振り返って、扉のほうに足を向ける。

 だが。

「慧、貴方のお姫様って、十三家の人間でしょ」

 !

 チッ!

 思わず、舌打ちが鳴る。

「しかも形瀬家の次期当主様♪もう、パスポートとか用意するの大変だったんだから~」

 ……。

 嫌な予感が止まらない。

「下手をすれば外交問題に発展したのよ、……まさかただで帰ったりしないでしょうね♪」

 あのなんとも言えないスマイルが腹立たしい。

 ……。

 しぶしぶと振り返る。


「……今度は何をやらせたい?」

 以前、この女には最上級妖魔の討伐をさせられたことがあった。

 悪い意味で、いい記憶だ。

「だから、学院の生徒三人と教授職が一人行方不明になっちゃったのよ、誰かこの依頼を受けてくれる人はいないかしら~♪」

 ……なんという、わざとらしさ。

 しかし、俺もただでは引き下がれない。

 この女が持ってきたものだ、並みの依頼ではないはず。

「……イギリスの国籍を二つ用意しろ」

 俺は宣言した。


「イギリス国籍を?また、なんで?」

 ……。

 一応、説明はしておこう。

「最悪、俺たちはここに永住する可能性がある。日本に戻れば、割とめんどくさいことになるからな」

 一応の保険だ、と付け加える。

 強制送還も勘弁願いたいしな。

 ……。

 リーラセレーナが黙り込む。

 俺と唯衣の書類を用意する上で、多少は今回のお家騒動のことを調べたはずだ。

 いろいろと頭の中で考えているのだろう。

 と。

「日系イギリス人のものになるけど?」

 ……。

 ……ここらで、手を打っておこう。

「OKだ。依頼の内容を話せ」


 ……まぁ、こうなると思ったから二泊三日だったわけだが。

 なんというか、疲れる……。

まず、最初に謝辞を。

どうにも、作者の作品がパクリだパクリだ、と思われているようです。

作者としては、冒頭の設定は確かに影響を受けていますが、ストーリーの流れや物語内の設定はなるべくオリジナルにしたつもりでした。

もし、この作品がパクリと思われたなら、作者の不覚の致すところです。


今話をもって、しばらく更新をやめたいと思います。

この作品を読んでいただいて「面白い、続けて欲しい」との声が多くあるなら、いずれ再開しようと思います。


この、作品を読んでいただいた、全ての方に感謝を

m(_ _)m

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