13話 工房
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい
「慧、地下ってなにがあるの?」
朝食後での会話である。
俺――緋宮慧にそう尋ねたのは俺の幼馴染である、形瀬唯衣だ。
「工房だ」
「工房とな?」
俺の返答に反応したのは、俺の真横にいる美女、咲耶だ。
「ああ、正確には魔術師の工房だがな」
「魔術師の工房?」
再び唯衣が疑問を投げかけてくる。
……。
ふむ。
「そういえば、東洋圏にはない概念だったな」
まぁ、当分はここで暮らすのだ、説明ぐらいはしてやるか……。
「簡単に言えば『自分の陣地』だ」
続ける。
「魔術にとって、土地というのは重要な要素でな。土地を自分のものにしているか、していないかで魔術自体の精度や威力が格段に違う。特に、大規模な魔術や儀式魔術などが、最たるものだ」
そう、魔術を行使する上で、その土地から補助を受けるのと受けないのでは大きな違いがある。
「そこで、その土地に「土地は自分のものだ」と証明するのだが、その証明が「魔術師の工房」だ」
ズズズッ。
ティアが入れてくれた番茶をすする。
……美味い。
紅茶も嫌いではないが、俺はやはり食後には番茶が一番だ。
……。
さて、続けよう。
「また、魔術師の工房は一種の儀式場であり、そこで魔術師は祭主になる。そこにいるだけで、魔力の回復や怪我の治癒が早まる。また俺の工房もそうだが、基本工房は竜脈の上や霊地の上に作る、これにより工房を一種のろ過装置として、竜脈や霊地からのバックアップも受けられたりするんだ。ちなみにティアを修理・改修したのも俺の工房の中だ」
ズズズッ。
……茶請けに煎餅が欲しいな。
説明の後で、ティアにでも頼むか……。
「俺の魔術師としての技量や魔力は三流だが、工房の中に限っていえば、少しはましになる」
まぁ、そんなところだ。と言って説明を終りにした。
「ティア、茶請けに煎餅を頼む。後、何か質問は?」
前半の言葉はティアに、後半の言葉は唯衣と咲耶へのものだ。
と。
「私の実家の工房とは、全然違うんだねー」
唯衣だ。
「ああ、形瀬家の工房は人形作製のアトリエだが、俺の工房は術者の儀式場だ。そもそもの意味が違うな」
……最も、ティアを修理・改修したのも俺の工房だから、ある意味形瀬家同様にアトリエでもあるな、と心の中で付け足しておく。
……。
「慧よ」
今まで黙していた咲耶が声をかけてくる。
「なんだ」
……。
なんだろう、この「おもしろい玩具を見つけました!」的な笑顔は……。
……まさか。
「その工房だが、少々見てみたいのう」
……。
魔術師の工房といえば、魔術師にとって第一級の極秘事項だ。
最も。
「……好きにしろ」
俺にとっては、自分の私室以下の価値しかないが。
だが、どうにも口から漏れるため息だけは止められなかった。
……はぁ。
~形瀬唯衣~
「咲耶、私も行く!」
是非とも見てみたい。
「よい、よい。ともに行こうではないか」
咲耶もテンションが高い。
ティアちゃんを修理・改修したのだから、多少の設備や道具があるはずだ。
人形師としての好奇心がどうにもうずく。
それに、呪術師としてもその工房とやらには興味がある。
……。
上手くすれば……。
と。
「マスター、お煎餅です」
ティアちゃんが菓子鉢にお煎餅を載せて戻ってきた。
「ティア、そこの二人を工房まで案内してやってくれ。ついでに、中を荒らされないように監視も頼む」
と、いうことでティアちゃんが案内してくれた。
……。
「この扉の奥が、マスターの工房になります」
ティアちゃんが案内してくれたのは、古い石の階段を降りたところに在った、重厚な鉄扉だ。
「一応、マスターから言われているとは思いますが、中にはそれなりの貴重品や重要な物が数多くあるので、気をつけて下さいね」
そんな注意の言葉に。
「はーい。わかったから、早く!」
「うむ。わかったから、早く開けい」
……。
ティアちゃんの口元が引きつったような気がするが、気にしない。
「へぇー」
一言で表すなら、ワインの置いていないワイン蔵だった。
しかし。
「意外に、狭いものじゃな」
咲耶の言には同感だ。
高さは三メートルあるかないか、四方はおおよそ十五メートル×十五メートル程度だ。
そんなに狭いという程のものではない、が。
円筒、歯車、鋼線、水銀等の自動機械人形の部品に、液体を詰め込んだ小瓶が多数、刀剣や槍などの武具、包帯でグルグル巻きにしてある何か、それ以外にも内部がぎっしり詰まったコンテナ。
「これは、確かに狭い……」
散らかっていて、非常に狭く感じるのだ。
……。
「先程の説明からして、もっと大掛かりなものと思ったのじゃが」
工房の中心を見ながら、咲耶が呟く。
工房の中心には、白い線で簡単な魔方陣が描き込まれていた。
「これだけとはのう」
……。
……流石は天狐、一目でこの工房の役割と意味を理解したのだろう。
すると、ティアちゃんが。
「えーと、本来の工房というのはもうちょっと大掛かりなんですが……」
苦笑いしながら。
「マスター曰く「魔術師として大成する気はない、使えれば十分だ」と……」
……。
使えれば、十分か……。
……。
「咲耶、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど」
「ん、なんじゃ?」
近寄ってきた咲耶の耳元で、企み事を語る。
……。
………。
…………。
「よい!のった!」
楽しいことや面白いことが大好きな狐に今は感謝。
よし!
では、まずティアちゃんを……。
「人形よ、少々寝ていて貰うぞ」
咲耶が怪しい笑みを浮かべて宣言した。
~緋宮慧~
「近いうちにそちらに行く。……ああ。後、頼んでおいたパスポートや入国許可についても頼む。……ああ、問題ない。……切るぞ」
ガチャンッ。
受話器を置く。
「やれやれ、世話のかかる事だ……」
外国修行時代の伝を辿って、唯衣のパスポートと、俺と唯衣のイギリスでの滞在許可と入国許可を取り付けたのだ。
……。
ソファーに座って、横に置いてあった本を開く。
騒がしいやつ等は下に行っている。
ティアも付けたのだから、問題はないはずだ。
……。
パラッ、パラッ。
ズズズッ
暫くの間、ページをめくる音と茶をすする音が響く。
……。
と。
!
急に、不規則な力の流れが発生した。
発生源は、……下!
「おいおい……」
あいつらのことだから、危険はないはずだが……。
……はぁ。
ため息一つして、立ち上がる。
「何やってるんだか……」
とりあえず、下に行くことにした。
~形瀬唯衣~
「ハレヒロハレホロ~……」
ティアちゃんが意味不明なことを呟きながら倒れている。
きっと、アイマスクがなかったら、瞳はグルグル模様だったに違いない。
と、咲耶が声をかけてきた。
「よしじゃ!竜脈が繋がったぞ」
やった!
「今この部屋は霊的には、日本の土地の一部じゃ」
……。
咲耶に頼んで、この工房の下を通る竜脈に干渉したのだ。
現在、工房の下を通っている竜脈は日本の竜脈に接続されている。
人間が同じようなことをすれば、何ヶ月もの準備と何十人もの術者が必要になる。
しかし、そこは流石天狐。僅か一分たらずでやり遂げたのだ。
呼吸を一つ、息を整える。
自分の意識を集中して、呼び出したい物を想像する。
……。
よし!
「召喚!」
自分の周囲に四つの光の円が広がる。
それは、ちょうど、東西南北に位置していた。
!
手ごたえを感じる。
来た!
キィィィィィィンッ!
それぞれの光の円の中に何かが召喚された。
~緋宮慧~
扉のすぐ横でティアが意味不明なことを呟きながら転がっている。
……目の前には、なぜか形瀬家の戦闘用人形・四神が在った。
……。
「ええと、……ほら、やっぱりこの子たちにも来て欲しくて」
……。
つまり、唯衣は俺の工房を利用して、日本から四神を呼び寄せたかったらしい。
形瀬家の異能の人形召喚は、術者によって呼べる距離があり。
唯衣の実力では、イギリスでの召喚は無理だったそうだ。
……。
「……なら、最初から言え」
どっと疲労が押し寄せて来る。
「工房ぐらい使わせてやる。今更、嫌という仲でもあるまい」
……はぁ。
本日、三度目のため息が出た。
その後、唯衣と咲耶は三日間の間、パンと水のみで食事をさせられた。
一応言っとくと、それをやったのは俺ではなく、ティアだ。
曰く「反省してください(ニコッ)」
……。
ちなみに、呼び出した四神は俺の工房で待機と調整をすることになった。
ただでさえ、物が多くて狭いのに……。
……はぁ。
最近、どうにもため息がとまらない……。
……はぁ。
次話は時計塔がでてきますよ~
では、では~




