12話 メイド?
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい
「わぁーー!いい景色だね、ここ」
窓から身を乗り出して、感嘆の声を上げるのは我が幼馴染である形瀬唯衣だ。
現在俺――緋宮慧たち一行は、自身が外国修行中に作った拠点にいる。
場所はイギリスの片田舎。
周囲には草原と林が広がるばかり。
建物はいわゆるカントリーハウスといったやつだ。
とはいえ、この家の持ち主である俺は魔術師の端くれ。
当然地下には魔術師の工房などがあったりする。
「俺はまだ寝る、時差ボケが抜けん」
……一眠りしたのだが、どうにも眠い。
くぁー、と欠伸をひとつ。
実はイギリスにたどり着くまでに何ヶ国か経由してきたのだ。
追跡をかわすためだ。
日本を出たのがおおよそ夜の九時ぐらい。
咲耶の背に乗って移動をしたのがおおよそ四十八時間ぐらいだ、もちろん別の国を回ったり、休憩なども含めての時間だが。
そうして、たどり着いたイギリスは昼の十二時だった……。
別に俺の頭が壊れているわけではない。
いわゆる時差、というやつだ。
……。
唯衣は早々に時差ボケを脱して、初の外国にはしゃいでいる。
……、俺はまだ時差ボケが抜けていない。
なので。
「なんか用事があったら、ティアに言ってくれ」
声をかけて寝室に向かった。
ちなみに。
咲耶は時差+疲労で今も爆睡中である。
~形瀬唯衣~
「いーまー、春が来てー君はー~」※な○り雪
鼻歌が口からもれる。
普段よりテンションが高い。
自分でも自覚している。
本来十三家の人間は、簡単に外国に行くことが出来ない。
十三家は国が保有する戦力であり、同時に外交の切り札だからだ。
十三家の者が国外で子供などを作った場合、子に能力が遺伝することがある。
それはつまり他国に自国の戦力を渡すに等しい。
ゆえに、十三家の者が国外に行くときは厳しい審査に加え、旅行もしくは仕事の日程を国に申請しなければならない。
これを破ると、厳しい罰則が下される上、脳を弄られての能力剥奪等がある。
以前、慧が外国へ行った時は例外中の例外だ。
本人になんの能力もなく、また緋宮家も慧を捨てたのが幸いした。
まぁ、今回は、しっかりと破っているわけだが……
「きみがー去ったー、ホームにのこーりー~」※なご○雪
どうも鼻歌が止まらない。
……きれいだなぁ。
夕日が草原を紅に染める。
写真にでも残しておきたい風景である。
最も鼻歌の○ごり雪が信じられない程ミスマッチだが……。
と。
「唯衣様、お夕食はいかが致しましょうか?」
後から声がかかる。
振り向くと、……メイドがいた。
……。
メイドの名前はティア。
慧の話と本人の自己紹介によると、慧が以前に修理・改修した自動機械人形らしい。
容姿は中々の美人さんだ。
上質の銀を溶かしたかのような銀色の髪を、私と同じくらい――腰あたりまで伸ばしている。
ボディスタイルは平均的な十代後半の女性の物であり、おそらくバストサイズも私よりやや控えめ、といった程度だろう。
衣装は先ほどの通りにメイド服である。
正確にはスカートの丈が長い、ヴィクトリアンメイドと呼ばれるタイプの物だ。
しかし、そんな姿の中に一つ違和感を放つ物がある。
それは、……アイマスクだ。
黒いアイマスクで両目とも覆い隠しているのだ。
「ティアちゃん……。眼、故障してるの?私人形師だから、診てあげられるけど……」
整った容姿の中にアイマスクがあると、どうにも痛々しい。
私の人形師としての腕ならもしかして……。
と、考えていると。
「だ、大丈夫です。これは別に故障しているという訳ではなく、その……ファ、ファッションです!か、かっこいいでしょう?」
……ファッション?
それにしては、何やら焦っているようだが。
「本当にいいの?」
本人が構わないといっているなら、別にいいのだが。
それでも一応聞いてみる。
「は、はい!気にかけていただき、ありがとうございます」
「……うん、診て欲しくなったらいつでも言ってね」
……。
ティアちゃんをいじったのは慧という話だ、今度聞いてみよう。
と。
「それで、唯衣様。お夕食ですが、いかが致しましょうか?和洋中、一通りできますが」
話しが夕食の事に戻る。
「ご主人様はよく和食を好まれます。しかし、今晩のお夕食に関しましては唯衣様しかおりませんので、唯衣様のご希望があれば聞きますが……」
……うーん、どうだろうか?
そうだ、一つ聞いてみよう。
「ねぇ、ティアちゃん。以前ここには慧が住んでいたんだよね?」
はい、とティアちゃんが首肯する。
「なら、その時はどんな物を食べていたの」
あっ。
ティアちゃんが固まった。
「えと、……その、マスターは料理があまり上手ではないらしく……」
硬直から解けたティアちゃんがしどろもどろに答えてくれる。
「最初マスターが食べていた物は、その……ただの食材なんです……」
はっ?
食材?
ティアちゃんの言葉が続く。
「買ってきた食材を調理せずにそのまま食べていたんです。マスター曰く「腹に入れれば大して変わらん」、て」
……。
……慧、あなた……。
思わず黙り込んでしまう。
こちらの様子に慌てたのか、急いでフォローを入れてくる。
「で、でも!私がマスターの物になってからはちゃんとした料理を食べてくれるようになりました!」
……きっと、ティアちゃんが頑張って調理をしていたのだろう。
「へぇー、ちゃんと見えるんだー」
今は台所である。
ティアちゃんが手際よく料理をしている。
アイマスクをしているのに手が止まる様子がない。
たいした物だ。
ちなみに私が、オーダーしたのはミートパイだ。
イギリス、と言うこと頼んでみたのだ。
……。
「はい。私の場合、目が見えなくてもある程度周囲の物を認識することが可能なんです」
オートマタの特権です、とのことらしい。
「はい、これで後は焼き上げるだけですね」
ティアちゃんがオーブンの蓋を閉めて言う。
「焼きあがるまで時間がかかりますし、紅茶でも入れましょうか?」
嬉しい申し出だ。
「慧との出会いを聞いてもいいかな?」
ここに来たときから気になっていたので尋ねてみた。
実は慧には人形師としてのスキルが少しだけあったりする。
人形の召喚や使役という訳ではない、人形の修理や調整のことだ。
昔から形瀬家に出入りしていたからか、普通の人より人形をいじれたりするのだ。
最も、素人よりはまし。というレベルだが。
ゆえに、慧がオートマタを持っていた、と聞かされても驚きはしない。
でも、やはりそこは幼馴染として聞いておきたい。
……特に、目の前にいるオートマタはなかなかに美少女だ。
「ティアちゃんはどういう経緯で慧の下に来たの?」
すると、ティアちゃんは顔を赤くして。
「ええと、マスターは壊れて動けなくなっていた私を修理してくれたんです。それに……」
……それに?
「マスターが……」
……慧が?
「目覚めた私に、「お前は、俺の物だ」って言ってくれたので」
!
「私はマスターの物です」
はにかむような笑顔で言い切られてしまった。
……。
ガタッ。
座っていた椅子から立つ。
……ここで、すぐに四神は召喚できない、だが。
「ティアちゃん、熱湯ってある?」
「ひっ!」
こちらの表情にティアちゃんが恐れおののく。
「熱湯、できれば沸騰しているのがいいな」
~緋宮慧~
殺気を感じた。
それも、濃密な。
考えるより、早く存在確立を引き下げる。
次の瞬間。
ザバァッ!
熱湯が頭の上から降ってきた。
「なんだ!」
頭にこびりついていた眠気を追い払う。
!
そこには。
……唯衣が薬缶を片手に、とてもいい笑顔をしていた。
激しい既視感!
いやな予感が止まらない。
「唯衣、なんの真似だ?」
声は冷静。
しかし、内心で記憶を辿る。
……なんか、機嫌を損ねるようなことをしただろうか?
俺がベットに入る前の唯衣は、上機嫌だった。
だが、目の前にいる唯衣は、……額にばっちり怒りマークが浮かんでいる。
……冷や汗が止まらない
「慧……」
唯衣が冷たい声を出す。
評するなら氷点下を通り越して、絶対零度だ。
「な、なんだ?」
むしろ、動揺せずに返事を出来た自分に感心する。
「「お前は、俺の物だ」なんだってね……」
!
以前、ティアが目覚めた時にかけた言葉だ。
「……それをどこで聞いた?」
いや、答えはわかりきっている。
ティアだ。
その言葉を知っているのは俺とティア以外にいないのだから。
……。
唯衣が絶対零度の声で続ける。
「慧ってば……、咲耶、シルフィード、それにティアちゃん……」
……。
「女の人の姿をしているなら、何でもいいんだー……」
!
理解した。
そう、これはいわゆる嫉妬というやつだ。
唯衣を突き動かしている感情がそれなら、……男の言い訳など、文字とおり濡れた和紙ほども役に立たないだろう。
……。
腰を上げて、逃走の準備に入る。
……近場に、宿はあっただろうか?
そして。
「……(ニコッ!)」
最近、唯衣がよくする笑顔を浮かべ……。
パリンッ!ドカンッ!
物が壊れる音が、慧の寝室から響き渡った。
その後、一週間ほど、慧は行方をくらませた。
ちなみに、ミートパイはおなかをすかせて起きてきた咲耶に食い尽くされていたそうだ。
出ました、新キャラ!
実は、製作段階から考えてはいたんですが、何時だそうかと悩んでいるうちに、海外編にwwww
まぁ、メイドは男のロマンっすよ。
さて、オートマタのティアですが。目には割りといろいろあったりします。
まぁ、そこは厨二ですからwww
次話もまったり気味かと、?
では、では~