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10話 胸を張って

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい

 ゴォアアアアアッ!

 巨大な風の刃で建物を輪切りにして、そのまま上の部分を遥か上空に巻き上げる。

 今俺――緋宮慧は、風の精霊の力を借りて宙に浮いている。

 ちなみに、咲耶は別行動だ。

 ……。

 眼下に映るのは、結婚式場と結婚式。

「感情が制御できない、とはこのことか……」

 口調は冷静だ。

 しかし、自分の感情を支配するのは……。

 式場の中央、唯衣と聡の横に単身で降り立つ。

「婚礼を祝いに来たわけではない。唯衣を返してもらいに来ただけだ」

 ここに居る、唯衣以外の全ての人間に宣言した。



 ~緋宮聡~

 ゴォアアアアアッ!

 轟音が響き渡る。

 次の瞬間、照明が消える。

 違う!

 照明が消えたのではない、天井が消失したのだ。

 誰かが宙に浮かんでいる。

 ?

 その誰かが、自分と唯衣さんの横に降り立った。

「婚礼を祝いに来たわけではない。唯衣を返してもらいに来ただけだ」

 ここで聞こえるはずのない声が聞こえる。

 !

 今までの人生で最大級の嫌悪を覚えた。

 降り立った人物。

 それは。

「兄さん!」

 そう。

 自分が散々ゴミ、ゴミと呼び続けた兄だったからだ。

 兄さんは僕をチラリと見るとそれだけで興味を失ったように来客の方を向く。

「失礼。俺の名前は緋宮慧、かつて四年前に緋宮家を追放された者だ。この度は大切な人を取り戻すために来た」

 突然天井が消えたことざわめいていた来客が、より大きくざわめく。

 !

 僕は大声で叫ぶ。

「なんのつもりだ兄さん、唯衣さんは僕の花嫁だぞ」

 だが兄さんはこちらを無視して、唯衣さんに近寄った。



 ~緋宮慧~

 聡の言葉を無視して唯衣に近づく。

 唯衣の表情が痛々しい。

「迎えに来たぜ」

 これで二度目になるな、苦笑しながら近づく。

 唯衣の目に、僅かに光が戻る。

「唯衣の両親は無事だ。美織さんも丙さんも助け出した」

 横で聡が硬直する。

 慧、と唯衣がつぶやく。

 ……。

「唯衣」

 唯衣の瞳に涙が浮かんだ。

「かつて、俺は君に言った」

 手を伸ばせば届く距離まで近づく。

「いつか胸をはって、君を迎えに来ると」

 唯衣の瞳から行く筋もの涙が流れる。

「今がそのときだ」

 唯衣に手を伸ばす。

「俺は今ここで、ここに居る全ての人に胸を張り、言う!」

 唯衣を力一杯に抱き寄せる。

「『唯衣、君を迎えに来た!』」

 ……。

 返事は、しがみついての号泣だった。



 ~緋宮聡~

「唯衣、君を迎えに来た!」

 兄さんが唯衣さんを抱きしめる。

 唯衣さんも兄さんを抱きしめて大声で泣き始めた。

「これは、なにかな?」

 冷静な声が聞こえる。

 振り向くと。

「これは、聡君の結婚式だったと記憶しているが」

 (すめらぎ)家の姫が立っていた。

「それは……」

「慧君は形瀬家の両親を「助けた」と言っていたが、それはどう言うことかな?」

 !

 僕が絶句していると。

「あの不肖の馬鹿息子が勝手に言っているだけですよ、姫」

 父上が擁護してくれた。

「そうですか、形瀬家のご令嬢も普通の様子ではないようですが?」

「さあ?まぁ、その話はおいおい。今は無礼者の処理をしましょう」

 皇家の姫が不快そうに目を細める。

 仮にも自分の息子に向かって「処理」と言ったのだ。

 だが、無礼者は確かに向こうなのだから何も言わない、ということだろう。

「何をしている、無礼者を捕らえろ」

 父上の言葉に、何人かの人間が駆けてくる。

 しかし。

「離れろ!」

 皇家の姫が叫ぶ。

 それに反応して、僕や父上が、唯衣さんたちから跳ぶようにして離れる。

 次の瞬間。

(しん)

 言葉とともに。

 ドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!

 何条もの落雷が唯衣さんと兄さん(ゴミ)を守るように降ってくる。

「よい!よく言うた、慧!」

 感心したような叫びが響き渡る。

 今度はなんだ!

 宙を仰ぐと、……女性が浮かんでいた。

 鮮やかな金色の髪に、紅玉のような真紅の瞳、花魁(おいらん)のような艶やかな衣装。

 あれは!

 情報にあった兄さんの連れ……。

 女性がこちらを向きからかうような声をだす。

「想い逢っている者たちを引き裂くとは、ずいぶん無粋じゃのう」


「……大物が出てきましたね」

 緊張と恐怖に掠れた声を出したのは、皇家の姫だ。

 皇家の姫が恐怖している!

 いや皇家の姫だけじゃない。

 会場は静まり返っている。

 来客として着ていた、十三家の当主達も父上も、母上も緊張と恐怖に震えている。

 ……これは?

「なぜだ!なぜ、貴方のようなものが慧ごときに力を貸す!……天狐よ!」

 父上が絶叫する。

 !

 天狐、……だと。

 宙に浮かんだ女性――天狐は、クククと笑った後。

「わらわは、わらわの気に入ったものに力を貸す!わらわは緋宮慧を非常に気に入っておる、……おぬし達を殺してもいいくらいにのう」

 獰猛な顔で宣言する。

 ゴウッ!

 天狐の体から途轍もない量の魔力があふれ出した。

 大気が震え、空間が軋む。

 信じられない!

 ここに居る殆どの者が、本能的に死の恐怖を抱いただろう。

 と。

「以前、倒した時はまだ全力じゃなかったのかよ」

 呆れた声が聞こえた。

 兄さんだ。

「当たり前じゃ!わらわは、遊戯に全力を出すほど阿呆ではない。……もっとも今回は全力を出すがのう」

 天狐も楽しそうに答える。

 !

 以前、倒した(・・・)

 兄さんが、あの天狐を?

 ……。

 僕の中で、僕を支えていたプライドに音を立ててひびが入る。

 僕は、……緋宮家の次期当主だ。

 日本でも有数の実力者であり、この国最高最強の炎術師だ。

 それだけの実力があると自負しているし、周りの者も認めている。

 上級の妖魔を討ち取ったことだってある。

 ……だが。

 だが!

 目の前の天狐を「倒せるか?」と問われれば。

 ……答えは間違いなくNoだ。

 ……。

 それを兄さんが、倒した?

 あのゴミが?

 緋宮を、この国を逃げ出すしかなかったゴミが?

 ……。

 僕のプライドが、……崩れた。

 ふいに、体の奥底から狂気という名の激情が迸る。

「ふざけるな!お前のようなゴミに天狐が倒せるわけないだろう!」

 気づいた時には叫んでいた。

 周りにいた、父上や母上、皇家の姫が驚いた顔をする。

「そんなのハッタリに決まっている!あのゴミは体術も使えなければ、呪術も使えない。異能など持ってのほかだ!ゴミにそんなことが出来るわけがない!」

 叫ばなければ、自分が保てない。

 天狐が「ほう」と眼を細める。

「そうだ!そんなのブラフに決まっている」

 ゼェゼェ、と息が荒い。

「醜いな、とても醜悪じゃ」

 天狐がまるでゴミを見るような目で僕を見ながらつぶやく。

 ッ!

「見るな、僕を見るな!そんな目で見るなあ!」



 ~緋宮慧~

 俺は哀れみを覚えた。

 聡はおそらく、……才能がありすぎた(・・・・・)のだ。

 兄である俺を超える実力を身につけ天狗になったのだろう。

 そして、なまじ才能があっただけに天狗になったまま、成長しここまできてしまったのだ。

 ……。

 十三家は完全な実力主義だ、実力があれば大抵のことは許される。

 そして、聡は才能と実力が有りすぎたために、大抵のことは自分の思い通りになったのだろう。

 事実、聡はこの国では最高クラスの実力者だ。

 絶対に敵わない、という相手に当たったことがない。

 また、自分の傲慢を指摘してくれる相手がいなかったはずだ。

 それゆえに。

 絶対に敵わない、という相手に当たったとき、現実が認められなくなったのだろう。

 とはいえ、今までの行いを許してやる気には、欠片もなれないが。


 抱き締めていた唯衣を離し、そっと背を押して距離を開ける。

「咲耶」

 声を掛ける。

「わらわとしては、自らの手でこのゴミをこの世から消してやりたいのだがのう」

 本当に残念そうに言う。

 ……おいおい。

「まぁ、よい。約束じゃ」

 手を振る。

 ゴッ!

 俺と唯衣、そして聡以外の全ての人間が壁際まで吹き飛ぶ。

 そして、一言。

(へき)

 キィンッ!

 俺と聡を閉じ込めるように結界が展開された。

 よし!

 最後にもう一度声を掛ける。

「咲耶、唯衣を頼む」

「うむ、まかされたのじゃ。安心せい。たとえ天の神々が介入しようと、娘には傷一つつけさせん。お主は、お主の本懐を遂げよ」

 次は結界の向こう側で目を白黒させている唯衣に声を掛ける

「少し待っていろ。自らの過去に決着をつけてくる」

 返答を待たずに、聡に向かって歩き出した。


「こうして真正面から目を合わせるのは、もしかして初めてかもな……」

 おそらく……、そうだろう。

 かつての俺にとって、聡は父同様に恐怖の象徴だったから。

「今さら、緋宮を逃げ出したゴミがなんのようだ?」

 聡の瞳に狂気が見える。

「決着をつけに来た」

 告げて、懐から愛用の短剣(ゼビュロス)を取り出す。

「いいでしょう。兄さん(ゴミ)が居なくなれば唯衣さんは僕のものだ」

 カッ!

 聡の右手に、緋色の光とともに一振りの日本刀が現れる。

 ……あれは……、……なるほどあれが宝刀・華焔(かえん)か。

 宝刀・華焔、緋宮当主に代々伝えられる霊刀だ。

 聡にとっては、自らの力の象徴であろう。

「いくよ兄さん、二度と這い上がれないくらいに絶望を刻んであげるよ。昔みたいにね」

「御託はいい、来い」


「ぃぃぃぃやああぁ!」

 聡が放つ裂帛の気合。

 ギャリンッ!

 ゼビュロスと華焔の刃が擦れあった音だ。

 ギャリンッ、ギャリンッ、ギンッ、ギャリンッ!

 一合、二合、数え切れないくらい切り結ぶ。

 互いの実力は伯仲している。

 ……。

 いや。

「チッ」

 俺が僅かに押されている。

「ほら兄さん行くよ、……ほら、ほら、ほらぁ!」

 ……やはり。

 認めたくはないが俺のほうが、全体的にスペックが劣るのだろう。

 今はお互いに気で体を強化しての、近接剣戦闘。

 戦闘の技量は五分五分だ。

 しかし、体内に内包している気の総量が、聡のほうが多い。

 気の総量は、そのまま肉体強化に影響する。

 とりわけ、移動速度と機動力だ。

 俺の速さを1とした時、聡の速さは1.2ぐらいある。

 実力が伯仲している場合、僅かな差が勝敗を分ける。

(シャ)ァ!」

 聡が俺の僅かな間を狙って刃を突き出す。

 チッ

 右腕が浅く切り裂かれた。

「破ッ!」

 力を込めた一撃で、一回距離を開ける。

 ……。

「やるなぁ、兄さん。本当ならもう切り刻んでいる予定なんだけど」

 聡が余裕の表情を浮かべる。

「でもやっぱり、兄さんが天狐を倒したなんて嘘ですね。弱すぎますよ」

 ハハハハハッ!

 嗤い声が結界の内部に響き渡る。

 ……。

 ……もう少し様子見したかったが予定の変更だ、使うか。


 実は、俺が聡に劣るというのは事前に予測していたのだ。

 技量は負けない自身がある。

 しかし、気の総量と魔力の総量。

 この二つだけは生まれによって決定する。

 気の総量だけなら後天的に底上げすることも出来るが、魔力の総量は生涯変わらない。

 気の総量の底上げとて、ないよりはマシ、という程度だ。

 聡は緋宮家の歴史の結晶、といって過言でないほど才能に溢れている。

 元より俺が敵うはずがない。

 気の総量では俺が負け。

 魔力の総量では俺が圧倒的な大差で負ける。

 だが。

 俺にあって、聡にないものもある。

「フッ!」

 俺は風を纏って(・・・・・)突進した。


 場面は繰り返す。

 ゼビュロスと華焔の刃がぶつかり合う。

 ギャリンッ、ギンッ、ギンッ、ギャリンッ、ギャリンッ!

 しかし、今度は。

「破ッ!」

 俺の刃が、聡の体を切り裂く。

 お互いの速度を表すなら。

 聡の速さを1とした時、俺の速さは1.4ぐらいだ。

 答えは簡単。

 俺が風の精霊を体に纏っているのだ。

 俺の動きは風に補助され、聡の動きは風に阻害される。

 分かりやすく言うのなら。

 俺は追い風の中を走り、聡は向かい風の中を走っているようなもの、だ。

「破ッ!」

 再び俺の刃が、聡の体を切り裂く。

「なんで!なんでなんだよ!」

 聡の絶叫が聞こえる。

 自分より早く動かれているのが納得できないのだろう。

 ザシュッ!

 三度俺の刃が聡の体を切り裂く。

 ついに。

「もういい!普通に殺してやろうと思ったのに。ただじゃ殺さないよ、兄さん!」

 喚き声が響く。

 ……やはり。

 聡の刃には濃密な殺意が乗っていた。

 なんだかんだ言って俺を殺そうとしていたのだろう。

 自らのプライドのため、そして唯衣を手に入れるため。

 ゴウッ!

 聡が周囲に炎を展開する。

「じゃあ、死ねよ。兄さん」

ようやく、プロローグでの伏線(?)を回収できましたwww

慧が唯衣を取り戻すときのセリフは割りと早い段階から決まっていました。

皆様の目にかっこよく映れば幸いです。


次話は、いよいよ決着です。

炎の剣も出てきます。お楽しみ(?)に~


この度、様々な方から感想を頂きました。ありがとうございます。

私の小説が多くの方に受け入れてもらえているようで、嬉しい次第です。

これからもがんばって投稿をしていこうと思います。

至らないとこのある私ですが、皆様よろしくお願いします。


では、では~

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