【世にも奇妙な物語】とある少女の末路
ハァハァ・・・
一歩歩く度に、血が引いていき
汗が吹き出す。
日差しが燦々と降り注ぐ砂漠を一歩ずつ歩いている。
一歩ずつ、、一歩ずつ。。
熱が身体をまわり、
視界はぐらぐらと歪む。。
なんのために歩いているのか。
(歩みを止めてはいけない)
もう限界なんだって。。
(それでも歩みを止めてはいけない)
もう。。。。無理なんだって!!!!
運動が得意というわけでもない人間に
なんなんだ。この仕打ちは。。!!
頭痛薬、貧血止め、酔いどめ、健康ドリンク。
そ、そう!麻薬でも覚醒剤でもなんでもいい。。
今あるこの現状を打破できるなにか。。
なにかを私にください!!
苦しみに悶えフラつきながら、私はそれでも歩んでいた。
ふと私の背中には黒色の大きい袋を背負ってることに気がつく。
そうだ。私は砂漠をただ歩いているのではない。
この巨大かつかなりの重量の袋を担いでいるのだ。
クッ・・・ウッ・・・
泣きたい。こんな重たいの。
今なら、この袋を砂漠に打ち捨てて楽になれる。
そ、そうだ。。きっとこの袋の中には大量の水、頭痛薬、、
健康ドリ。。
今よりは楽になれるかもしれない。
(開けてはだめ。。歩みを止めず、そう一歩ずつ)
意識は遠のいていくが、思慮をめぐらすことはできるのだろうか。
「なんの取り柄もない私にも、こんな特技があったん。。だね。」
聞こえるかもわからないような声を確かに発した。
少なくとも、口はその言葉を発声するように動かした。
考えられない。。もう何も。。
(でも。。歩むんだよ!!)
そんな考えがよぎった数秒後には、
冷たい床の感触が私を包容するのだった。
「ドサッ」
鼻孔を劈くのは強烈な科学薬品の匂い。
その匂いはどことなく私の心を安心させる。
だが、それを上書きするように強烈な匂いが
私を覆い尽くすのだった。
血のにおい・・・?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「起きろ。」
目が覚めると、風景はがらっとかわり一つの教室だった。
なつかしい。。
その感情が一瞬思い浮かんだが、異常性にすぐ気がついた。
「じゅうろくかけるじゅうはちわにひゃくはちじゅうはち」
「まずかいよりはじめよ、いわんやかいよりけんなるもの、
あにせんりをとおしとせんや」
「な、なに!?」
私が起きた席のとなりのやつ。前のやつ。
なにかを唱えている。なにか聞こえてくる。
そいつらは一冊の教科書をもちながら。
「音読・・してるの?」
隣の席の男子に話しかけたつもりだが、返答はない。
発声している内容から推測するにおそらく古典なのだろう。
どこにでもある教室に、着席している生徒。
教卓はあるが、先生はいない。
黒板には大きく
“自習” の文字。
私もやれっての・・・?
表紙が真っ白の本2冊が私の机に
置かれている。
表紙にはそれぞれ【反省 教科書】 【反省ノート】と書かれていた。
「はんせい??なんの?」
音読している声に紛れて、声を出す。
私は興味本位で【反省 教科書】を手にした。
「え。。。あつ。。」
もった本は教科書というよりは専門書と差し支えない厚さ。
いや、もっとだ。それを何重にも重ねたような。。
そんな予感がする。
だが、前の座席の女子や両隣の男子の
教科書を見ると異変に気づく。
「なんで私だけこんなに厚いの・・・?」
ぼそっと声をだしてしまったが、
隣の男子は変わらず音読している。
そして、おそるおそる私は本をめくる。
漢字からはじまるその本は、国語、数学、社会、理科、英語、体育、美術、
気が遠くなりそうだった。
もう全部だ。きっと全科目だ。。そう思っていいだろう。
この本は教科がまとまっているわけではなく、
漢字が数ページおわると数学にかわり、数ページ後には
社会の内容となっている。
また、ページ毎には【科目と難易度】が記載されているようだ。
漢字のページは【国語 難易度1】、数学は【数学 難易度1】
とあるように。
ただ解法や例題などは丁寧に記載されており、
前提知識に積み重ねていけば
解けそうだなと感じた。
でも。。
「これを・・・やれっての??」
見渡す限り、音読している生徒しかいない。
ただ、教科書とは別にノートを使っている生徒もいて内心ほっとした。
ふと教科書とはもう一冊の【反省 ノート】に目をつけ開くと、
漢字ノートのレイアウトをしたページや白紙のページ、
罫線が引かれたページなど様々だった。
便利だと思う反面、制作コストは高そう。なんて思いながら
ペラペラとめくっていく。そして異常に気がついたのだった。
「終わりが・・・ない。」
めくってもめくっても終わりがない。
ページのレイアウトは変わるものの、
最後のページには決してたどり着けない。
「どういうこと・・・??」
終わりのないノート。
そして、【反省 教科書】を見た瞬間、
戦慄が走る。
もしも、これがノートみたいに、そう無限に。。
(先を見てはいけない。いいから勉強をしなきゃ!!)
私は無言の圧力に順応し、勉強を始めるのだった。
音読はあまりにも耳障りだし、何より勉強なんて。。
取っかかりはそんな感じだった。
だが、漢字ゾーンを抜けた先の国語は意外と楽しかった。
無機質な漢字をノートに書いて覚えることは、
学生の時すごく辛かった。トラウマだ。
なにせ両親はどちらも教師。有名大学にて教職課程を獲得後、
ストレートで卒業。
勉強を苦とは感じないようで、むしろ休日でも進んで夫婦揃って
勉強する姿を遠目で見ていた。
その間に生まれた子供が勉強嫌い。どういう経路を辿るか
なんて想像にかたくない。
“勉強が学生の本分”、”なんで勉強しないの?”
小学生の時から押し付けが厳しく、
ときには深夜まで勉強させられた。
「来週、クラスのミカルちゃんと遊ぶ約束したんだ!」
友人を作ることが苦手な私が、頑張って作った友人との遊ぶ約束。
そう。それは少なくとも母は知っていたはず。
だから祝ってくれるだろうと子供ながらに思った。
「そんな時間ないでしょ。来週はもう勉強のスケジュール
埋まってるから。」
そういって私の幼少期は否定を重ね続けられた。
レールを敷かれて永遠と歩まされる。
そんな人生に辟易として私は。。。
私は・・・。
「おーぃ。ったくやってらんねぇな。」
嘆息が私の耳を刺激した。
ふと後ろを見ると、赤髪長髪の男の子が起立していた。
やや脱力気味で手にはシルバーのアクセサリーをつけている。
着崩した制服とその容姿は”知的な悪いやつ”を彷彿とさせる。
おそらく風紀を担当する者、または退廃的な姿を悪とみなす者なら
彼と話さずとも嫌いになるだろう。
だが・・・
私は鼓動が止まらない。
彼の異質さ、全てを見通すような眼差し、
関わったら自分を退廃のドン底まで落としてくれる。。
私を変えてくれる・・・。
「おい。なんで真面目に勉強してんだよ。
さっさとこんな教室から出ようぜ。」
その声は冷たい機械のように音読している生徒の声を
かき消して、私の心に反響する。
「はやく一緒に行こうぜ。
こんな奴らと一緒にいたら頭がおかしくなるだろ?」
その顔はニッと私にほほえみかけてくる。
手は私を誘うように。
心に浮かび上がる感情。それは。。
いきたい。。
私もこんな場所じゃなくて。。
アイツと一緒にいきたい。
終わりがないようなこんな勉強なんかより、、
そういって私は立ち上がり、、
(だめだよ!!!!!!!)
一瞬、私の中で時がとまった。
刃物で刺されたかのように、
すぅーと血の気が引いていく。
だめだ。
きっとこの選択は私にとって。。
悪いことだ。
やってはいけない。
(だめ・・・ダメ!!)
葛藤が続く。
だめだ。勉強をしなきゃ。
それに久しぶりの勉強は正直、悪いものではなかった。
なにせこの教科書、様々なところにキャラクターなどが
書いてあり、すごくわかりやすい。楽しい。
まるで私が勉強嫌いだとわかってるかのように・・・。
あと1ページくらいは・・・。
今まで書いてきたノートをなんとなく振り返り、
その成果を堪能しようとした。
「!!!!」
漢字の書き取りから始まるノートには、
赤いペンで花丸と「がんばったね!」と手書きで
書かれていた。
なにこれ・・・
この気持ちは初めてだった。
私が入った学校の担任。
つまり私の母である。
あの人は、私を褒めてくれることはなかった。
漢字ノートを提出しても、連絡帳を提出しても。
【こんな学習量では足りません。+10ページ放課後居残り】
【バカに弱音を吐く時間はありません。数Ⅱ課題、明日まで】
そんな罵詈雑言を浴びせられ続けた私の小学校の思い出。
花丸と褒められたページに思わず、涙ぐんでしまった。
がんばろう。
(そう!がんばるんだ!!)
昔はグレて逃げてしまったけど。。
今なら自分と。そして苦手な勉強と
向き合うことができる。
そうして椅子を深く座り直し、
再び勉強に取り掛かるのだった。
もっとも、私の耐久力は周りのエリート達には
遠く及ばなかったが。。。。
--------------------------------------------------
「やっほ~。どう?」
朗らかな表情を浮かべながら、
剛健じみた男に声をかける。
「特段大きな変化はない。」
短く無駄のない返事をする。
「ただ・・・」
モニターに映る教室を注視すると一人の女の子にズームされる。
「おっほ!!地獄アガリじゃん!!珍し!!」
少女の経歴に目をやり、驚く長身の男。
“地獄アガリ”
前世で”永久地獄”に投獄されるべきニンゲンが
審判者の判断(おもに気まぐれ)で特別に再審するというもの。
善行を重ねて死んだ者より、多くの過酷な課題を課されるが、
永久地獄と異なり、結果によっては”転生”する可能性を与えられる。
「あぁ。市販の薬物過剰接種から始まり、
違法性のある薬物の使用、売人の業務も担当。
さらには家族に対する暴力、果てには殺人も数件行っている。」
「うっひょ!笑えますね!
ってか書類選考でよく弾かれませんでしたね!
こんなやつ一発で永久地獄確定なのに。。
事務局が仕事サボってたんすかね??」
両手を首の後ろで組み、飄々と話す。
「ワシもコイツは永久地獄に閉じ込めるべきと思ったが。。
なにせ、女将さんが送りだしたニンゲンだからな。。
流石に強くアタることはできんよ」
弱みを含んだ声で、男は語った。
「はっはっは!!
そっか~あの人、自分が送ったニンゲンの”非行”に
甘いもんな~!」
続けざまにニコニコとした表情で
「それにしても・・・」
「いやぁ死後の世界にも序列があるって
笑えますよね!おかげで僕のお気に入りは永久地獄行き~。
しかも、今月の僕の持ち駒の世帯はもうギリギリ!
ボーナス減額確定っすよ」
ふふっとお互いで笑い合う。
「あれ、あのでっかい袋は・・・
女将のお気にいりニンゲンが持ってたやつ??」
指を指した先には緑色の大きな袋がある。
「いや。女将のお気に入りは人殺しを行ったから、
黒い袋にしているはずだ。今日はもうひとり地獄アガリを
裁定するようだな。」
ふぅと小さい嘆息を思わずしてしまう男。
屈強な見た目をしているが、様々なニンゲンの一挙手一投足を
観察することは大変なのだ。
基本は、死んだニンゲンを転生候補に昇進させるだけだが、
イレギュラーというのは必ず存在する。
善行・悪行を計算して、死後に課題を与えるわけだが
ニンゲンの精神力とはずっと同じ値とは限らないようだ。
よって善行を積み重ね続けたニンゲンに、音読のみを
課したとしても突然ふっきれてしまい離席してしまうやつ、
好きな異性がいないと勉強できないという我儘を叶えてやると、
これまた教室から離席するやつ。
まったく、煩悩にまみれたニンゲンは死後も迷惑をかける。
地獄アガリは、特に煩悩にまみれているが故に、
審査項目がかなり多い。
まさか、もう一人とはな・・・。
「む?この地獄アガリは・・・」
今まで接種した違法薬物を袋にまとめ背負う課題。
緑色であるため、誰かを殺しているわけではないのだが・・・。
あまりにも量が多すぎる。
先程の地獄アガリは、殺した死体の分で重りが増していた。。
しかし、、薬物のみでこの量。
どうやらある時期を境に、全ての資金を薬物に使っていたようだ。
そのある時期とは未亡人となった時期。
夫が娘に殺された後、薬物接種を常習的に使用するようになり、
資金が不足すれば薬物を転売する。
その生活は、とてもニンゲンの営みとはいえない。
悪行としては規模は小さいが、薬物により廃人になるニンゲンは
転生後も再び廃人になる傾向がある。
よって不幸なニンゲンを生み出さないためにも、
転生の未来がない永久地獄行きなのだが・・・。
「あ~この人、あの人の親なんすね。
メイドイン女将さんか。そりゃ永久地獄にしないっすよね。」
うんうんと一人で納得する長身の男。
「まぁでも親ガチャ親ガチャ言いますけど、
こんな子供が産まれたら廃人にもなっちゃいますよね~。
これは女将さんの判断は正しいかぁ?」
“永久地獄”
それは輪廻転生を繰り返し、
進化を続けるニンゲンに課された罪。
悪行を重ねた者、悪をバラ撒く者、
悪行を重ねた者を産み出す者を縛りつける鎖。
だが、ときに権力者の都合によって
勝手に転生の機会を与えられ、勝手に過酷な課題を課される。
しかも望んでいない過酷な課題も、神の声を一つ浴びせれば
簡単にニンゲンの心身を掌握し、クリアさせることもできるのだ。
こうして不幸な命が産まれてくるのでした。