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5 学園と生徒会

 ギルバートと再会した翌日。

 陽の光が差し込む自室にて。


(……結局、アンジェリーナとギルバートの関係についてはわからずじまいだったわけだけど)


 大きく伸びをしたミリィは、広げた本を前にふと溜息を吐いた。


(一応聞いてはみたけれど、ギルバートはアンジェリーナの名前を知っているだけで特に関わりはないって言ってたし)


 結局、昨日のギルバートとの会合で得られたのは疎遠になっていた幼なじみとの友情だけだった。もちろん友情は尊いものではあるが、謎は深まるばかりである。


(……何であの時、アンジェリーナはギルバートの名前を出したんだろう)


 アンジェリーナはギルバートと結ばれるのだと声高に宣言していたが、そんな大きな婚約が予定されていたのだとしたら、大公家の娘だったミリィが知らないはずがない。


 が、妄想の類にしてはアンジェリーナがやけに自信ありげだったのが気になるところだった。これから3年の間で急速に仲を縮めたりするのだろうか。


(だとしても、それが私を殺すのに繋がった理由がさっぱりなのだけれど……)


 そう唸りながら難しく考えていると、ミリィの部屋の扉がノックされた。


「公女様、よろしいでしょうか」


 侍女のビビの声だ。


「ええ。どうしたの?」

「失礼致します。……週末の入学式について、学園からお手紙が届いておりまして」

「……ああ」


 手紙を受け取ったミリィは、差出人の欄を見て口を曲げる。そういえばそんなイベントも控えていたのだったっけ。


「ただの新入生にわざわざ手紙ね。……天下のグランドール魔法学園も暇なのかしら」


 背凭れに体重を預けつつ口を尖らせると、ビビが苦笑いを浮かべた。


「仕方ないですよ。公女様がご入学となれば、学園も気を使わざるを得ませんから」

「……ふうん」


 時が巻き戻る前にも通っていたグランドール魔法学園は、魔法を学ぶ場としては、国内でも随一の学園である。


 卒業生には偉大な研究者も多い、歴史の古い学び舎だ。授業のレベルは最高峰とも言ってよく、勉強の虫だったミリィには居心地の良い場所だった。


 そんな学園からの手紙を指先で開けると、中には大量の文字が詰め込まれた便箋と、何かしらの招待状が1枚入っていた。便箋の方は一瞬で読む気をなくしたが、まさか読まずに捨てるわけにもいかない。


 渋々目を通すと、どうやら学園長からの長い長い挨拶のようだった。


「……学園長、私にお父様と似た聡明さを感じるんですって。陰口じゃなきゃいいけれど」


 さっと読んでおおよその内容を理解すると、ミリィは便箋をビビに手渡した。あまりにも速い読了に、ビビのぎょっとした視線が突き刺さる。


「えっ……、も、もう読まれたんですか?」

「うん。もう良い」

「こんなに長いお手紙なのに……。これが速読……」

「そんな大層なものじゃないわ。不要な文を読み飛ばしただけ」


 ソファの肘掛けに頬杖をつき、ミリィはそっと目を伏せた。


 学園長の手紙には、長ったらしい褒め言葉と一緒にミリィへの頼み事が記されていた。


(……『生徒会』所属のお願いって、巻き戻り前にもされたけど)


 ――学園の自治組織である生徒会には、どうしてもあなたの力が必要だ。


 学園長から届いた手紙の後半部分を要約すると、おおよそそんな内容になる。


 グランドール魔法学園は、魔法を学ぶ学園には珍しく生徒会が存在する。学園の運営にも深く関わっているようで、その学内権力は相当なものであるらしい。


 当然そこらの生徒がなれるものでもなく、こうして学園長直々にお話が来て初めて権利が生じるものだ。大公家の娘であるミリィに所属のお願いが来るのは順当と言えた。


(前は面倒だからって断ったけど……どうしようかな)


 当然、巻き戻り前にも同じ話が来ていたが、その時のミリィは即断でお断りを入れている。理由は言うまでもなく、勉学に時間を割きたかったからなのだが。


「公女様? どうかなさいました?」


 ビビの声に顔を持ち上げ、ミリィは数度瞬きをした。


「あ……ううん、何でもない。便箋を出してきてくれる? 今お返事を書いちゃうから」

「かしこまりました!」

「花の香りがついた便箋があったでしょう? あれがいいと思うの」


 一礼と共に部屋を去るビビを眺めながら、ミリィはうすらぼやけた記憶を漁った。


(……生徒会って、どんな人がいたかしら)


 巻き戻り前の世界では生徒会への興味など皆無だったし、所属していたメンバーもはっきりとは覚えていない。


 第二王子のギルバートが生徒会にいたことは覚えているのだが、それ以上の記憶が全くないのだ。周囲に興味がなさすぎるというのも考えものだった。


(ええと、確か公爵の息子と……騎士団長の息子と、あと辺境伯の息子もいたかしら。……あれ、子爵の息子だったっけ?)


 と、辛うじて肩書きが出てきても、名前や為人を思い出せないのが万年1人だったミリィの現状である。そもそもこの肩書きでさえ合っているのか疑問だ。


(……でも、生徒会に女子生徒が少ないことだけは記憶にあるのよね。あの時は学園長の男尊女卑を疑ったものだけど)


 入学してみると、むしろ女子生徒が優位になる校則や、いかにも思春期の女子が好みそうな行事があって驚いた。


 ミリィは未だに男女2人で天体観測をする行事の必要性がわかっていないし、思い返すだけでもあの行事は苦痛だった。無言のミリィに怯える男子生徒が周囲から可哀想な目を向けられていたのも懐かしい思い出だ。


「……話を聞くくらいならいいかな」


 ぽつりと呟き、ミリィはもう一度封筒を手に取る。


 手紙に同封されていた招待状。やけに華美なそれは、入学歓迎パーティーの開催を知らせるものだった。


 日時は入学式の直後と記されている。文言を見るに、招待されたのは恐らく入学にあたって巨額の寄付を行った家の子供だろう。当然集まるのは高位の貴族がほとんどだろうし、生徒会に所属しうる生徒も揃うに違いない。


(……この招待状も、前は見るなりビビに廃棄をお願いしたっけ)


 が、今は違う。

 周囲への興味が芽生えた今、ミリィはこういった集いの類にも好奇心が湧いている。


 結局のところ、自らの何かを変えないと未来は変わらないのだ。3年後も健康に生きるべく、細かな行動から見直していくべきだろう。


 であれば、巻き戻り前は見向きもしなかったパーティーにだってきっと参加してみた方が良い。


「公女様! お持ちいたしました!」


 溌剌とした声に振り返ると、ビビが腕に抱えるほど大量の便箋を持って立っている。


 その姿に苦笑いを浮かべつつ、ミリィは早速脳内で学園長への返事をしたため始めた。

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