36 騒がしい生徒会
数十分後に始まった生徒会の定例会議は、それはもう騒がしいものだった。
「えっと、それじゃあ今日はティーパーティーの総括と反省点を洗い出すってことで――」
「ちょっと待て!」
そう切り出したニコラスを、まずギルバートが遮った。
「えっ、何……?」
「いや何だこれは! 何で急にアイクとミリィが親しげになってるんだ!」
どうやら急にわだかまりがなくなった2人を訝しんだらしい。
ギルバートの叫びにエドガーが溜息を吐く。
「そんなんもう良いじゃん。面倒事がなんか知らないうちに一個片付いてたんだし」
「良いわけあるか! こいつは公女に暴言を吐いて――」
「あー、うるさいうるさい。当人同士で解決してんならもう良いでしょ」
ミリィも全くの同意見であるが、ミリィに対して随分と過保護な第二王子はお気に召さないらしい。ぐぬぬ、と呻きながらも食い下がる。
「で、でも、俺は断固として認めないぞ……!」
「はあ。……なんか、今のギルバートお父様みたいだわ」
「おっ……!?」
この面倒臭さなんかが特にそっくりだ。褒められていない自覚はあるのか項垂れたギルバートを、向かいのルキウスとアイクが笑う。
「ふっ、お父様って……。ギルバート様、恋愛対象として見られてなさすぎるでしょ」
「何ならミリィ基準だと嫌われてねえか?」
「ね。あのお父様と同格って普通に悪口でしょ」
「……これ以上余計なことを言うようなら指を切り落とすぞ……」
1年生組は相変わらず賑やかで騒々しい。
ミリィにしてみれば微笑ましいことこの上ないが、この生徒会を取りまとめるニコラスは大変そうだ。ミリィは密かに同情した。
「えー……じゃああの、もう良いかな……。会議始めたいんだけど……」
一応司会のニコラスが至極面倒臭そうに口を挟む。
こうしてようやっと始まったかに思えた会議も、のっけから凄まじい脱線っぷりだった。
「えっと、それじゃあ今回のティーパーティーの反省点だけど……」
「反省点? そんなのあったっけ?」
「いや、あるかないかじゃなくてとりあえず反省点を見つけるっていう……」
すぐさま議題に文句をつけたエドガーに、アイクが続いてヤジを飛ばした。
「だから、そんなもんねえだろ。あの後毒が見つかってすぐお開きになったし、反省も何もできねえよ」
「エッ……」
「毒事件も何か知らないうちに犯人見つけてるし。せめて俺らに共有すべきじゃないの〜?」
「ていうか帰らせろよ」
「アッ……じ、じゃあ、今日は解散で……」
「……あなたが負けてどうするの」
ミリィも思わず突っ込まざるを得なかった。ニコラスは心の底から面倒臭そうだしギルバートは項垂れて動かないし、何だか幸先が不安になる自由ぶりだ。
「あーはいはい、わかったわかった! もう良いんでちゃっちゃと始めましょう! こんなんしてたら一生終わんねえ!」
そんな様子を見かねたらしい。両手をぱんぱんと叩き、ルキウスが立ち上がった。
これまで味方がゼロだったニコラスは感涙しているが、元はこれが会長の役目だ。しっかりしてほしい。
「で、ティーパーティーの件ですっけ? あれは公女様がケーキから茶葉から犯人探しまで色々頑張ってくれたってことで、ハイ皆さん拍手!」
ぱちぱち、と疎らすぎる拍手が鳴る。全く褒められている気がしない。
「じゃあハイ、功労者の公女様から一言! どうぞ!」
「……頑張ったからもっと褒めてくれても良いと思うのだけど」
「え? あー……じゃあ後で俺が頭撫でるってことで! よし次!」
「は?」
「ややこしくなるんでギルバート様は今マジで黙っててください」
ギルバートの鋭い視線にもルキウスは動じない。
彼がいなかったらこの生徒会はまともに機能していないだろうな……と思いつつ、ミリィは素知らぬ顔で紅茶を喉に流し込んだ。苦労人の匂いがぷんぷんする。
「そんで次の議題は? 何話すんです?」
「アッ、えと、定期テストのことを……」
「あーはいはいそれね。来月テストあるんで、みんな生徒会として色々頑張りましょう! 以上! 終わり!」
(……定例会議って、こんな感じで良いのかしら)
生徒代表の会議にしてはあまりにも知能指数が低い気がするが、まあ賑やかなのは良いことだろう。ミリィもミリィでだいぶ感性がずれている。
(それに、……騒がしいみんなを見るのは結構好きだって気付いたもの)
ふと口角が緩む。
こういう、静かじゃない場は好きだ。1人じゃないと思えるし、何より、みんなの輪に入れているような気がして嬉しくなる。
ミリィはこれまでずっと1人だった。
1人で机に向かって本を読み、勉強ばかりしていた。魔法の腕が上がることだけが生きがいで、友人なんて欲しいと思ったことさえなかった。
それが今や、この生徒会の輪の中で、咎められることなく溶け込んでいる。少し前には考えられなかった光景だ。
(私って、時が巻き戻る前はどうやって生活していたんだっけ……?)
少なくとも、巻き戻り前のミリィの世界には、ここまで表情豊かなギルバートはいなかっただろう。
溜息を吐きながら場を取り持つルキウスもいなかったし、しどろもどろになるニコラスも、帰りたいと嘆くエドガーも、大喧嘩をしたアイクもいない。
(シエラも、リズベルも、家のメイドたちだって……。お父様を番犬扱いすることもなかったでしょうね)
そう思うと何だかおかしくて、ミリィは小さく声をあげて笑った。
すると、向かいのアイクが驚いたように目を見開く。
彼は柔らかく微笑んで問うた。
「楽しいか? ミリィ」
そんなの、答えを迷うはずがない。
心地よい騒々しさを耳に入れつつ、ミリィは頷いた。
「うん! 信じられないくらい楽しい」
この幸せを手放したくない。
だからこそ、3年後も生き残らなくてはならない。殺されるなんてことがあってはならない。絶対にだ。
(……頑張らなくちゃ。本当に)
静かに決意を固め、ミリィはもう一口紅茶を飲んだ。
爽やかなミントが、あのティーパーティーを思い起こさせた。




