表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ】『自称・悪役令嬢』に殺されたラスボスのやり直し ~ぼっちな冷徹公女は、第二の人生でリア充を目指します~  作者: 鷹目堂
第一部 ティーパーティー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/38

◆22 『ラスボス』を排斥するために

 ――ティーパーティーが、1週間後に迫っている。


 周囲の何も知らない馬鹿どもがイベントごとに色めき立つ中で、アンジェリーナ・グレイは1人自室にこもっていた。


「……ミリィ・アステアラ……!」


 大量のメモを前に呟くのはそんな忌々しい名前だ。


 恐らく時が巻き戻る原因となった、ゲーム世界での『ラスボス』。アンジェリーナの頭を悩ませるのは、いつだってミリィだった。


(なんで、なんであいつが生徒会に……!)


 ミリィ・アステアラは、時が巻き戻ったこの世界で、生徒会に所属している。

 ハッピーエンドを目指すアンジェリーナにとって、この事実は重いものだった。


(しかも、ルキウスまで一緒だった……! どういうことなの!? ゲームじゃあの2人に関わりなんてなかったはずなのに!)


 ルキウス・ヘンリエックは、この世界の元になった乙女ゲーム『花降る国のマギ』の攻略対象の1人だ。


 騎士団長の息子で、攻略対象では唯一の従者キャラ。軽薄な性格だが、個人ルートに入ると重い愛を見せてくる、というギャップが評判の人気キャラだったように思う。


 アンジェリーナは彼を攻略したことはないが、それでも、ミリィとルキウスが関わりを持っていたことにはひどく苛立ちを覚えた。ギルバートはもちろん、心のどこかで攻略対象に対する独占欲があるのだ。


(……あいつが攻略対象と親しくしてるのが、本当に許せない……)


 ミリィはゲームの中でも、そして巻き戻り前の世界でも生徒会に所属していない。


 ミリィ自身が人付き合いを毛嫌いするキャラクターだからだ。だからこそ今回もゲームのルート通りになると信じて疑わなかったのに、何故かここで綻びが出た。おかしい。何かが違っている。


(あいつが何か余計なことをした? ……でも時間が巻き戻っただけで性格が様変わりするとは考えづらいし……)


 アンジェリーナとギルバートが結ばれる上で、ミリィが障壁となるのは間違いない。


 本音では1秒でも早く殺してやりたいが、『今』のミリィを以前のように真正面から殺すのは不可能だろう。大公カイル・アステアラがのうのうと生き、大公家の加護を受けているミリィには、きっと魔法じゃ傷ひとつ与えられない。ミリィ自身が魔法に精通しているのも厄介なポイントの一つだった。


(じゃあ不意打ちでもする? ……いや、あいつはやけに感覚が鋭いし……バレたら言い逃れできない。ダメだ)


 汗の滲む手を握り、アンジェリーナは拳をドンと机に叩き付けた。何もうまくいかない。


「……とにかく、あいつが生徒会を辞めないことには始まらないわ」


 アンジェリーナは目の前の紙から目的の1枚を拾い上げた。


 日本語で『ティーパーティーイベント』と題が記されたそれは、間近に迫るティーパーティーの細かなゲームシナリオをメモしたものだ。


 ゲームが始まって1番最初のイベント、ティーパーティー。


 このイベントで、ヒロインのシエラはある事件に遭遇する。1人の生徒のティーカップに毒が仕込まれ、その犯人として同じテーブルに着いていた平民のシエラが疑われる、というものだ。


 これを解決したシエラは生徒会長のニコラスに見初められて生徒会入りを果たすのだが、巻き戻り前の世界でこの事件は発生しなかった。


 何を隠そう、ゲームで毒入りカップを仕込んだのが、悪役令嬢アンジェリーナ――の命を受けたグレイ伯爵家の使用人だったからだ。


 アンジェリーナがことを起こさなかったために事件が起きず、そしてシエラとくっ付いて行動していたのもあって、ティーパーティーは平和に終わった。


 あの流れは非常に良かったと思う。おかげでシエラが生徒会に所属することもなかったし、シエラ伝いにギルバートと親しくなることもできたのだ。


(……けど、今回はシエラに構ってる暇なさそうね)


 今の最たる目的は、ミリィ・アステアラを生徒会から追い出すことだ。とにかくそこに全力を注がなければならないし、その上でティーパーティーは絶好のチャンスだろう。もうこんな機会ないかもしれない。


「……毒入りのティーカップ、ね……」


 力強く書かれたメモの字を指でなぞり、ふと呟く。

 ミリィを生徒会辞任に追いやるための考えは、ないわけではない。


 ただ、失敗した時のことを考えると気は進まなかった。特に今回はイレギュラーが起きているし、何がどう転んでもおかしくない。


 リスクを取るか、安全策を取って、指を咥えながら生徒会で過ごすミリィを眺めているか。


 熟考し、アンジェリーナは唇を噛んだ。


「あたしが、雑魚キャラごときに後れを取るわけがないでしょ……!」


 再度拳を机に叩き付け、椅子を薙ぎ倒しながら立ち上がる。


 そうだ。アンジェリーナ・グレイは屈しない。ミリィが攻略対象と結ばれる未来なんて死んでもみたくないし、ギルバートと親しくなるのも以っての外。リスクを負ってでもその芽はさっさと摘むべきなのだ。


 そしてアンジェリーナが攻略対象と親しくなれたらより良い。


 最終的にギルバートと結ばれる未来は変わらないが、それでも想いを寄せられて嫌な気はしないのだ。せっかくならヒロインを疑似体験しても良いだろう。


「……あたしは、この世界の未来を知ってるんだから」


 決意表明のように零し、アンジェリーナは大きな音を立てて自室の戸を閉めた。大股で廊下を歩くその背は、苛立ちに満ちている。


(絶対に、絶対に追い出してやる……!)


 まずはそれから。ミリィ・アステアラを殺してやるのは、大公が無様に死んだその後だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ