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11 イメージトレーニング

 パーティーの招待状を送ってきた学園長は、ミリィが本当に参加したことに何故か驚いている様子だった。


 なんでもダメ元で招待状を送ったらしい。学園長は非常に恐縮し、そして念を押すように「是非とも生徒会に」とミリィの手を固く握った。


(生徒会、ねえ……)


 学園長への挨拶を済ませたミリィは、会場の端に設置された椅子で休息をとっていた。ビビにものすごい熱量で勧められたカップケーキを手に思うのは、先ほどの学園長との会話である。


 グランドール魔法学園でもとりわけ強い学内権力を持つ存在、生徒会。


 生徒をとりまとめる彼らの役目は学内の自治だ。問題があれば都度生徒会が出向いて対処し、そこで下した判断が、学園内では絶対となる。


 学園長がミリィに生徒会入りを懇願するのは、『大公家の娘が自治組織に所属している』という名目のためだろう。


 その言い分はミリィにもわかる。1人家格の高い人間がいるだけで組織が締まるし、何より生徒会の絶対性が跳ね上がるのだ。ミリィが生徒会にいることは、学園にとってはメリットでしかない。


(でも、生徒会って週に一度ミーティングがあるのよね。それがちょっと面倒だし――)


「……あれ、ミリィ?」


 思い悩みながらカップケーキを一口齧ると、ふと名前を呼ばれた。


 顔を上げれば、ギルバートが目を丸くして立っている。じっと彼を見つめながらカップケーキを飲み込み、ミリィは口を開いた。


「こんにちは」

「ああ、……いや、こんにちはじゃなくて。ミリィも参加してたのか?」

「うん。招待されたから」

「お前は招待されたからって来るような奴じゃないだろ……」


 ミリィのことをよくわかっているらしい。ギルバートの視線がカップケーキに注がれているのに気付いて「食べる?」と聞けば、丁重にお断りされた。


「ねえ、それより式で頼んだあの子は大丈夫だった? 随分取り乱していたみたいだったけど」


 つい数時間前、ミリィはギルバートに『ヒロイン』こと栗毛の少女を預けた。


 アンジェリーナと深く関わるであろう彼女のことは、ミリィも未だに気がかりだった。できれば動向を探っておきたい。


「ああ。無事席まで送り届けたよ」

「そう……。来てくれて助かったわ、私じゃ怖がられて終わりだっただろうから」


 そう自虐的に言いつつ、ミリィの口ぶりには不満が隠せていない。


「……ミリィ、お前何か怒ってないか?」

「いいえ?」

「怒ってるだろ。怯えられたの気にしてんのか?」

「べつに。……公女をあれだけ怖がるなら、第二王子なんて前にしたら気絶しちゃうんじゃないかと思っただけ」

「思いっきり気にしてんじゃねえか……」


 だが実際、ギルバートは怯えられるどころか好感を持たれていたように見えた。目に見えて萎縮されていた公女とは大違いで、ミリィとしては悔しいものである。


「でも事実じゃない。彼女、なんて名前なの?」

「え? ……シエラ・レストレイブ」

「シエラね、覚えるわ。次こそ仲良くなってやるんだから……」


 そう斜め上の方向で闘志を燃やすと、ギルバートは呆れたように溜息を吐く。


 それからミリィの隣に腰掛けると、訝しげな瞳を向けて尋ねた。


「で? ……お前はなんでパーティーに来たんだ。もう何年も社交の場には出てきてなかっただろ」


 もっともな疑問である。

 勉学に注力するようになってからというもの、ミリィはパーティーや夜会の類にほとんど顔を出さなくなった。


 同じく社交嫌いのカイルもそれを咎めようとしなかったし、時折付き合いで出席しても、数分と経たずに親子揃って帰宅するのがアステアラ大公家だ。


 学園の入学記念パーティーなどというままごとに近い催しに突然現れるのは異質に見えるだろうし、事実、今この時でさえミリィには子息令嬢の視線が刺さっていた。明らかに浮いている。


「……だから言ったでしょう。招待されたから来たの」

「それだけか?」

「そうよ。学園長が『生徒会に是非来てくれ』って言うから、せっかくだしパーティーついでに話だけでも聞いてみようと思って」


 拗ねたように言い、ミリィはカップケーキの最後の一口を飲み込んだ。あわよくば友人ができればと思って、なんて願望は、幼なじみにはとても口にできないが。


「生徒会? ……まさか入るのか?」

「まだ決めてないけどね。新しいことに挑戦してみたくなったの。意外?」

「や、意外っていうか……。そんなことより魔法の勉強がしたいんじゃないのか、お前は」


 どこか心配そうに言い、ギルバートはミリィの顔を覗き込んだ。


「ううん。今は勉強とか読書とか、あんまり気にしてないの。それより別のことをしたくって」

「で、……でも、いきなりお前が生徒会って」

「でもも何もないの。何、不満?」

「だって、生徒会にはミリィには合わないような人間が山ほどいるんだぞ。辺境伯の息子のアイクなんて凶暴でデリカシーもないし、ヘンリエック団長のとこのルキウスも放蕩息子で……」

「だから大丈夫だってば」


 おろおろと引き止めにかかるギルバートの言葉を制し、ミリィは立ち上がった。


「私、変わるの。今のままじゃダメなんだから」


 幼なじみと話して、淡い目標が確かな意志に変わった。


 このままうだうだと友人ができるのを待っていてはだめだ。そんなことする前に殺されてしまうし、ミリィ自ら積極的に動かなければならない。


 今のままではいけない。このまま無惨に死ぬなんて、ミリィはまっぴらごめんだ。


「ねえ、私決めた。生徒会に入って、友達も山ほど作るの」


 真剣な顔で言い放ち、ミリィは唇を引き結んだ。


 ミリィの頭には、既に大量の友人と共にティーパーティーを開く自分自身の姿が浮かんでいる。イメージトレーニングは十分。後はもう、ミリィの手で実現するだけだ。

次回アンジェリーナ視点です!

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