9.溺愛され過ぎて戸惑う私
「では屋敷を案内しよう」
「ありがとうございます。ああ、でも喰い殺される私にそのようなことは不要なのでは?」
私が当然の疑問を口にする。
すると、なぜかブラッドフォード様はムスっとした表情をされて、
「余計な女を遠ざけるためとはいえ、俺のプリンセスに余計な心配をかけることになってしまうとは。王としての不明を恥じるばかりだ!」
そう言って頭を抱えられる。
ええと、どいうことだろう。
「とりあえずすぐに喰い殺されることはないのでしょうか?」
「当たり前だ。君は俺の最愛の番なんだぞ。ずっと俺と一緒にいろ。間違っても他の男を寄せ付けたりはするな。耐えられそうにない」
えっと、それは食糧として大事に保管しておきたい、という意味なのかな。
(とにかく思ったよりもすぐに食べられてしまうことはなさそう?)
よく分からないけど、思っていたような状況とは少し違う気がする。ブラッドフォード様も何だかすごく優しい。
少し様子を見た方が良さそうだ。
そんなことを考えていると、ブラッドフォード様が先ほどの提案を改めてされた。
「それで君に屋敷を案内したい。というか、全て君のものだから、自由に歩いてもらって構わないんだがな。まぁ、最初だけは案内をさせてもらおう。何せ広大だからな」
その、ブラッドフォード様の言葉に、私は躊躇った様子を見せた。
というのも、数日お風呂に入れてもらえていないからだ。
だからそのことを正直に言った。
「恥ずかしながら、侯爵家ではろくに湯浴みをしてまいりませんでした。家族や、妹の番である吸血鬼レナード様にも、臭うと言われていました。私のようなものが、このような素晴らしいお城を歩いては、汚してしまうので……」
そう言った瞬間である。
「ユーイン。これから侯爵領を焼き払いに行こうと思うがそれでいいな?」
先ほどまで私に向けて下さっていた微笑みは消え、冷徹なほどの表情と、それとは裏腹に、言葉にされた通り凄まじい怒気が隠しきれないほどあふれ出す。
「きゅ、急にどうされたのですか?」
私が驚いて言うと、
「俺の大切なプリンセスに、絶対に許せない仕打ちをしたのだ。全て焼き払わねば気が済まん!」
と、激しい口調で言うのだった。
「あ、あの。私は大丈夫です。慣れてますので……」
だが、その言葉は火に油だったようで……。
「慣れている、か。俺のシンシアに何度もそのような仕打ちをしたということだな。これはもはや、焼き払うだけでは済ませられん。直接手を下し、シンシア、君に頭を地面につけて謝罪させねばならん」
「あ、あの人たちが私に謝罪を?」
そんな姿が想像できずに茫然とする。
しかし、そんな私に、ブラッドフォード様は少しすねるような表情を見せる。
「ふうむ、どうやらまだ俺の言葉に半信半疑のようだ。シンシア、君に信頼される男になれるように、これから一生懸命尽くしていくつもりだ。だから、決して俺から離れないでくれ」
「ど、どうしてそこまでしてくれるのですか?」
思わず聞いてしまった。
すると、彼は改めて微笑みを浮かべると、
「言ったろう。君は俺だけのプリンセスだと。決して誰にも傷つけさせないし、触れさせない」
そう言うと、私をお姫様抱っこされたのだった。
「えっ!? へ?」
突然のことにびっくりする。
「ど、どうして、あの私は抱かれて……。それに湯浴みもしていないのでご不快な想いをされるかと……」
「そのレナードとかいう、たかだか吸血鬼種族の男がしたことを俺が出来ないのが気に喰わんだけだ」
無茶苦茶なことをおっしゃられる。
さすがに見かねたのか、嘆息しながら執事のユーイン様が口を挟む。
「王よ。気持ちは分かりますが、さすがにシンシア様もお恥ずかしいかと。まずは湯浴みをご希望されている模様でございますし」
「む、そうか? このまま屋敷を自ら案内するつもりだったのだがな……。それに、愛する女性ならば別に何日一緒にいても俺は構わぬが……」
「それは恥ずかしすぎて死んでしまいます!?」
思わず声を上げた。
「うーむ、そうか。シンシアが言うなら仕方ない。ではせめて浴場までのみ運ぶこととしよう。それくらいさせてもらわねば俺の気持ちがおさまらん」
そ、それでも恥ずかしすぎる!
でも、どうやらブラッドフォード様の目を見る限り本気のようだ。
(しかも、断ったら本当に、この広大な屋敷をお姫様抱っこのまま案内されてしまう気がする)
「わ、分かりました。では浴場までだけなら……」
「よしよし。さすがに俺以外の男に浴場までお姫様抱っこで運ばれた経験はないだろう?」
「あ、当たり前ですよ!」
「うんうん」
ブラッドフォード様はご機嫌な様子になり私を喜々としてお姫様抱っこのまま運んでいく。
どうやら、私の初めてを独占することが嬉しい様子だ。
改めて感じる。
(喰い殺される、と聞いていたのに、ずいぶん話が違う。一体どういうことなのでしょうか????)
本当に徹頭徹尾、頭の上にハテナマークの花が咲き乱れている。
そして、門から長い長い石畳を歩いていくと、やっと屋敷の入口が見えて来た。
すると、その入口の前に一列に並ぶ人たちが見えて来たのである。
ただ、その人数が異常だった。
(な、百人くらいいるんじゃないかしら? こ、これが全員、このお城で働いている方々なの?)
と、そんな疑問を表情に浮かべているのが分かったのか、私を見下ろしながら彼は言った。
「これはほんの一部だ。シンシア、君の世話係として任命した者たちだ。君の世話に命をかけるよう厳命してある。また、何か不便があればすぐに言って欲しい。最愛の君に不自由をさせるつもりはない」
「こ、これが一部!? えっ、それに、わ、私のお世話をするためだけですか!?」
さすがに唖然とする。
侯爵家では私のお世話をしてくれる使用人など一人もいなかったのだ。
それなのに、今、私を出迎えてくれる使用人だけで百人はいて、しかも、その数は、実は侯爵家の使用人の総数を超えているのだ。
「と、とんでもない所に来てしまった気がします」
「怖がることはない。皆、君の味方なんだからな」
「え?」
私は彼らの表情を見やる。すると、確かに全員が微笑みを浮かべて私たちの様子を見ていた。
「いきなりやって来た私を疎ましく思ったりはしないのでしょうか?」
「ん? そんな奴がいればすぐに自分がどれほど無謀な考えを持ったか思い知ることになるだけだ」
ゾクリとすることを言う。
すると、ユーイン様が肩をすくめながらフォローするように言った。
「王よ、言葉が足りません。それではシンシア様が怖がってしまいますよ。補足しますとですね、シンシア様。こうして我らドラゴン種族の頂点たる赤龍王ブラッドフォード・ヴァンドーム様に番が現れたということはこれほどない喜びなのです。ブラッドフォード様の喜びといったら想像を絶するほどでしたからね。そして、それは我らドラゴン種族の繁栄をももたらすことでしょう。我ら全員、あなた様の輿入れを歓迎致し、同時に不埒なる輩や敵からあなた様を守護しましょう。新たな龍の姫君よ、よくぞ、おいでくださいました」
そう言って、私に向かって深々と礼をする。
と同時に、数百人の使用人たちも同時に拍手をし始めた。
『ようこそ、シンシア様! 全ての外敵からシンシア様をお守り致します』
「あ、ありがとうございます」
私は呆気にとられながらも、何とか小さくお礼を言います。
すると、
「言っておくが、君を守る一番の騎士は王である俺だからな。それを忘れないでくれよ」
なぜか、使用人に張り合うようにして、ブラッドフォード様がおっしゃいました。
赤龍王ブラッドフォード・ヴァンドーム様。
最初は少し怖いと思っていましたが、こういう所で見せる所作はとても可愛らしい。
不敬だとは思いつつも、そんな感想を彼の胸に抱かれながら思ったのだった。
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